67 遭遇の理由
そんなわけで、光の教団教主と光の勇者による聖女同盟が締結した。
もう聖女と評していいのかわからないが、この二人は。
「だって! ハイネさん!」
つい先ほど教主に言いくるめられたばかりの勇者がズイと迫ってきた。
「これならみんなが幸せになれるんですよ! 私もヨリシロ様も、ハイネさんにフラれずに済むんです! こんな素晴らしいことはありません!」
そうだった。
カレンさんはやや社会観念に囚われないところがあるものの、基本皆の幸せを願っていて、だからこそ人々を守るために勇者になった。
二者択一を迫られて、「誰かを犠牲にしないと世界を救えないなら、両方とも救ってやる!」というのが勇者の基本スタンスだ。
今回もそのケース、……なのか?
「カレンさん、今後ともよろしくお願いしますわね」
とヨリシロ。
「はい! 二人で力を合わせて教団と人々を守っていきましょう!」
とカレンさん。
教主と勇者。教団の指導者と顔役。いわばキャプテンとエースと言うべきポジションの二人が固いきずなで結ばれるのはいいことだが。
しかしその触媒と言うべきものがよりにもよって……!
「それではカレンさんも、これからデートに加わりませんか?」
「えっ、いいんですか? せっかくハイネさんと二人きりなのに?」
「ハイネさんを愛する女同士で、抜け駆けは卑劣と言うものです。いついかなるときも、健やかなる時も病める時も、一緒にハイネさんに愛してもらいましょう」
「尊敬しますヨリシロ様! ……あ、でも私、これから予定が」
「よければそれにご一緒させてくださいな。それをデートの代わりにすればよろしいでしょう?」
「敬愛しますヨリシロ様!! 助かります。実は私も、ヨリシロ様やハイネさんに相談したいことがあったんです……!」
すっかり意気投合した女どもは、僕を置いてスタスタ進んでいってしまった。
取り残される僕。
嵐が通り過ぎていったような感覚だった。騒がしく、喧しい。
ここは図書館だというのに。静かにすべきところダントツのスポットだというのに。随分とお騒がせしてしまった。
周りを見渡すと案の定、利用者やら司書さんら皆様方の視線が、僕に向かって集中していた。
注目していても無言なのがまた辛い。
「……ええと、お騒がせして大変申し訳ありませんでした」
素直に頭を下げて謝る僕。
しかしその場からは、言葉にならずともこんな雰囲気が、空気に乗って僕に返ってきた。
――ギルティ? オア ノットギルティ?
――ギルティ!
「うるさくして本当にすみませんでした!!」
そっちじゃねーよ。
という雰囲気が伝わってきた。
* * *
そして僕は逃げるように二人の後を追って、合流。
どうやら本当にカレンさんの予定に乗っかるらしい。
「かまいませんよね、ハイネさん?」
「うん、まあ……」
一応僕に一言くれたものの。YES以外の答えは許されないようなこの状況。
まあ、このままヨリシロと二人きりでデートを進めるにしても、フラストから提供されたデートスポットはあらかた回り尽してしまったし、それでも帰るにはまだ早い時間だしで、手持ち無沙汰になりかねないところだったからな。
ちょうどよかった、と思うことにするか?
「カレンさんは、図書館に用があってきたんですか?」
「もちろんです。ここ最近通っているんですよ。調べものがありまして……。あっ、でもその……!」
「?」
広がりかけた話の腰を折って、カレンさんがモジモジしだす。
「……さっきのこと、聞き流さないでくださいね」
「さっき?」
「私が、ハイネさんのこと、好きだって話です! お返事は後々でもいいですけど、告白自体をなかったことにされるのは非常に困ります。普段使わない女の子の勇気をなけなし総動員したんですから!」
釘を刺されてしまった……!
たしかにヨリシロとの聖女同盟の流れに押されて、告白自体がおざなりになってしまったけど、女の子にとっては重大事だからなあ。
しかし場所が場所ですよカレンさん。
ここ図書館というこの上ない公共スペースで、衆人環視が極まってますし。
それさえなければカレンさんの熱意に負けて、このまま抱き絞めてしまいそうだが、ヨリシロもいて尚更そんなことできない。
カレンさん完璧に時と場所を間違えておりますけども、そんな中で告白を強行できるのは、勇者としての勇気なのか、それとも女の度胸なのか?
「とにかく、ハイネさんがお返事くれるまでこれから毎日『好き』って言いますから」
「素敵ですねソレ。わたくしもやりましょう」
ヨリシロまで乗っかってきた。
勘弁してください。
「で、話を戻しますけど、私が図書館に来た目的です。ヨリシロ様やハイネさんにもご意見を聞きたいところだったので、本当にちょうどよかったです」
僕やヨリシロに?
カレンさんは一体何を聞きたいのか、訝る僕らに彼女は言った。
「私は今、闇の神エントロピー様について調べていたんです!」




