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04 勇者登場

「勇者殿……! 勇者殿!」


 腰を抜かさんばかりに動揺していた小隊長が、俄かに奮い立つ。


「この村人が我々に抵抗を! 光の教団に背いたのです! 速やかなる神罰を!」


 本当ならアイツの顔面に突き刺さるはずの拳は、突如として乱入してきた少女の盾によって防がれた。

 着ている鎧の意匠から、この村を荒らす騎士どもと同じ所属であることはわかる。

 年齢は僕と同じか、少し下くらい?


「ベサージュ小隊長……」


 少女が、小隊長へと向き直る。


「何故、勝手に進発したのです? 私が第七募集隊の様子を見て、戻ってくるまで待機するよう言ったではないですか」

「それは……、その、それは……!」


 何やら揉めているご様子。


「その上、この村の雰囲気は何です? まるで占領されているみたい。ベサージュ小隊長、アナタはここで一体何をしようとしているのですか?」

「それは、あの、我ら極光騎士団の新隊員を集めるために……」


 まるで悪戯を叱られる子供のように消え入りそうな声の小隊長さん。

 そんな彼に付き合いきれなくなったのか、少女は、今度は僕の方を向く。


「この村の方ですね?」

「え? は、はい……」


 礼儀正しい態度なので、こちらも思わず対応してしまう。

 周囲にいる他の騎士たちも、その騎士たちによって外に集められた村人たちも、その少女の動向に注目して自分からは動けない。


「申し訳ありません」


 と、少女は深々と僕へ頭を下げた。

 謝罪らしい。というか完璧に謝罪だった。


「我が教団の者がアナタたちの村にご迷惑をおかけしたこと、心からお詫び申し上げます。村の皆様の生活を乱さぬようきつく言っておいたのですが、このような結果になったこと、すべて私の不徳の致すところです」

「えっ、あの」

「騎士たちには即刻、武器を収めさせます。村の方々の安全と自由は、私の名誉にかけて保証します。その上でどうか、私の話を聞いてくださいますでしょうか?」


 という間も、少女は頭を深く下げ、僕からは後頭部しか見ることができなかった。

 綺麗な髪の毛だなあ、とか思ったがそんなことを考えている場合じゃなく。


 周囲を見渡すと、少女の言葉に呼応してか他の騎士たちも剣を鞘に収め、槍を置き、謝罪するかのように首を垂れる。

 これで当面、危険は去ったと考えるべきだろうが、しかしこの騎士たちそのものは去る気は毛頭ないらしい。


 話を聞くまではテコでも動かない、と言わんばかりだ。


「ハイネ」「ハイネ……!」


 母さんが、父さんを伴ってこちらへやってくる。

 僕は思い溜息を一つ吐いた。


 結局話を聞いてやることになった。


「私たちは、ここより遠く里離れた光都より来ました光の教団の者です」

「光の教団?」

「はい、創世の五大神の一柱、光の女神インフレーション様を信奉する教団です」


 創世の五大神。

 それはこの世界を作り出したとされる五人の神のことだ。

 光の女神インフレーションを筆頭に、火の神、風の神、水の神、地母神。

 闇の神だったことのある僕としては、僕のことを封じた憎きヤツらで知った名だ。

 しかし地上の人々にとっては信仰の対象なのか。

 まあ当然か。神だもの。


「そして私は、光の教団を代表する光の勇者、コーリーン=カレン」


 勇者というのは、聞き慣れない呼び名だ。

 闇の神だった頃の記憶をたどっても、そういう呼び名があったとは知らない。


「で、そんな光の教団やら勇者様やらが、こんな田舎に何の用なんですか?」


 話の流れ上、村の代表者とならざるを得なくなった僕は、勇者カレンさんに尋ねる。


「私たちは今、新しい騎士を探しているのです」

「騎士?」

「はい、光の教団の一機関である極光騎士団は、人手不足に悩まされています。光の女神様を信奉する罪なき人々守るために、まだまだ騎士の数が足りないのです」


 それを聞いて、先ほどあの偉そうな小隊長がわめき散らしていた『村人を全員集めろ! 十代二十代の若者は特にだ!』というセリフに合点が入った。


「ですが、あくまで募集です! みずから希望する人だけを騎士団に迎え入れるため、私たちは各地の町や村を周っているところだったのです」

「でも、ここに来た騎士の人たちは明らかに違いますよね? 募集どころか強制的に、この村の若者を連れ去ろうとする雰囲気だった。それを指揮したのは……」


 僕とカレンさんの視線が、同じ方へ向かった。

 たしかベサージュ小隊長だったか。


「し、仕方ないのです!」


 この期に及んでベサージュ小隊長とやらは言い訳めいたことを喚き始めた。


「この際言わせていただきますが、勇者殿は悠長に過ぎます! 募集などと手ぬるいことをせず、ここら一帯すべての戦える人間を集め、極光騎士団をできる限りに強化すべきです!」

「そのために、この村の若者を徴集しようとしたと?」

「そうだ、『募集』ではなく『徴集』だ!」


 僕の入れたツッコミに、ベサージュ小隊長は噛みつき返す。


「ハイネさん」


 カレンさんも口を挟む。


「ベサージュ小隊長のやり方が強引であることは私も認めます。しかし間この世界は五大神の恩寵が薄れ始め、モンスターが跋扈し、それと対峙するためにも人はまとまらなければいけないのです」


 カレンさんまで、そんな。


「もちろん強制ではありません。ですが私はアナタたちに、世界を守るために一緒に戦ってほしいと、お願いしなければいけないのです。……どうか!」


 カレンさんは再び、僕から後頭部が丸見えになるくらい深く頭を下げた。

 今度は謝罪の礼ではなくお願いの礼。

 それは僕だけでなく、村人全員に向けられたものだったが、人々から彼女に返ってくるのは動揺だけだった。


 無理もない。

 カレンさんの誠意は嫌というほど伝わってくるが、村の人たちにだって生活がある。十代~二十代、いわば最高の働き手を連れていかれるなんて迷惑千万の話だ。

 恐らく入団希望者なんて出てこないだろうし、しかしカレンさん側も誰かが手を挙げない限りテコでも動かないという雰囲気を出している。

 ヘタをしたら、再び騎士たちが激発して人間狩りに、ということにもなりかねない。


「………………わかりました」


 溜息をつきながら僕は前に進み出る。

「ハイネ!」と声が上がった。母さんの声で、その声に一瞬だけ胸が張り裂ける思いがした。


「僕が行きます。だからアナタたちも僕一人だけで満足してください。他の村人たちには一切勧誘も、もちろん危害も加えないこと。それが入団の条件です」

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