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64 デート・ア・ライブ

 そして僕がヨリシロを連れ回したお勧めスポットの数々。

 喫茶店、ケーキ屋、お好み焼き屋、パスタ専門店、海鮮丼屋、ピザ屋。


「…………………………全部ご飯のお店ですわね」

「そうだね」


 これらデートスポットを紹介してくれたのは、厨房時代のマブダチだったフラストだ。

 僕が勇者補佐役に就任して厨房下働きを卒業してからも、アイツは同じ職場で頑張っている。

 そんなフラストの紹介してくれた店ことごとく飲食店って、本格的に心が料理人に染まりつつあるんじゃないかアイツ?

 これだけ多彩な料理店が一つ街に集うのも、エーテリアル文明発展の側面と見えなくもないが、さすがにこれだけの飯屋を回ると、もうお腹パンパンだ。

 僕などはともかく、同行のヨリシロは女の子だから胃も小さいし、そんなに入るはずもないのだが「ハイネさんが連れてきてくれたお店のゴハンを残すわけにはいきません」とすべて平らげやがって。途中でやめようとしても「ハイネさんが立ててくださったデートプランです。すべて回ります」などと抜かして結局全店制覇してしまった。


「大丈夫か!? ゴメンな! 無理して全部食べなくてもよかったのに!!」

「いいえ……! ウップッ。 ……問題ありませんわ。ハイネさんとの初デート。ウェッ。 今わたくし絶好調で……っぷ」


 ウソつけ今にも決壊しそうじゃねえか!?

 とにかくどこか休める場所を! 聖女様を街中で汚い噴水にするわけにはいかない!

 かといって喫茶店とかお決まりの休憩スポットはダメだ。今のヨリシロは紅茶一杯でも最後の一押しになって盛大に撒き散らす!

 まったく食い物の匂いがしないところで腰を落ち着けられる場所はないか!?


「……はっ、そうだ!」


 あそこだ。


              *    *    *


「……なるほど、図書館ですか」


 やっと落ち着きを取り戻したヨリシロが、まったり呟いた。

 そう、ここはアポロンシティ中心区画にある大図書館。読書のために落ち着いた雰囲気で、座れる場所も多い。

 フラストから得た情報の中で唯一、飲食店ではないスポットだ。「ただで座れるからお得だぜ」という適当極まりないお勧めの理由だったが、とにかく今は助かった。


「大丈夫か? まだ背中さするか?」

「いいえ、充分ですよ。やっぱりハイネさんは優しいですね」


 また無駄にポイントが加算された気がする。


「ですが、ここに来るのも久しぶりですね。最近は、何やかや忙しかったので」

「ん? ヨリシロって本好きなの?」

「そういうことではなくて。私も光の教団の教主ですから、公共施設に視察に訪れることはよくあります」


 ああ、そういう。


「最近は外交の方が忙しなくて視察や慰問が少なくなっていましたが……。知ってますハイネさん? ここアポロンシティの大図書館は、世界中でも最大規模を誇っていて敷地面積も蔵書量も世界一。アポロンシティに住む人々にとっての自慢なんですよ」

「ほう、そんなに大層な……」


 知識を大切にする。それは人間が人間らしいと言える要因の一つだ。

 その気持ちは、現代にもしっかり受け継がれているんだなあ。


「しかしその図書館を規模縮小しようという案が上がりまして」

「おい」

「光の教団の教義や歴史、そう言ったものを記した書籍以外に価値はないと言いまして。この図書館には他教団の事績を記したものや、エーテリアル関連の技術書も置いてあるのですが、『それこそ悪書だ、処分してしまえ』と……」

「なんだそりゃ? 自分にとって都合の悪いものは悪ってことか?」

「さすがにわたくしが止めて、焚書祭りは免れましたが。……今の光の教団は大体がそうなのです。自分たちだけが正しい、自分たちと同じでないものは劣っているか、あるいは悪なのだと」


 彼女は、二重の意味で光の教団の主だ。

 教主であるし、教団が崇める光の女神そのものでもある。

 そんな彼女がため息交じりに語るのだ。


「知ってますハイネさん? 今、光の教団の幹部席はほとんど世襲で占められているんですよ」

「えっ、そうなの?」

「わたくし自身、前教主の娘ですし、――だからこそ転生先さえ考えておけば教主になるのは簡単でしたが。それ以外の枢機卿、大神官、あと騎士団長も皆すべて決まった家系が歴任しています。……ハイネさんこれも知ってます? 騎士団に入る時に試験と称して、あらかじめ属性を計りましたわよね?」

「ああ、そんなこともあったな」

「今の騎士団長――ドッベさんの光の属性値がいくつかご存知?」

「えっ、まさか……!?」

「彼の家、ゼーベルフォン家もかれこれ二十代は光の教団幹部を輩出している名家ですから。光の教団上層部はそんな人たちばかり。長く頂点に居座って、吸い上げられる甘い蜜ばかり飲んで。その味に慣らされて他のものが食べられなくなってしまった。……あの方たちみたいに」


 ?


「だから彼らは、頂点から落ちることを何より怖がっているんです。そこ以外ではもう生きていけないから。その座を血族で固め、独占し、新しいものが入ることを頑なに拒んでいる。もし近寄って来れば、全力で排除するでしょうね」

「僕に対するみたいに?」

「ええ、それからカレンさんも。混じり気なしに実力が求められる勇者のポストだけは、世襲では担えません」


 組織の腐敗ってヤツか。

 たしかに集団は長く続けば腐っていくものだ。どんなものでも流れを失えば淀み、濁って、変質していく。

 そのために度々は改革者が出て風穴を開け、中身を新しいものに入れ替えていくものだが……。


「お前はそういうのやらないのか?」

「そういうの、とは?」

「改革。せっかく教主なんて位置にいるんだし、それに光の女神としての知恵知識を合わせれば、旧勢力の一掃なんて簡単だろう?」


 見たところ、そうした光の教団の腐敗状況をよからず思っているようだし。

 するとヨリシロは、寂しげに微笑んで。


「ハイネさん、優秀すぎる指導者は、却って集団の害になることもありますのよ?」


 そう言ったヨリシロの横顔は、相変わらず美しいが、どこか何百年と生きた老婆のようにも見えた。


「すみません、そこのお二人」


 話を続けようとしたら、後から誰かに呼びかけられた。


「図書館ではお静かに願います。他の利用者の迷惑になりますので」

「ああっ、すみません……!」


 たしかに図書館は長々お喋りする場所じゃないな。

 謝ろうととっさに振り返った時、僕の全身は凍った。

 何故なら、僕らの背後から注意してきたその人物は……。


「ごきげんようハイネさん、こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」


 光の勇者カレンさんだったからだ。

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