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55 コンバインドメドレー

「ちょっとちょっと! 何それ!?」


 シルティスも明快な驚きの声を上げる。


「光と火が合わさって新しい属性になった!? そんなことできるの!? アタシ聞いてないよそれ新企画じゃん!」

「新企画言うな。オレとカレンの心二つが重なって初めて可能となった新境地だ」


 ミラクがあからさまに自慢げだ。

 さらにカレンさんが言う。


「光と火が合わさった『雷』属性は、元々の二属性の欠点を廃し、長所を併せもちます。本来、火属性に対して圧倒的優越性のある水属性モンスターにあれだけ効果覿面なのを見ても明らかです」

「凄い凄い! 強いし絵的にも派手だし、女の子が二人手を合わさる構図も耽美でよろしゅうございますわ!! アタシもやりたい! やったら人気が上がる気がする!!」

「はぁッッッ!?」


 シルティスの突拍子もない発言に、露骨に顔をしかめたのはミラクだ。


「この単細胞アイドル脳。客受けがいいかどうかだけを判断基準にするな。複合属性はな、二人の心が完璧に重なり合わなければ神力も混じり合わん。オレとカレンのように付き合い古く、互いを最高まで理解しあえなければ……!」

「元々仲悪かったアンタらができるんならアタシにだってできるっしょー! 任せて! ダンスは相手のリズムに合わせて踊るの得意なんだから!」


 シルティスは勢いのままに、手近にいたカレンと手を繋ぐ。


「んなーーーーーッ!?」


 それを見て嫉妬の炎に燃えるミラク。


「心を合わせないといけないんなら、体ももっと全面的にくっ付いた方がいいかな……? こう、腕を腰に回して、胸と胸も合わせて、……あらぁカレンさん? アナタも結構大きいんじゃありませんこと?」

「だから言ったでしょう、私の勝ちだって」


 カレンさんもまんざらではないようだ。

 驚いたことに、二人の神力がみるみる混じり合っていくのがわかる。

 聖剣サンジョルジュと水絹モーセ。二つの神具から増幅された神気が、二人の繋いだ手に伝わって混ざり合う。


 しかし、その間敵だって黙っていない。

 度重なる雷光攻撃に業を煮やしたヒュドラサーペントは、これまで黒巨人に注がれていた敵意の一部を割いて、勇者たちに襲い掛かる。

 八つある首のうちの三本が、黒巨人の体に巻き付くのをやめて解かれた。それが各々勇者たちに襲い掛かる。


「マズい! カレン! その他! 逃げろ!!」


 ミラクが叫ぶも、技に集中する二人は回避に間に合わない。


「水面きらめくさざ波の、千々に砕けし光の粒よ」

「虚空に鏡を作り出し、敵を惑わせ」

「「『ミラージュ』!!」」


 直撃、したかと思った。

 襲いくる大海竜の大顎は、重なり合うカレンさんとシルティスを噛み砕いたかと思った。しかし違った。噛み砕いたようで空を切った。

 大海竜の上顎と下顎に挟まれたかに見えた二人は、その寸前に霞のように掻き消えて、海竜は文字通り空気を噛んだだけだった。


「はあっ!? 何が起こった!?」


 その現象に、間近で見ていたミラクも混乱する。

 しかもその現象にはまだ続きがあった。敵である大海竜、その周りに何十人ものカレンさんとシルティスが現れ、包囲する。

 当然大海竜はそれに反応して片っ端から噛みつきにかかるが、どれも空を切るだけで、二人の虚像は掻き消えてしまう。

 そう、虚像だ。


「水の中で光は真っ直ぐには進めず、濁ったり乱反射したりして、ありもしないものをあるように見せる」

「光と水の複合属性は、その特性を極限化させた『幻』。空気中に投影されたニセモノの私たちから、本物を見抜けますか!?」


 何十という実体なき鏡像に、大海竜はすっかり翻弄される。

 その巨大な顎で噛んでも噛んでも感じられない手応えに、ついには気が短くなって、さらに首を巨人から解く。

 増やした首で幻影を一掃する狙いだろうが、巻き付く首が減れば、当然黒巨人だって自由の身になる。

 早速動くようになった足で、大海竜の首の一本を思い切り蹴っ飛ばす。


「ミ゛ャオォォォォォーーーーーーーーーーーッッッ!?」


 派手に上がる水飛沫。


「わぁうド迫力! やっぱ頼りになるじゃん黒い人!」

「カレン! この浮気者! オレを差し置いて他の女と複合するなんて、複合できれば誰でもいいのか!?」

「こっちの人もブレないなあ……」


 カレンさん、シルティスによる幻惑をきっかけに、ペースは完全に彼女たちのものになった。


「オイ、この泥棒猫! こうなったらオレとお前でもやるぞ! お前のことをオレとカレンの共有装備ってことにすれば何とか心の均衡はもつ!」

「アタシは備品か!? まあいいわ、男女にハグ!」


 ミラクに向かって飛びかかり気味に抱きつくシルティス。

 火の属性と水の属性。これまででもっとも相反する属性が合わさって起きる現象は……。


「「『水蒸気爆破』ッ!!」」


 凄まじい空気の膨張が、轟音と共に大海竜の首の一つを吹っ飛ばす。木っ端微塵とまではいかないが、かなりのダメージは確実だ。


「なるほど……。火の神力で沸騰した水の神力が、水蒸気として急速に膨張した。その勢いは大海竜をも吹き飛ばす。……つまりは『爆』属性というわけか」

「アラ嫌だわぁ、荒くれの火属性と合わさったら、アタシの上品な水属性もこんなに凶暴になっちゃうのね?」

「お前の惰弱な水属性を、我が火属性が豪壮にしてやっているのだ」


 何にしろ複合属性攻撃は、予想以上の効果を上げて大海竜をジワジワ追い詰めていく。

 思いがけない優勢だった。

 我が黒巨人が、敵を抑えているという点もあったが、それに助けられて連発する勇者たちの攻撃はまさに怒涛。

 しかも過去類を見ない複合属性攻撃のオンパレード。

 史上初のものばかりで溢れかえった戦場に、会場の観客たちも最高のさらに上を越えて熱狂した。

 もはや観客席に、モンスターへの恐怖を持つ者は一人としていなかった。

 あるのはただ、勇者たちへの興奮と賞賛ばかりだ。


 図らずも、お前の描いたシナリオ通りになったな。

 水の神コアセルベート。

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