表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/434

52 戦いのアンサンブル

「『水の祝福』!」


 シルティスが水絹モーセをはためかせ、カレンさんとミラクに何かしらの神力効果を付与させる。


「さあ、これで水面の上でも歩行可能よ! あのタコみてーな海竜の間近まで直接行って殴れるわ!」

「水の神力による加護効果。一度この身で体験してみたいと思っていたが、まさか実現する日が来るとはな」

「シルティスさん。タコは八本足で、あの海竜は頭が八つですよ」

「ツッコミ細かいわよ!!」


 こうして三人は波を蹴って水面を駆けながら大海竜へと迫る。

 対して大海竜ヒュドラサーペントは、既に主からの命令を受けて眠りから覚め、本性であろう凶暴さを惜しげもなく晒している。

 外見に似合わず声の高い雄叫びが、波に乗って四方八方へ轟き渡る。


「ミラクちゃん、これって……!?」

「ああ、少なくともデカさの一点で炎牛ファラリス並。恐らく強さも、それクラスだ……!!」


 接近すればするほど、彼女らはその大きさに圧倒される。無理もないことだろう。

 大海竜は、己が八つ首をそれぞれに、三つの小さな獲物へ向ける。一人に付き二つの首を向けてもまだ余る。


「うっひゃ~……! こんな大きな相手初めてかも……!?」

「そいつはお前の場数不足だなシルティス。私たちは経験あるぞ、つい最近な!」


 一方、会場は予想外のアクシデントに騒然。係員は盛んに避難を勧めるが、それに従って席を立とうとする観客は誰一人いなかった。

 皆信じているのだ。この危機を、自分たちの勇者が打ち砕いてくれると。何たる偶然かこの場には他の勇者が二人まで居合わせている。

 三人もの勇者が揃ってしりぞけられない脅威があるか? と。

 やはり勇者とは、この世界の人々にとって希望そのものなのだ。


「希望がすり潰される絶望。その絶望一色に染まった人々の表情も、なかなか楽しい娯楽とは思いませんか?」


 コアセルベート――、今は人間に化けたヤツは、主役が飛び立って無人となったステージに上がり、遠く大海原で始まろうとする戦いを眺める。

 ステージに上がること自体はもう問題なかった。ライブは実質中止になったようなもので、観客たちの視線は別の方へと向けられる。

 ヤツの他にもライブ関係者が何人もステージ上まで出て、これから始まる戦いを固唾を飲んで見守ろうとしていた。

 僕もその中に混じっていた。


「この緊張感。直接肌で感じて確信します。これは最高のショーになります。イヤ、処刑ショーですか? 光と火の勇者のね?」

「…………」

「ハイネさん。重ねて言いますが動かないようにお願いしますよ? アナタが飛び出してはすべてが台無しになってしまうでしょうから。ハイドラヴィレッジの街もね」

「ああ、わかってるよ。僕は動かない」


 僕はな。

 海上では、ひとまず睨み合いの膠着状態。しかしこれは始まる前の静けさで、ひとたびスタートの掛け声が上がれば、途中停止のない怒涛の戦いが始まる。


「……ミラクちゃん、大丈夫? 相手はどう見ても水属性だけど……?」

「火属性のオレと相性は最悪、か? どうということはない。一点集中で焼き魚にしてくれる!」

「気合だけで解決しようとしないでよー。とにかく万能光属性のカレンちゃんを切り札に、アタシがディフェンスを兼ねた前衛を務めるわ。役立たずのミラクは、あのやたらウジャウジャいる頭の注意を分散するためにアチコチ動き回って、囮役に徹して。以上!」

「やたら的確な指示出すな真面目か!?」

「なんで真面目にやってキレられるのよ!?」


 しかし彼女たちも心の底ではわかっているのだろう。

 自分たち三人が完全に力を合わせたとしても、あの大海竜を撃退するのは並大抵のことではないと。

 奇跡の一つでも起きるか、みずからの命を引き換えにするか。

 彼女たちは既に、心の中で覚悟を固めつつあるのかもしれない。

 その姿を、僕はステージ上から見守った。見守ることしかできなかった。

 僕が参戦すれば、水の神コアセルベートはすぐさま本性を現し、手近な人から滅茶苦茶に殺しまくるだろう。


「僕は、動かない……!」


 そう、僕は。

 僕の代わりに動いてくれ。


「闇の守り人よ……!!」


 ドゴンッ!

 という打撃音が戦いの合図となった。

 それは何者かが大海竜を殴った音だった。しかも猛烈に巨大な拳によるパンチ。それをくらって、海竜の八つ首のうちの一つが水中に沈みこむ。


「えっ!?」「なっ!?」「何ッ……!?」


 そのパンチを繰り出したのはカレンさんでも、ミラクでも、シルティスでもなかった。

 彼女たちよりも遥かに大きな体の、何者かが拳を繰り出した。

 海竜の背後にそびえ立つ、大きな影。


「なんだ……、あの黒い巨人は!?」

「アレもモンスターなの!?」


 そう、黒い巨人。

 あの大海竜に勝るとも劣らぬ巨体で、海竜もろともカレンさんたちを見下ろしている。

 そしてその体は黒。黒一色。

 体すベてを闇の黒色で覆われた、その巨人は、僕が昨晩突貫作業で作り出した、この世界で初めての……。


 闇属性モンスターだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ