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47 水魔神

 そしてヤツは、僕の目の前でみるみる形を変えていった。

 手足が異様に伸び、体中の表面からウロコが浮かび上がり、非常にねっとりとしている。

 重なり合うウロコとウロコの隙間から、粘液めいたものが漏れ出し、トロリトロリと落ちて床を汚した。

 明らかに人間ではない。どちらかというと半魚人。つまりモンスター。


「お前……、ノヴァ組の方だったのか?」


 火属性モンスター、炎牛ファラリスに転生した火の神ノヴァを思い出したのでこう言った。


「彼の選択は、非常に安直で粗雑なものでした。しかし私がこの体をクリエイトしたのは、より遠大な計画のため。モンスターは歪な生物ですから時の経過は関係ありませんし、この体は老若男女どのような外見でも変化可能な機能を搭載したようです?」


 とヌメヌメした異形を披露するコアセルベート――、水魔メフィストフェレス。


「おかげで私、この体でもう百年ほど地上に居続けております。もっと長いかもしれませんね?」


 つまりコイツはモンスターの体で老いることなく死ぬことなく、何世代にも渡って裏から水の勇者に関わってきたというのか。水の教団にも。


「神もそれだけ必死ということかもしれませんね? 何せ我が教団の規模がイコール、吸い上げられる祈りのエネルギーに比例しますから、他人任せにできないのも人情というものでしょう?」


 神が人情言うな。


「本当に必死だな、お前らがそこまで人間に執着するとは、千六百年前には想像もできなかった。僕が封印されている間に何があったんだ?」

「おや、アナタはまだご存知ない?」

「?」

「まあいいでしょう。つまり私はエーテリアルが発見されてからの百年間、陰に日向に必死になって我が教団を盛り立ててきたわけですね? 我が苦労、優しいハイネさんは察してくださるでしょうか?」

「知らんわ。お前が勝手にやってることだろう」

「手厳しい。ですが、ここまで話してやっと今夜の本題に入る準備ができるでしょうか?」


 そう言えばコイツ何しに来たんだ?

 知人との旧交を温め合ったり、自分の近況を話したり、モンスターの体を披露するためだけに来たのでは絶対ない。

 重ねて言うがこの神が動くときは、他人に迷惑をかけまくる陰謀を動かす時だと決定しているのだ。


「実はハイネさんにお願いしたいことが、あるようなないような?」

「断る」

「そのためにもう一つ見てもらいたいものが、あったりなかったり?」

「断る」

「なので移動の必要があるかもしれません? 付いてきてくださいますか?」

「だから断るっつってんだろうがァ!」


 しかし頑なにヒトの話を聞かない神は、窓からふわりと飛び出した。

 まるで空中を泳ぐかのように飛ぶ。


「ああ、もうッ!」


 言うことを聞いてもロクなことにならないが、放っておいてもロクでもないことになることがわかりきっていたため、仕方なく僕も窓から跳躍。


「ダークマター・セット!」


 僕の作り出す暗黒物質には、あらゆる神気を消滅させる性質の他に、重力制御という第二性質を持つ。

 それを利用して意図したベクトルに重力を反転させれば、何もない虚空でもあちこちに飛び移るようにして空中移動できた。


 しかしコアセルベートのヤツは僕をどこに連れて行く気なんだ?


 僕たちは水都ハイドラヴィレッジの外れまで移動した。街の明かりは既に遠く、港街のために郊外まで出たら後は見渡すばかりの大海原だ。

 海面には夜釣りのための船さえ見えず、完璧に人気はない。


「こんなところまで来て何を見せようって言うんだ? 海しかないじゃねえか」

「ハイネさん、海は偉大だと思いませんか? 大きく、深い。あまりに遠大であらゆるものを、その内に収めることができそうですね?」

「そこは別に断定していいだろ」

「ホラ、見てくださいませんか? 今この偉大なる海が、その身に何を内包しているか?」


 促されて僕は眼下に広がる海を見る。

 ……なんだ? 生き物がいるぞ? しかもかなり大きい。クジラか、それぐらいの大きさで、海中に隠れて見えづらいが、しかしクジラとはまったく違う形の生き物。

 ……ウツボか? クジラのように大きなウツボ。それが一匹だけじゃない、二匹三匹、イヤもっと。

 ……イヤ、それも違う。やっぱり一匹だ。

 全部で八つの頭のウツボが、尾のところで繋がっている!?


「私がオートクチュールで生み出した多頭型水属性モンスター。名付けてヒュドラサーペント。……サーペントヒュドラでもいいでしょうか? とにかく私の自信作ですかね?」


 サーペントヒュドラだかヒュドラサーペントは、眠っているように海中でジッとして動かない。その姿は、まるでまだスイッチの入っていない機械を見るかのようだ。始動の時を待っている。

 しかし巨大。ノヴァの炎牛ファラリスに匹敵する巨大さだ。

 こんなものが大海に隠れて、水の都市のすぐ近くに……?


「大体のモンスター生産はマザーモンスター任せですが、モンスターを生み出すこと自体は神にも可能じゃないでしょうか? 何せマザーモンスターもまた神が生み出したものと言われていますし」


 お前が言ったんじゃねえか。


「ですがだからこそ、神がその手で生み出したモンスターは強力なことが多い? オーダーメイドの一点ものですからね? このヒュドラサーペントや炎牛ファラリス、そして私のこの体。ハイネさん、アナタも実感しませんか?」

「で? この海竜のいるところまで僕を誘い出してどうする気だ? コイツを使って僕を倒そうとでも?」

「まさか、火の神が宿った巨獣ですら簡単に屠り去ったアナタですもの? 我が傑作と言えど、そこまでできるとは思えませんかな? 彼には、他にちゃんと役割があるのでは?」


 そしてコアセルベートは、とんでもないことを言い出した。


「明日のライブ……」

「なに?」


「……明日行われる勇者三人による合同ライブ。その会場をヒュドラサーペントに襲わせるのはどうでしょう?」

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