05 僕は故郷を得た
こうして僕ことクロミヤ=ハイネ、光の教団への入団が決まりました。
周囲からは村を救うための犠牲的精神として賞賛を得たが、僕自身他にも理由がないではない。
それは、世界を見てくることだ。
千六百年前に神々によって繰り広げられた戦争。それに勝った五大神は、敗者である僕=闇の神を封じ込め、この世界を自分たちの好きなように作り変えたはず。
実際光の女神インフレーションは自分を信奉する教団なんか作ったらしいし、他の連中も同じ事やってる可能性が大いにある。
僕が不在の間、ヤツらが人間にどの程度の介入を行ってきたのか。
それを本格的に調べ上げに行くのだ。度を超えるようなことがあればそれを正すのは、同じ神たる僕の役目になる。
本当なら、それはもっと早くに始動すべきものだった。元々僕が人間に転生した目的の一つはそれだったのだから。
それなのに十八歳になるまで延び延びになってしまったのには、理由があった。
それは…………。
* * *
「ハイネ。本当に、本当に行ってしまうの?」
出発の時、母さんは名残惜しそうに僕の手を掴んで、なかなか離そうとしなかった。
僕も、その手を振りほどくことができずに、そのままにしている。
「もういいだろう、ハイネを行かせてあげなさい」
「でもあなた、ハイネはこの村を出たことが一度もないんですよ。狩りに出ても、三日と開けずに帰ってきてくれたのに、都会に行ってしまったら、今度はいつ会えるか……」
体の弱い母さんに付き添えなくなるのは僕も心配だった。
むしろ母さんの方が僕のことを心配して、そのせいで体調を悪くしてしまうことがあるから、僕もできることなら離れたくなかった。
覚悟はしていたが、想像以上に辛い別れだ。
そんな僕と母さんの繋がれた手を、父さんがそっと引き離した。
「ハイネは男だ。いつかは世に出て、自分の値打ちを確かめる時が来る。今日、それがやってきたんだ。お前も母親なら、ハイネの門出を祝ってあげなさい。…………ハイネ」
「はい、父さん」
「お前は覚えていないだろうが、お前が一歳の時、突然家からいなくなったことがあった。私も母さんも必死になって探したが、夜になっても見つからず、もう絶望だと思っていた」
「…………」
「しかし夜が明けた頃、お前はひょっこり帰ってきた。自分で家までな。まるで散歩を終えて帰ってきたと言わんばかりに。母さんはあれからひどく心配性になったが、逆に私は感心してしまったんだ。一歳でこんな大冒険ができるなんて、大人になったらどんなデカいことをやってのけるんだろうと」
父さんは、両手を僕の肩に乗せる。
「私と母さんのことなら心配するな。お前はこんな小さな村で一生を終える男じゃない。世界を見て来い。今回のことは、そのためのちょうどいい機会だと思え」
そう言って父さんは、僕のことを両腕で抱き絞めた。
闇の神の魂にとっては、地上に降臨するためにたまたま選んだ肉体の、仮の血縁者。
しかし今の僕にとって、この人たちは間違いなく僕の両親だった。
今日までの十八年、愛情を注ぎ、色々なことを教えて、育ててくれた。
この人たちとの絆が仮のものであるなんて、僕自身がそんなこと思えない。
「父さん、母さん、愛してるよ」
父さんに次いで母さんとも抱きしめ合い、そして僕は生まれて初めて、この人たちのいない世界へと旅立つ。
その時僕は、改めて知った。
僕は闇の神の魂を受け継いで生じた者だが、それ以前に人間、クロミヤ=ハイネであると。
以降、一日おきに一~二話掲載予定です。
楽しんで読んでいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。