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53 黒い守護者

「なな、なんだアレは……!?」


 突然の別モンスター乱入に、もっとも驚愕したのはコアセルベートだった。

 それはそうだろう。ここまで完璧にヤツの筋書き通りに進みながら、突如としてのアクシデント。しかも、すべてをブチ壊すレベルの。


「ハイネさん! アナタの仕業ですか!?」

「僕は動いてませーん、参戦してませーん」

「屁理屈を! 私の神なる部分で感知すればわかります。あの黒い巨人は闇の神気の塊。つまりあれは闇属性モンスター。それを生み出せるのは闇の神たるアナタだけではないですか!?」

「声がデカいぞ。周りに聞こえる」


 しかし周囲にいる人たちは海上の勇者たちと大海竜、そして謎の黒巨人に注意が釘付けで、他人の話など耳に入らないようだった。

 そう、昨晩コアセルベートとの密談が終わってから、すぐに行動を開始した僕は、カレンさんの小型飛空機を失敬して光都アポロンシティへとんぼ返り、深夜で熟睡していたヨリシロを叩き起こして尋ねたのだ。


『モンスターはどうすれば作り出せる?』と。


 ヨリシロは光の女神インフレーションの転生者。

 僕は千六百年間封印されていたためモンスターの作り方など知らず、聞く相手がアイツしかいなかった。

 ムスッペルハイムにドナドナされた炎牛ファラリス――、火の神ノヴァもいるにはいるが、アイツから聞き出すのは色々面倒そうだ。

 よってヨリシロ頼みとなった。

 アイツは一身上の都合なのか五大神の中で唯一モンスターを作っていない。なので不安なところがあったが、まあ何とかなった。

 そして聞いたばかりの製法で、大急ぎで作ったのがあの巨人だ。

 初めてにしてはよくできた。


「まさか、こんな方法で私のシナリオを邪魔してくるなど……!?」

「奸智の神の裏をかけたんなら大金星かな?」


 モンスターは、人間を襲うだけの疑似生命ではない。

 アイツらがどう動くかは、創造主たる神の命令次第なのだ。

 僕はあの黒巨人に「ヒュドラサーペントを倒せ、人間は襲うな」と命令したが、アイツはそれを忠実に守って、今、大海竜に戦いを挑む。


 巨大モンスターvs巨大モンスター。

 その争いは遠く離れたここから見てもド迫力だ。

 黒巨神は、その巨体を活かして大海竜の八つあるうちの二つを、両腕で鷲掴みし、力任せに引き千切ろうとする。

 その攻撃が効いているのだろう。大海竜はもがき苦しむように残り六本の首を黒巨人に巻き付けて、さらに牙を突き立てる。

 その傷口から血の代わりに、漆黒の闇の神気が噴き出す。


「……どうやら、モンスターとしての強さは、我がヒュドラサーペントの方が上ですなあ?」


 コアセルベートのヤツがホッとした口調で言う。


「当然ですな。モンスターの制作にはそれなりの時間と労力が必要なのです。あの単細胞のノヴァさんは、自身の入れ物とするために炎牛ファラリスを十年かけて設計し、完成してからも成長を待つのに一年かけたそうです。私のヒュドラサーペントとて、それなりに時間をかけて作りましたよ?」


 ヤツの言いたいことはわかる。

 僕の作った黒巨人は一夜漬けの急ごしらえ。


「それでも短時間で、あそこまで形になるものを作り上げるとは。さすが六神の中でも四元素の上に立つ二極のお一人といえましょう。ですが少々拙速すぎましたかな? アナタの即席品では私の傑作には勝てないようですぞ」


 コアセルベートの言う通り、海竜たちの牙がますます深く食い込み、黒巨人から闇の神力が噴出する。

 そのまま噛み千切られそうな勢いだ。


「滑稽な悪あがきありがとうございますハイネさん。無様で見ものでしたよ。あの即席品が倒れれば、すぐにでも小娘たちを……?」

「アイツの役目は、大海竜を倒すことじゃない」


 僕の言葉にコアセルベート、訝しげに得意語りを止める。

 即席モンスターであの大海竜を倒せないのは百も承知。

 でもそれでいい、アイツで大海竜は倒さない、倒してはいけない。

 何故ならそれは、最初から誰の仕事か決まっているからだ。


             *    *    *


 黒い巨人の感覚器官を通じて、離れた戦場での会話が僕にも聞こえてくる。


「おい、どうするんだこれ……!?」

「モンスターとモンスターが戦ってる? 仲間割れ?」


 モンスターの直近で迎え撃つかまえだったカレンさん、ミラク、シルティスの三人は、予想外の事態に呆然とするばかり。


「本当にどうすればいいんだ!? モンスター同士の争いなど見たことも聞いたこともないぞ!? どう対処すればいい!?」

「両方まとめて攻撃する……? イヤ、どちらか一体でも私たちで勝てるかどうか怪しい巨大モンスター。下手に刺激して両方の敵意がこっちに向く恐れもある。ここは静観して両方が疲弊するのを待って……」


 皆が戸惑い、次の行動を決めかねている最中だった。


「『聖光斬』!!」


 放たれる光の斬撃が、大海竜の首の一つに直撃した。いきなり切断とまではいかないが、刀傷から水の神気が噴き上がる。


「海竜の方を攻撃してください!!」


 聖剣サンジョルジュを掲げてカレンさんが言い放つ。


「カレンちゃん!?」

「大海竜を攻撃!? ではあの黒い巨人はどうするんだ!? 後回しにするのか!?」

「黒い方は味方です!」

「「はあッ!?」」


 カレンさんの発言に他二人が振り回されている。


「何を言ってるんだカレン!? モンスターが味方だと!? 混乱攻撃でも受けたか!?」

「モンスターが同士討ちすること自体前代未聞だけど、モンスターが人間の味方をするなんてもっとないわ!! しっかりしなさいよ光の勇者! やっぱりここは一度後退して……!」

「いいえ!!」


 カレンさんの一喝。


「私にはわかります。あの黒い巨人は多分、私たちが知ってるどの常識にも当てはまらない。あの子はきっと……闇属性のモンスターだから!!」

「闇属性ッ!?」「はあッ、何それ!?」


 真実を言い当てたカレンさん、それへの反応は各々違っていた。

 既に隠された創世神、闇の神エントロピーの名を知っているミラクと、そんなことないシルティス。


「……なるほど、それは興味深いな。詳しく調べるためにはたしかにあのウネウネウツボは邪魔だ」

「ミラクまで!? 何なのよその心通じ合った感! でもなんかその方が観客受けよさそうだからアタシもそうする!」


 そう、モンスターを倒すのはモンスターの仕事じゃない。

 モンスターを倒すのは、勇者の仕事だ。


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