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57 トリニティ

「津波が起きる……! しかも大津波よ!!」


 一方、陸から離れた戦場にも緊急事態は伝わっていた。我が分身たる黒巨人を通して、彼女たちの緊迫がわかる。

 真っ先に気づいたのは、やはり地元民であるシルティスだった。


「あのデカウミヘビが海水を引き寄せまくっている……! 限界まで溜めこんだ後、大波にして陸地に叩きつけるつもりだわ!」

「マジか!? あのウミヘビ、急に動かなくなったと思ったら、そんな悪辣なマネを!?」

「驚いてる場合じゃないよ! それならヤツがチャージを終える前に絶対倒さないと! ミラクちゃん、雷行くよ!!」

「よし来い!」

「「『火光……」」

「待って!」


 今にも雷撃を放とうとする二人を、シルティスが止めた。


「ちょっと待って。……今の時点で倒しても、相当ヤバいかもしれない」

「えっ? なんで?」

「アイツは既に結構な海水を集め終えている。ヤツを倒したからって、その海水がどこかに消えるわけじゃない。それを引き寄せている神力が消えたら、元あった場所に戻るだけ、それ相応の勢いをつけて……!」

「弓矢の弓と同じわけか。一度引っ張れば、勢いをつけて戻る以外にない。アイツはもう既に相当量の海水を自分の周囲に引きつけている。これでは……!」

「じゃあもう倒しても倒さなくても津波は起きるってこと!?」


 カレンさんの悲鳴のような問いかけに、シルティスは唇をかむ。


「そりゃあ、水を溜め終える前に倒せれば、それだけ津波の規模を小さくできる。でも、あの水の量。もう既に沿岸部は全滅レベルになってる……!」

「そんな……!」


 ヒュドラサーペントの周囲は、それこそ重力を無視して海水が山のように盛り上がり、解放の時を今や遅しと待ち構えている。

 大海竜本体はその頂上に座し、今や高みから人々を見下すかのようだ


「とにかく攻撃するんだ! 一刻一刻遅れれば、それだけ被害は大きくなるのだぞ!!」

「待ってミラクちゃん! 何か方法を……! 津波を完全に封じ込める……!」


 勇者たちも混乱の極にある。

 すべての人々を助けたいと思うのは勇者として当然。しかし状況がそれを許さない。最善を追い求めて時を無駄にすれば最悪が訪れる。

 ここまで判断の難しい状況はないだろう。

 しかしそういう時だからこそ、お前の出番だ!


「あっ!」

「どうしたカレン!?」

「黒の……、闇の巨人さんが……!」


 闇の神たる僕の手で生み出された世界唯一の闇属性モンスター。漆黒の巨人よ。

 もう一度だけ彼女らを助けろ。彼女たちを完全勝利へと渡す橋になれ。


 ダークマター・セット。


 僕の指令と共に黒巨人の両手から真っ黒い粒子が放たれ、しかもそれは左右に大きく広がっていく。


「これは……、ハイネさんと同じ……!?」


 暗黒物質の堤防が、大海竜の面前に大きく築かれた。

 その形は、敵を囲むように半円状。

 たとえ津波が起きても、被害をこの中に封じ込める。


「今よ! やろうミラクちゃん! シルティスさん!」

「もう、ますます何だかわからないけど乗るっきゃないわよね! このビッグウェーブに!!」

「止めるんだろうビッグウェーブを!?」


 口火を切って、シルティスが水絹モーセを振り乱す。


「いいえ波を起こすのよ! 『水の激情』!!」


 シルティスの神力に反応して、彼女の周りにも海水が集まりだす。大海竜のそれよりは遥かに少量だが、ちょっとした波を起こすには充分な……。


「二人とも掴まって! コイツであのデカウツボのところまで駆け上がるわよ!!」

「マジか! ホントに波乗りか!」

「シルティスさん凄い!」


 ミラクもカレンさんもすぐさまシルティスの腰やら肩やらにしがみつくと、


「発進!」


 すぐさま波が三人を乗せて走る。


「オイ! ところであの黒巨人が張った黒壁はどう越えるんだ!?」

「心配御無用!」


 シルティスの思惑を察して、僕は遠隔操作で黒巨神の体勢を前のめりに傾げる。さながら坂道のように。


「よっしゃいっけーッ!!」


 シルティスたちは波ごと黒巨人のふくらはぎに乗り、背中まで駆け上って、頭から飛んだ。

 まるでジャンプ台のように。

 その勢いは想像以上で、三人は暗黒物質の堤防を容易く飛び越え、水山の頂上に鎮座した大海竜よりもさらに上へ飛ぶ。

 あとは落ちるだけで、敵の真上に到着だ。


「さあここからどうする!? よく考えたらあのデカブツ倒すってだけでも至難の業よ!」

「狙うところはわかっています! あの海竜の八本の首の付け根、全部の中心です!」

「なるほどたしかに急所っぽいな! そしてどう攻める!? 破壊力ならオレとカレンの『雷』か、それともシルティスとの『爆』か……!?」

「全部です」


 落下しながらカレンさんは言い切った。


「あの巨大モンスターを倒すには、今ある全部の力を合わせなきゃダメです。光、火、水。その全部を!」

「三種複合属性!? カレンちゃん想像以上にロックねー!! 気に入ったわ! この戦いが終わったらコラボしましょう! あの海上ステージでね!」

「カレンを変な道に引き込むな! だが作戦は了承した! 出たとこ勝負だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!!」


 一つ塊になった三人の少女が、落下して、目標へと激突した時、輝きがすべてを包み込んだ。


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