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44 スィートルーム

 こうして僕たちは、水都ハイドラヴィレッジに一泊することになった。

 一応明日のライブの特別ゲストということで、水の教団本部の客室へと通される。

 観光地、貿易港としても有名な街の中心建造物、そのゲストルームもまあたいそうな作りで、潮風をよく通す開けた構造から、街の夜景を余すことなく眺望することができた。


「フン、気取りおって」


 ミラクがブツクサ言いながら、フカフカのベッドに何度も尻を沈めている。

 彼女はこの後もああいうキャラで通すつもりなのだろうか?


「とりあえず、明日のライブが始まるまでは自由に過ごしていいんですって。時間を決めれば外へ観光に行くのもアリらしいですよ」

「シルティスさんにお願いを聞いてもらうためとはいえ、凄いことになっちゃいましたね。最初は私たちも歌うのかと思って慌てちゃいました」


 しかしさすがにそれはなかった。

 芸に関してはド素人の二人に、いきなり歌詞と振り付け覚えさせてステージに立たせるということをプロのシルティスがさせるわけもなく、無難にトークでお茶を濁すらしい。

 それでも観客を最大限楽しませるため、勇者三人が揃うハデさを最大限に活かす企画を捻り出すと言いだして、シルティスは会議に行ってしまった。

 本当に仕事熱心なヤツだ。


「本当にアグレッシブな人ですねシルティスさんって。勇者だけでなくアイドルであることにもプライドをもっています」

「オレに言わせれば、どっちつかずで浮ついたヤツだがな。……と言いたいところだが、実はアレで勇者の仕事もきっちりこなしているらしい」


 え? そうなの?


「正式に勇者となってから撃破したモンスターの数は、オレやカレンとそう変わらないはずだ。あれだけ余業に精を出しておいて、いつ討伐に出かけているのか」

「そうなんだ、本当に凄いですよねシルティスさんって。勇者とアイドルをキッチリ両立してる……。ハイネさん」


 カレンさんがいつにも増してシリアスに声を潜める。


「覚えてますか、シルティスさんが言ってたこと?」


 勇者は教団の顔。勇者となるからにはその務めも果たさなければいけないってヤツか。


「私、勇者はモンスターを倒して、人々の生活を守ればそれだけでいいと思っていました。でも私の勇者の位も、勇者としての力も教団から貰ったもので、だから多分、私にも教団に対する責任がある」


 真面目なカレンさんは、心から気に病むかのように言った。


「私はその責任が、ただモンスターと戦えばそれだけで果たせると思っていました。でもそれだけじゃ足りない。もっと他に必要なこともあるんじゃないかって、今日シルティスさんを見て、思って……」

「カレンさんは間違ってませんよ」


 まずそれだけを言った。


「シルティスの言うことも間違っていないでしょうけど、でもカレンさんも間違っていない。勇者の最大の務めは人々を守ることです。常にそのことを第一に考えているカレンさんは、立派な勇者です」

「そうだぞカレン。シルティスの派手さに目を奪われるのは仕方ないが、惑わされてはいかん。それにお前がここへ何をしに来たかを思い出せ。お前は五大教団の軋轢を解決するためにわざわざ余所の都市にまで抗議をしに来たんじゃないか。教団に果たす義理などそれで充分だ」


 ミラクも一緒になってカレンさんを励ましにかかる。


「そうか……、そうですね」


 その甲斐あってカレンさんは元気を取り戻したようだ。

 僕らは無言で拳を突き合わせた。


「んじゃ、そろそろ寝るとしましょうかね。僕は自分の部屋に戻りますよ」

「えっ? ハイネさんもここで寝るんじゃないんですか?」


 んなバカな。

 これでも年ごろの男女。同じ部屋で夜など明かしたら間違いなく間違いが起こる。

 いくら闇の神の転生者と言えど肉体をもつ以上、それに宿った本能なり生理的欲求と無縁ではいられないのだ。

 だから僕は理性を尊ぶ。


「そ、そうか……、では今夜はオレとカレンの二人きりで……!!」

「イヤ、ミラクにはミラク用の寝室が用意してあるよ、そこで寝ろ」

「なにぃッッ!?」

「まさに賓客扱いだよね、一人に一つずつ個室をあてがってくれるなんて」

「おのれぇぇぇ……! これがまさに有難迷惑……!」


 この先、このメンバーで外泊する機会があるとして、カレンさんとミラクを二人だけで就寝させるのは絶対阻止しようと誓う僕だった。


          *   *   *


 そして、僕用に用意された部屋に戻り、さあ寝ようか、とした時だった。

 コン、コン、コン、とノックの音が鳴る。

 誰だろう? と思いながらドアを開けてみると、そこに立っているのは優男風の成人男性。


「アレ? アナタは……?」


 どこかで見た覚えがあるぞ。

 ……そうだ、シルティスがジャーマネとか呼んでいた人だ。多分僕と同じように勇者の補佐役とか付き人とか、そういうポジションの人とは思うが。

 でも何故その人が……? と状況を理解できないでいると、優男が切り出す。


「夜分遅く押しかけてしまって申し訳ありません。折り入ってアナタにお話しておきたいことがありまして」

「……お話ですか。それは、やっぱり明日のライブ関連で?」


 それぐらいしか予想がない。

 今日初めて会った人とする話なんて、仕事の話ぐらいのものだし。


「その件もありますが、他にもいくつか」

「え?」

「その前に、まず自己紹介しておかなくては。私、レ=シルティス様のアイドル活動方面のマネージャーをしておりますが……」


 マネージャー? ジャーマネじゃなくて?


「……それは仮の姿で、実は転生した水の神コアセルベートです。お久しぶりですね闇の神エントロピー」

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