表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世直し暗黒神の奔走 ――人間好きすぎて人間に転生した――  作者: 岡沢六十四
勇者ではないすべての人々編――もしくはエピローグ――
432/434

421 素晴らしい世界

「この世界を、去る……?」


 突然の四元素たちの提案に、僕は驚いて二の句が継げなかった。


「なんだいきなり? 突然何故そんなことを言う?」

「そうですよ!」


 神としては新参者であるカレンさんも声を震わせ訴える。


「皆さんは、様々な因縁がある。それは私も知っています。でも、これまでにあった色んな騒動や苦難を乗り越えて、神と人間も和解できたじゃないですか!」


 世界の始まりの遥か昔、神々は人間を自分たちに従う奴隷としか見なさなかった。

 闇の神である僕以外は。


 しかし長い長い時間の経過の中で人間たちは育ち、発展し、その素晴らしさは神すら認めるところとなっていた。

 かつては人を見下すばかりだった神々も、今では皆、人のことを認めている。


「これからやっと、人と神は正常な関係で一緒に進んでいけるんです。それなのに神々が、人の前から去ってしまわれるなんて……!」

「逆だよ。新たなる光の女神」


 シバが……、風の神クェーサーが言った。


「人は強く、立派に成長した。だからこそもう人に神は必要ないんだ」

「本当ならば、もっと早くこうすべきだったのかもしれません。神の役目は、世界を創り出した時点で終わりだったのですから。……けッ」

『すべきことのない世界でダラダラと過ごし、この世界の真の主役である人間たちの邪魔をしては、神もただの厄介者よ』

「ワタシもそう思います~」


 四元素の神々は口々に、己の考えを訴える。


「人はもはや、自分の力だけで立って歩いていけるのだ。かの魔王騒乱は、その何よりの証明と言っていい」

「人間たちは正面切って、あの戦いを立派に乗り越えましたからね。神に守ってもらうこともなく、救ってもらうこともなく。……けッ」


 堪らないというようにカレンさんが口を挟む。


「でもあれは!! 皆さんが力を与えて私たちを神勇者にしてくれたから……!」

『それでもおぬしらがみずからの手で戦ったことは変わりない』


 そう、アレは明らかに人間の勝利だった。

 人間を生み出し、人間を信じた神にとって、これほど誇らしいことはない。


「だからな、俺たちはもう人間に過干渉はやめて、世界を去ることにしたのさ。俺はこのシバの体に転生する以前も、何回も人に宿って、そのたびに過去にない素晴らしい生を堪能した」


 風の神クェーサーは言う。


「しかしそろそろ終わりにしなければ。風の都の人々も、いつまでも魂を永遠に繋げられるヤツのお節介から離れて、みずからの力でやっていくべきだ。ジュオとの間に生まれた我が子を見ているとますますそう思うのさ」

「この世界から去っていくとして……」


 ヨリシロが口を開いた。

 神の上位二極の一方として、彼女は決断を下す立場にいる。


「そのあとどうするつもりなのです? アナタたちは一体何をするつもりなのです?」

『そうそれさ』


 ノヴァが、炎牛ファラリスの体で鼻息荒く言う。


『新しい世界を創るのはどうじゃ?』


 新しい世界?


「元々我ら神は、世界を創るのが役目の存在です。この世界は、人が発展し大成功したというべきでしょう。その成功を受けて、次なる試みに挑戦してみては、と。……けッ」

「ワタシもそう思います~」


 ところどころに同意を織り交ぜていくマントル。


「しかし、所詮我ら四元素だけで世界を創ることは出来ない。世界の土台、時間と空間は、光の女神と闇の神しか創り出すことはできない」

『そこでだ。お前らも一緒にこの世界を出て、新しい世界創りをやらんか?』

「かつての蟠り多い我らですが、ここは水に流しましょう。……けッ」

「ワタシもそう思います~」


 僕は戸惑って、ヨリシロとカレンさんを見た。

 彼女たちの目に少しも迷いはなかった。


「……そうだな、答えを持っているのは僕たちじゃない」


 答えはこの世界自体が持っている。

 この世界が、発展と進化を遂げて、神の保護を必要としない大成を見たという答えを出したなら。

 僕ら神はそれを受け入れるべきだ。


「人は神を信じるものだ、でもそれ以上に神は人を信じるものだった。僕はこの千六百年の結果で、何よりそう思ったよ」

「……でもハイネさん」


 ヨリシロが、僕の袖を引っ張った。


「わたくしたちは今、神であると同時に人間でもあります」

「そうです、今の私たちはハイネさんでヨリシロ様で、そしてカレンです。その人間としての役割をまっとうする前に、この世界から去ったりしませんよね?」


 不安そうな目で見つめてくる、僕の美女二人。

 ……当然だな。


「もちろん、クロミヤ=ハイネとしての人生は心行くまで楽しんでいこう。神にとって、人の一生は瞬く間。精一杯生き抜こうじゃないか!」

「無論さ、俺もヒュエが嫁に行くのを見届けて、我が子が立派に成長し、ジュオと添い遂げるまでこの世界を去る気はない!」

『ミラクのヤツのプロレス稼業も、もう少し面倒を見てやらんとなあ』

「私たちが去ったあと、具体的な世界の面倒を魔王さんたちに見てもらおうと思っています。彼らなら立派に世界の守護者に成長してくださることでしょう。……けッ」

「ワタシもそう思います~」


 マントルは最後ぐらい心に残ることを言えよ。


「じゃあ、決まりだな」


 僕たち神は、今の人間としての生を精一杯生き抜いたあとで、次の世界へ。

 この世界のように。

 本当に素晴らしい世界をまた作っていこう。


 カレンさんを初め、ミラク、シルティス、ササエちゃん、ヒュエ。

 そして多くのこれまで出会った人たち。


 この世界は本当に。

 素晴らしい世界だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ