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410 サタン

 闇の危機は、呆気ないほどに収束した。

 今にも世界を覆い尽くそうとしていた超暗黒物質は、光の魔王ルシファーが闇の魔王サタンに変質したことで制御下に置かれた。

 凶悪な超暗黒物質はただの暗黒物質へと戻り、サタンの体に回収され消えていった。


「よっと……」


 そしてすべてが終わったあと、相変わらず巨体のルシファー改めサタンの口から、出てくる一人の男性。


「ハイネさん!」


 私は思わず駆け寄って抱きついてしまった。

 人目もはばからず。


「ハイネ!」「ハイネッち!」「ハイネ兄ちゃん!」「ハイネ殿!!」


 他の人々も次々駆け寄ってくる。

 当然ヨリシロ様も……。


「ハイネさん、ご苦労様です」

「いや、ご苦労様なのは皆だよ。皆で苦労して世界を救ったんだ」


 なんか心通じてそうなやり取りをなさっていた。

 さすが光と闇の神同士……、というべきなのかな?


「クロミヤ=ハイネよ……!」


 魔王さんたちも次々空から降り立って、しかし戸惑いの表情をしていた。


「ルシファーは一体どうなったのだ? コイツは……!?」


 私たちから散々やられて、光と闇の暴走で内部崩壊まで起こしかけていたルシファーは、今やまったく新品同然みたいな装いだった。

 光の魔王だった頃より一回り小さいものの、まるで漆を塗られたみたいに黒光りしていて、傷一つ見当たらない。


「今は、闇の魔王サタンだ」


 ハイネさんは言った。


「アテスのヤツがルシファーの制御を放棄したみたいだし、力が弱まっているのを突いて、乗っ取って作り替えた。世界に広まり始めた暗黒物質を無害化するために」

「そんなことまでする必要があったのか?」


 ラファエルさんが突っかかる。


「え? ラファエル? お前死んだんじゃ?」

「それは今どうでもいいよ。お前の力なら直接暴走した闇を制御することも、丸ごと消し去ることだって可能だったはずだ! なのにこんな面倒なマネを……!?」

「忍びなかったから、かな?」


 ハイネさんは静かにルシファーを見上げた。


「以前ならコイツも、何のためらいもなく消滅させてただろう。でもお前たち魔王と戦って、モンスターにも命があり心が宿ると知った。そう思ったら……」

「消し去るのが可哀相になってしまったんですね……?」


 ハイネさんは頷いた。


「特にコイツは、この事件で終始アテスに利用されていただけだった。善悪を判断する心を持たないまま利用されて、責任だけ取らされるのもいかがなものかなと思ってね」

「お前……!!」


 その言葉に誰より身を震わせたのは、魔王さんたちだった。


「これはもう我々も、人間を傷つけるわけにはいかないな……!」

「元からでしょう?」

「これで完全に、僕たちは人間と争う理由を失ってしまった……!?」

「フン、どいつもこいつも軟弱な……!」


 その震えは、感動からきているものだろう。

 その瞬間に私は確信した。

 真魔王ルシファーとの戦いが、魔王たちを巡る一連の戦いが、それどころかモンスターたちと百年かけて続けてきた戦いが……。

 ……この瞬間に終結したと。


 これから新しい時代が始まるんだ。

 人間とモンスターと神様が、調和しながら生きていく時代が。


「……ところでアテスはどうしたんだ?」


 ちょっと気になった、というぐらいなハイネさんからの気軽な質問に、私たち全員がこわばった。


「途中からアイツの制御がなくなって、だからこそルシファーの制御権を乗っ取ることができたんだけど……。この分だと不利を察して逃げてしまったか? 後始末がまだ必要だな……!」

 一人深刻そうなハイネさんだったが、他の全員が別の意味で深刻だった。


 あんな見下げ果てた人であっても、その死を伝えることはやっぱり重苦しい。


「ハイネさん……!」


 そんな中、やはり真っ先に火中の栗を拾うのはヨリシロ様だった。


「アテスさんは、みずから超暗黒物質に身を投げて……」

『死んでなどいませんよ』


 !?

 何今の声!?

 精神に響くおぞましい声!?


『同じ神であるアナタが気づかないとは迂闊ですねヨリシロ。所詮私たちにとって人間の体など仮の宿。砕け散ろうとも本体である神の魂に何の影響もない』


 た、たしかに……!

 アテスの正体はヨリシロ様から分かれた、光の女神インフレーションの悪しき心だって私たちは知っていたのに……!


「アテス! どこです!? どこから話しています!?」

『すべては布石通りということですよ。みずからアテスの体を消し去ったのは、あの体から脱出したかったから。それが本命。ルシファーが世界を滅ぼそうと滅ぼせまいとどうでもよかったのです!』


 どういうこと!?


『ルシファーが世界を滅ぼすと脅しかけ、その阻止に成功すれば、きっと安心して油断が出ると思っていましたよ!! その隙こそ、私の最後の望み!!』


 少しだけ、アテスの声に悔しさが滲む。


『この世界を滅ぼし、ハイネさんと永遠に二人きりでいられる世界を創り出せれば完璧だったのですが……! もはや多くは望みません! 願いはたった一つだけ! 愛するアナタと一つになれさえすればそれでいい! ハイネさん! いえ、闇の神エントロピー!!』


 その瞬間だった。

 もはや無害だと思われていた闇の魔王サタンから、その体の中から小さな棘が飛び出した。

 いいえ、違う。

 小さな棘かと思ったけれど違う!


 そもそもルシファー改めサタンは元々巨大で、この子にとっては小さくても私たち人間のサイズから照らし合わせれば充分普通の大きさだったりする。

 サタンにとって棘程度の大きさのものは……。

 私たちから見れば槍。

 サタンの体から出てきたのは、漆黒の槍だった。


「あれはッ!?」


 私はそれに見覚えがあった。

 あれはたしか影槍アベル!?


 アテスが光の教団から脱走する間際に見せた、影の力を持つ神具。

 しかもその切っ先が指し示しているのは……!?

 ハイネさん!?


「ハイネさん危ない!」


 アテス最後の一刺しが狙うのは、やっぱりハイネさん!?

 サタンの中から出てきた影槍アベルは完全な死角となって、ハイネさんといえど反応が間に合わない!!


『もう遅い! さあハイネさん私の一刺しを受け取って! そして一つのなりましょう!!』

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