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世直し暗黒神の奔走 ――人間好きすぎて人間に転生した――  作者: 岡沢六十四
勇者ではないすべての人々編――もしくはエピローグ――
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416 地のあれから

 水都ハイドラヴィレッジでの濃い面々に圧倒され、大いに精神力を消費した僕とカレンさん。

 しかし次の訪問先では、さらに大きな精神的消耗が予想された。


 そこは、五大教団でもとりわけぶっ飛んだ人たちが揃っている地の教団本拠、地都イシュタルブレストなのだから。


              *    *    *


「ご無沙汰しております、地の教主様」

「はあ、何だって?」


 地都イシュタルブレストに到着して、まずは教主にお目通りのご挨拶。

 ここの教主様は、過去に勇者だった経歴もあり、老いてなお切れ味鋭い威圧感をお持ちだったが……。


「ご無沙汰しております! ごーぶーさーたーしてますッッ!!」

「はあ。あーあー、兄ちゃんかい久しぶりだねえ。オラさはもうすっかり耳が遠くなっちまってあかんわ」


 四年の歳月を経て、かつての大勇者もすっかり耄碌されていた。

 出会った時からお婆さんだったけれど、以前はまだかくしゃくとしていて元気だったのに……。

 人間って、もう充分老け込んでいると思ったところから、さらに老け込むんだよなあ。


「最近じゃあ教主の椅子に一日座っとくのもしんどくてねえ。いい加減に辞めさせてくれと言っとるんだけど。なかなか話が進まんのさ」

「アナタに代わって教主の座に就ける人がいませんからねえ」


 教主と僕たちの会談中、謁見の間に入って来たのは全身木皮に包まれた樹木人間。

 地の魔王ウリエルだ。


「ウリエルさん! ご無沙汰しています!」


 カレンさんも礼儀正しくウリエルへ挨拶する。


「ああ、光の勇者殿もご無沙汰です。……いや、もう勇者ではなくなられたのでしたね」

「ええ、勇者卒業を記念して、各地を挨拶回りしているんです。ハイネさんはその付き添いに」


 なんかもう普通に言葉を交わしているだけで、ウリエルの物腰の丁寧さが伝わって来た。

 コイツもこの四年で変わったなあ。


「もうさね、ウチの教団のややこしいことは全部ウリエルさんに任せきりなのさね。だからオラみてえな耄碌ババアがお飾りでもやってけるのよ」


 地の教主のお婆さんの目が、閉じているのか開いているのかわからないぐらい細かった。

 昔はもっと大きく見開いていたはずなのに。


「お飾りなら別に誰がやったって構わねえだろうに、なかなか辞めさせてくれねえ。本当に困ったもんさね」

「実績貫録の両方を備えたアナタが頂点にいるからこそ、皆が安心してモンスターの僕に様々なことを任せてくれるのでしょう。大切なのは能力知力ではなく信頼であると、僕に教えてくれたのはアナタです」


 そう言いつつ、ウリエルは持参したショールを教主のお婆さんにかけた。


「まだまだ健在であってもらわなければ困ります。この街と街に住む人間とモンスターのために」

「……眠くなってきたさね」


 あとはお婆さん、本当に眠ってしまったように何も喋らなくなった。


              *    *    *


「医者の話では、心臓が弱くなっているらしいんだ」


 地の教団本部、地の大紅殿の中を進みながらウリエルの語る近況を聞く。


「ここ一年で急激に老け込んでしまわれてね。『皆に任せておれば安心だ』『自分はいつ死んでもいい』などと繰り返し仰っている。僕はそれが辛くて仕方ないんだ」


 モンスターであるウリエルだが、老衰したお婆さんを心から心配しているのがわかった。


「僕たち魔王には基本寿命がないし、老いもしない。でもだからこそ、人が老いて死んでいくのを見るのが恐ろしいんだ。その限られた時間の中で必死に生きて大きなことを成し遂げるのも。僕は人間を畏怖せずにはいられない」


 今では、五大教団のうち四つに分かれて住んでいる魔王たちの中で、ウリエルがもっとも教団の運営に関わり働いている。

 それには、それなりの理由があるのだが。


「僕は地の魔王として、地属性のモンスターを生み出せるからね。そして地属性モンスター、ゴーレムは、この都市の暮らしに密接に結びついている」


 最初にウリエルがこの都市に呼び込まれた理由もそれだったからな、しかも半強制的に。


 僕らが歩いていると多くの人と擦れ違ったが、その人たちが皆揃ってウリエルに平伏するのだ。


「魔王様、魔王様~!」

「ありがたや、ありがたや~!」


 といった感じで。

 魔王を讃えること、神様を崇め奉るがごとしである。


「凄い人気だな。地の教団主神の地母神マントル以上じゃないか?」

「そんなこと言わないでくれよ。あの神様何処で聞いてるかわからないんだから」


 とウリエルは乾いた苦笑を漏らした。


「その地母神の思し召しで、この都市は古くから人とゴーレムが触れ合いながら生活してきた。誰かも言っているけれど、人とモンスターが助け合って生きていくに、この都市こそがもっとも歴史を積んでいるんだ」


 モンスターの中で唯一、人の指示を受けて人のために働いてきたゴーレム。

 そのゴーレムは今ウリエルという地の魔王に統率されて、人々もウリエルに敬意を払っている。


「これからどのような形で人とモンスターが融和していくか、それが課題だね。今風の教団と連携して、ゴーレムにエーテリアル機関を組み込む研究が行われているんだ」

「何故そんなことを!?」

「ゴーレムが本来苦手な俊敏動作や精密作業を、出来るように改善しようと思ってね。元々ライフブロックを核とした土の塊でしかないゴーレムに、機械構造を内蔵することは充分可能だ」


 小型飛空機みたいに空を飛ぶゴーレムや、エーテリアル車みたいに地を走るゴーレムが頭の中に思い浮かんだ。


「だがそれ以上に、ゴーレムさえいれば人間が発達させてきたエーテリアル文明が必要なくなる、っていうことにはしたくなくてね。この都市も、一時ゴーレムを失ってエーテリアル機器の導入が検討されていたけど、僕がゴーレムを生み出せるとわかって、その計画が頓挫しようとした」


 ゴーレムに頼り続けるか、他都市と同じように文明を発展させるかで、地の教団は大いに激論した。


「どちらか一方ではダメだろうとね、モンスターと人間、一緒になって発展しなくては……」


 とウリエルは言う。


「そんなことを主張し続けているのが彼女だよ。……おい、ササエ!」


 ウリエルに案内されて到着したのが屋外の開けた広場。

 そこには多数の少年少女に囲まれて、やたらと豊満な体つきの艶女が大鎌担いで立っていた。


「……おや、そこにおわすはハイネ兄ちゃんとカレン姉ちゃんではないだすか!?」


 そう彼女こそ、四年の歳月を経て豊満に成長した地の勇者ササエちゃんだった。

 胸も尻もたっぷんたっぷんして、身長だって伸びている。

 四年前の幼女だった面影は、いまや完全に消え去っていた。


「お久しぶりだねササエちゃん」

「んいやぁ、ちょっとぶりだすよ! こないだ光都で会ったばかりじゃないだすか!!」

「そういえばそうだった! しばらくぶりが続いてたから、ついクセになって言っちゃった!!」


 と、抱き合うかつての勇者仲間。

 伝説世代の中では、飛びぬけて最年少だったササエちゃんは、四年経った今でも現役の地の勇者だ。

 カレンさんがつい先日光の勇者を引退して、ついに最後の現役となった。


 先日の光の勇者就任&引退式にも、他教団の代表として招待されて列席していたササエちゃん。

 僕たちがムスッペルハイム、ハイドラヴィレッジ遠回りしている間に、真っ直ぐイシュタルブレストへと帰還したのだ。


「しかし……、何度見ても育ったねえササエちゃん……!?」


 とササエちゃんの体をしみじみ眺めるカレンさん。

 初めて出会った時のササエちゃんは十二歳だっけ? それからもっとも伸びる時期なのだから急成長は当然なんだけど、それでも誰よりよく育った。

 おっぱいの大きさなんて、僕が知る中でもダントツの一位。

 かつて神勇者として地母神マントルと融合した時も目を疑う豊満美女に変身したが、ササエちゃんは単体でも時間をかけて、まったく同じ規模の豊満体を獲得したのだった。


「これぞまさしくイシュタルブレストの生産力だねえ」

「んー、でもオラとしては大きすぎて、不便なんだすよ。ミラク姉ちゃんもシルティス姉ちゃんもヒュエ姉ちゃんも会うたびおっぱい揉んでくるだすし。そして今カレン姉ちゃんも揉んどるだす」

「ええぇ~? だってこんなにご立派なら触りたくなるよ~」


 とカレンさん、手の平いっぱい広げても余裕ではみだすササエちゃんの豊乳をグイグイ言わせて揉みしだく。

 周囲に発せられる手応えだけで空気が桃色になりそうだ。


「これだけ大きなおっぱい、先代のヨネコさんでも及ばないよ。こんなのが目の前に会ったら揉まないのが失礼なくらい。ですよねハイネさん?」

「それに僕が『YES』と言ったら、僕にも揉ませてくれるんですか?」

「焦土殲滅団に通報して逮捕してもらいます」


 そら見ろ罠だ!!

 まったくどうしてカレンさんは、ことに紛れて僕を試すようなマネするのか!?

 愛ゆえなの?

 本当にわからない。


「というかウリエルは気づいたらいなくなっているし……!」

「あの御方はゴーレムの生産などでお忙しい御方だす。そっとしておかないといかんだすよ!」


 逃げたようにも思えるんだが。

 ウリエルは、ササエちゃんに出会って即行トラウマを刻み込まれたから今でも怖いんだろうな。


「で、ササエちゃんは今何をしていたの?」

「オラが村の子どもたちに色々教えてたところなんだすよ! 鎌の扱いやゴーレムの扱い! どっちもよく覚えんといかんだす!!」


 それでこんな広場に子どもたちが大挙していたわけか。


「全員オラのいとこの子で、血縁関係あるだすよ。今日はまとめて子守の日だす!」


 ……。

 ……軽く見積もって百人以上はいるんだけど。


 これがイシュタルブレストの生産力。

 教主のお婆さんを発進点とする地の勇者の家系は本当に子だくさんだが、その孫にあたるササエちゃんは三世代目。そのいとこの子となればひ孫の四世代目ということか。


 それで百人超えるのか。

 ますます恐ろしいな……!


「にいちゃー!」

「久しぶりだな、ハイネのにいちゃー!!」


 子ども集団の中には、以前会ったことのある先代地の勇者ヨネコさんの双子娘たちも混じってるじゃないか。

 ヨネコさんも地の教主さんの孫で、ササエちゃんとはいとこにあたるから、まあいてもおかしくない。


「ヨネコ姉ちゃんはママ友の会に出かけておるだすから、オラが面倒見とるだす。いつかはこの中からオラのあとを継ぐ新たな地の勇者が出てくるかもしれんだすから、しっかり指導せんといかんだす!!」

「ササエちゃん……、成長したねえ」


 昔は思い込みが過ぎて突っ走ること過多だったササエちゃん。

 今では、年上が全員引退して最年長となり、勇者キャリアも最長となった。

 後輩の他教団勇者から見ても頼れるお姉さんポジションだろう。


 老いる者がいて。

 成長する者がいて。

 新たに生まれる者がいる。


 人間が何千年と繰り返してきた生のサイクルが、この地の都には余さず詰め込まれている。


「この街に来ると、生きることの真実をまざまざ見せつけられる気がしますね」


 とカレンさんの率直な感想。


 たしかにこの街は、人間がどんなに発展して進化しても忘れてはいけない根っこが、そのまま残されているような街だった。


「私たちも負けてられないです! 人間として精一杯生きるためにも、出来るだけ早く結婚して次の世代を生み育てましょう!」

「やっぱりそういう話になるんですかッ!?」


 勇者引退が決まってからカレンさんのそういう話が生々しい!


「ササエちゃんもうかうかしていられないよ! 時間なんて気づいたらすぐさま過ぎ去ってるんだから、恋のチャンスは逃がさないでね! 勇者の実績と女の幸せ、両方ゲットしよう!」


 おー! と拳を振り上げようとするカレンさんに、ササエちゃんはキョトンと言った。


「あれ? まだ言ってなかっただすか? っていうか誰かがもうお伝えしているとばかり思ってただす」

「え?」

「オラ来月結婚するだすよ」


 ……。

 ……………………………………え!?


「えッ!?!?!?!?!?」


 カレンさんも当然ビックリ。


「こないだちょっと見回り先で、気立てのよい働き者の旦那さんを発見したんで、即刻告ってオーケー貰っただす! 命短し乙女だすから!!」


 と堂々胸を張るササエちゃん。


「お互い若いし早いとも言われただすが、イシュタルブレストの習慣から見れば、まあギリギリ適齢期だす! あ、結婚しても勇者は続けるつもりなんで無問題だす! 祖母ちゃんの前例もあるだすし!」


 現在の地の教主であるササエちゃんのお祖母さんは『根こそぎシャカルマ』の威名を残した大勇者。

 あまりに強いため普通なら結婚して引退するところを、その娘が後継者に育つまで勇者を続けていたのだとか。


 そして人類史上最高の困難だった魔王騒乱を戦い抜いたササエちゃんは、地の教団でついに『根こそぎシャカルマ』を超えたと言わしめる新たな伝説だ。


 そんなササエちゃんだからこそ、前の伝説同様結婚どころか、出産育児しながらも勇者を続ける可能性が!?


「まあ、ツッコミどころは色々あるが……!」


 モンスターと和解してなお、教団の顔としての役割が大きくなりながら続いていく勇者のシステム。

 その勇者のシステムの中で、ササエちゃんの長い長い天下が始まろうとしているようだ。

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