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世直し暗黒神の奔走 ――人間好きすぎて人間に転生した――  作者: 岡沢六十四
勇者ではないすべての人々編――もしくはエピローグ――
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418 未来の勇者たち

 引き続き風都ルドラステイツに滞在中。

 教主であるシバと、元勇者のヒュエに挨拶を済ませ、僕らはさらに別の場所へと案内された。

 その案内役は、よりにもよって風の魔王ラファエル。


「…………」

「…………」

「……あの」


 移動中の沈黙が辛い。

 カレンさんなど果敢に話しかけようとするものの、話題を見つけられずに再沈黙してしまった。


 かの魔王騒乱中、ラファエルとは他の魔王以上に激しく対立したものだ。

 魔王たちの中で最初に争ったラファエルとは、歩み寄りを見ることもできずに一方的に消し去り、それをきっかけに消えることない怨恨の争いにはまった。

 その憎悪を受け止め、解消したのはヒュエの手柄だ。


 だからこそラファエルは復活後、他の魔王たちと足並みを揃えてルドラステイツに居留しているのだが。


 人と魔王、種族間での蟠りは解けたとしても、僕個人としてはラファエルとはいまだ気まずい。


「あのー……」

「余計な気を回すな」


 ぴしゃりとラファエルから言われた。


「別に人と魔王の和解が進んだからと言って、無理に仲良しこよしにならねばいけないわけでもない。クロミヤ=ハイネ、お前と私の出会いは実に凄惨な殺し合いだった。あの日の記憶を忘れてじゃれ合えというのも無理な話だろう」


 すげない対応だった。


「で、でも……」


 カレンさんは性格的に、それでも食い下がろうとするが、それをラファエルの手が制する。


「重要なのは過去ではない。未来だ。未来を築いていくのは、過去の蟠りを知らない新しい世代なのだとあの子たちを見て知った」

「あの子」

「お前も見ればすぐわかる」


 どうやら目的地に着いたらしい。

 途中、車まで使って移動し、着いた大きなお屋敷の玄関から廊下を通って一室を開けると。

 そこは凄まじく煩い空間だった。


「おお、やっと来たか!?」

「ウチらを待たすなんて、偉うなったじゃありませんの」

「実際偉いんだからしょうがないよお。何しろ世界を救った英雄さんだからねえ」

「フヒヒ……。まさにリア充」


 この人たちは!?


「先代勇者の皆さん!?」

「まあ、ミラクどもも引退してしまったのだから、正確には先々代勇者になってしまったがな」


 ミラクの前の火の勇者アビ=キョウカさん

 シルティスの前の水の勇者ラ=サラサさん。

 ササエちゃんの前の地の勇者イエモン=ヨネコさん。

 そしてヒュエの前に問題を起こした風の勇者ブラストール=ジュオ(旧姓)。


 五大教団で光を除いた四勇者の前世代たちがここに集合している!?


 ……まあ、前世代といっても今やカレンさんたち世代も勇者を無事勤め上げ、ほとんど引退してしまった。だから彼女らはもう前々世代と言った方が正確だが。

 言い換えるのも面倒なので今日だけは先代勇者の皆さんと統一しよう。


「そういえば、行く先々で先代勇者の人たちだけは見かけないから変だと思ったけれど、こんなところに全員集合してたんですか?」


 と僕が驚きと戸惑いの交じった声を上げると……。


「おう、新旧勇者戦からこっち、定期的にみんなで集まってはお喋りするようになっていたからなオレ様たち」、

「今回たまたま、アンタさんたちの都市巡りに重なったようやねえ」

「たまたまなんて素直じゃないよお」


 と、皆さん思い思いに話す。


「実のところ……、今日は皆で示し合わせて集まった。私たちは、私たちでまとめてアナタたちに会いたいと思って……」


 と今では風の教主夫人のジュオさんが言った。

 さすがに今ではスキンケアもこまめにしているのか、服装も髪形も綺麗でさっぱりとした外見になっている。


「とても嬉しい心遣いです。皆さん」


 僕より先んじてカレンさんが歩み出す。


「皆さんが集まっている姿を見ると、昔の新旧勇者戦を思い出します。思えばあれが、勇者と五大教団が完全に団結したきっかけでした」


 教団同士の融和なんて軟弱。


 そう言って目の前にいるこの人たちが当時現役のカレンさんたちを叱りに来たんだっけ。

 たしかにあれは、融和を目指す新世代と敵対に拘る旧世界の対決で、世界レベルではまだまだだったが、社会が大いに変わるのはあの時からだ。

 それから先代勇者の皆さんは対魔王戦のもっとも大きな援助として、当時の現役勇者たちを支えてくれた。


「勇者同士は争い合うもの。他教団の勇者を蹴落として初めて自分の価値を証明できるのだ。などと息巻いていたオレ様たちがなあ」

「今ではこんなに仲良しなんて。昔を思い出すとむしろ恥ずかしいわ」

「オラたちだけじゃなくて旦那さんたちまで仲良くなってよお。それが元で教団の経済まで始末だからねえ」

「キョウカの旦那さんが経営するホテルグループ。サラサが嫁入りした豪商の企業力。ヨネコの旦那さんは地の教団の勢力圏で最大の杣人の組合長だし、皆の口利きで私の旦那様も色々助かっている……」

「何を言っているんだジュオ」「アナタの旦那さんが一番大物じゃないですか」「何せ風の教主様だからよお。アンタが一番玉の輿だよお」


 アハハハハ! と朗らかに笑う皆さん。

 この人たちが一番初めと終わりで目を見張る変化だな。


「そういやここ、シバの自宅なのか。教主邸宅ならそりゃ豪華なわけだ」


 そして教主夫人のジュオさんを下に友人一同が集うのも当然というわけで。

 奥様たちのホームパーティに男一人闖入した肩身の狭さ!


「……光の勇者カレン。このたびは勇者卒業おめでとう」

「それを言いたくて、今日アナタにここへ来てほしかったんです。アナタには本当にお世話になりましたから」


 カレンさんへテーブルに着くことを促し、紅茶を勧める先代勇者さんたち。

 彼女らも四年という時の経過を受け、かつて少女より溌剌な美女だったのが今では人妻の貫禄たっぷりだ。


「い、いえ……、私は別にお世話なんて……!!」


 と慌てながら謙遜するカレンさん。


「されましたよ。アナタは世界を守る戦いの、一番先頭に立ったじゃないですか」

「オラたちがこうしていられるのも、アンタさが頑張ってくれたおかげだよお。何よりさ」

「アナタに紹介したい子がいる」


 紹介したい、子?


「……もういいよラファエル。皆を連れてきて」


 とジュオさんが言うと、部屋のドアがバンと開け放たれて、同時になだれ込んでくる獣たちの群れ。

 と思われたが違う。

 小さな獣かと思われた複数の影は、普通に人間だった。

 ただとても小さくて幼い。二、三歳程度の幼児ばかりが四人。


 それに続いてガッシャガッシャと鎧を鳴らしながら入室してくる風の魔王ラファエル。

 部屋に入ると同時に姿が見えないと思ったら。


「お前ら、もう少し早く入室させてくれよ。客をびっくりさせる演出とは言え」


 何この幼児たち?

 わーきゃー言いながら、それぞれが先代勇者のマダムらに胸なり足なりに飛びつく。


 先代勇者の皆さんは四人。

 現れた幼児たちも計四人。


 これはもしかして……。


「まあラファエルさん。この子らの面倒見てくれて、ありがとうございます」

「お前も人間のことを学ぶなら、子守ぐらいキッチリし遂げてみろ。いい経験になっただろう」


 と、キョウカさんが幼児の一人を抱き上げる。

 その幼児、どことなく肌やら髪の色がキョウカさんに似通っていた。他の先代勇者たちと、それぞれが抱き上げる幼児たちもそうだ。

 これは多分、間違いなく……!


「いや無理、無理無理無理。人間の子どもなんてちょっと押しただけでも壊れそうで扱いが怖すぎる。そのくせ当人たちは危ないことを平気でするんだから一時も気が休まらない。私には荷が重すぎる」

「子どもなんて皆そんなもんだよお。人間の女は、そんな子どもに振り回されて肝っ玉を養うんだから、ラファエルさんもいい経験の機会だと思いなよお」


 僕たちの存在が置きっ放しになりかけていたので、あえて聞く。


「あの……、すみません。その子どもたちは……?」

「もう見てわかっているだろう? 私たちの子どもだ」


 やっぱり。


 キョウカさんと、サラサさんと、ヨネコさんと、ジュオさん。

 それぞれがお腹を痛めて生んだ子どもたち。


 ヨネコさんは、魔王騒乱のころ既に三児の母だったから、あれが四人目ということか。

 友だちと示しを合わせて、よくまあさらに生んだものだ。


「魔王騒乱の只中では、既に勇者として引退したウチらまで担ぎ出されて戦わされましたからねえ」

「それだけならばまだいいが、魔王との戦いが治まるまで子作り禁止と言われた時には本当に辟易したぞ」

「そんなオラたちが、こうしてこの子らを産んで育てられるのも、カレンさんが戦いに決着をつけてくれたからだよお」

「だから本当、マジ感謝」


 もはや四人の母親となった、四人の元勇者たち。

 子どもらは見た感じ三歳程度なので、魔王騒乱終結が四年前だから……。


 計算すると凄く生々しい。


「ああ、それでシバのヤツ。僕らと一緒に付いてこようと……」

「パパは我が子に首ったけ……」


 とジュオさんが、自分と面影の似た大人しそうな子を抱え上げた。


 この子がジュオさんの子どもであるなら、その父親は言うまでもなくシバということで……。

 我が子に会うために僕らに便乗しようと……。


「あの、皆さんの子どもたちって……?」


 おずおずと尋ねるカレンさんに、ママさんたちが順番に応える。


「お察しの通り、全員女の子だ」

「キョウカさんのお子さんはお転婆すぎて、男の子じゃないかと時々疑いますけどねえ?」

「元気なのはいいことだよお。でもここまでピッタリ一緒だと運命を感じるねえ」

「まったく同じ年に生まれて、同じ女の子。これだけピッタリ合えば、いずれは……」


「「「「この子たちが揃って勇者に」」」」


「……なんてこともあるかもなあ」

「夢のあるお話ですねえ」

「十年ちょっとくらい先かねえ。その頃にはさすがにササエちゃんも引退してそうだよお」

「仲良し勇者」


 それを聞いて、誰よりカレンさんが表情を輝かせた。


「わあ! 素敵ですね! それ!!」


 魔王騒乱が集結して、モンスターは基本人類の敵ではなくなった。

 だから教団にはもう戦うべき相手がおらず、勇者は「教団の顔役」という役割が残るばかりだ。


 五大教団が存続していく以上、勇者もこれからずっと続いていく。

 何人も代替わりを繰り返しながら。


「ま、問題があるとすれば、五大教団のうち光が欠けていることだな」

「だからカレンさん、アナタが頑張る時ではないんです?」

「アンタさも勇者を辞めた今、果たすべき役割はオラたちと同じだよお」

「次世代を生み育てる。新しい光の勇者の誕生は、アナタの活躍にかかっている」


 皆さん、こないだ勇者卒業したばかりのカレンさんに何吹き込んでいるんです!?


「皆さん……! 私にそんなに期待をかけてくださるなんて……! わかりました! 世界の明るい未来のためにも、次世代を担う人材を私自身の手で生み育てます!! ね、ハイネさん!!」

「何故僕に話を振るんですか!?」


 予想はしていたけどとばっちりが酷い!


「ま、まあ……。人間はそうやって何百年っていう時間を受け継いできたんですよね。皆さんを見ていて強烈にそれを感じました」


 という漠然とした言い回しでお茶を濁すのが精一杯だ。


「そうですよ。人間はね、愛し合って、次の世代を生み出して。そうすることで何百年も続いてきたんです」

「ハイネさん、アナタもその務めを疎かにしてはいけませんよ。男の人は、誰かに言われない限り自分のことしか考えないんですから」


 だんだん僕が袋叩きにされる状況になって来た!

 ここは戦略的撤退を! 可及的速やかに、この死地から脱さねば!?


「そ、そう言えば意外だなあ! ラファエルが子守役を務めるなんて!」

「あからさまに話題を変えようとするな」


 ラファエルから完全にこっちの意図を見透かされていた。


「だが……、さっきも言っただろう? 私の技は子ども心をガッチリ掴むのだ」

「子ども心を、ガッチリ?」

「見ているがいい」


 言い終わるが早いか、ラファエルは自身を構成する全身鎧をバラバラに分解させ、パーツとなって部屋の中をグルグル飛び回った。

 そしてすぐさま再び合体し、ポーズを決めッ!!


「わーー!!」

「ラファちゃん、カッケー!!」

「もっかい! もっかいしてー!!」

「ライフルと、けんもってやってー!!」


 子どもたちからやんやの喝采が!?


「どうだ?」

「まあたしかに、大人の僕から見ても多少はカッコいいなとは思うから……」


 子どもの目にはさぞかし衝撃的に映ることだろう。


「でもこういうのって、女の子より男の子の方が喜ぶと思ったんですが……」


 カレンさんの意見もさもありなん。

 先代勇者の血と才能を受け継ぎし幼女たち。やっぱり将来勇者になれる適性を充分お持ちということか。

 お人形遊びよりもチャンバラが好きな女の子、的な。


「ところでラファエル」


 このお屋敷の女主人である教主夫人のジュオが言う。


「室内での分離合体は危ないから、以後は外でやって」

「ハイ、スミマセン」


 こうして人の命は連綿と受け継がれていく。

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