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406 四柱除きて

「アナタの負けです」


 もはや残骸のようになったルシファーと、それに取り付くアテスに向けて言った。

 その周囲には私の仲間の神勇者たちと、魔王さんたちが計八人。

 妙な動きは素振りも見逃さぬと取り囲んでいた。


「翼の大半を失い、壊れかけたルシファーに私たち全員と対抗するなんてできません。大人しく降参してハイネさんを解放してください」

「ふ、ふふふふふ……! 人間はどこまで愚かなの? この程度で勝った気になれるなんて」


 やはりこの人とは、永遠にわかり合うことはできないの?


「たしかにルシファーは四対の翼を失った。だがら何だというの!? 翼の力は量より質。アナタたちが取り戻したのはゴミのように弱い翼でしかない!」

「何だと!?」

「無理やり奪っておいて何て言い草よ!?」


 直接被害を受けた魔王さんたちは怒り心頭。


「所詮四元素の力など、二極たる光と闇に比べれば下位のゴミに過ぎない。我がルシファーにはその闇と光が残っている! その力さえあればアナタたちなど塵芥のようなもの!!」


 ルシファーがおもむろに立ち上がり、闇の翼を広げだした。

 すべてを飲み込み消滅させる闇の力を。


「さあルシファー! 最強無敵の闇の力で愚か者たちを捻り潰してしまいなさい! それから改めて部品たちを取り込み直し、完全体へと戻るのです!!」


 ……ッ!!

 やっぱりまだ戦いは続くの!

 緊張が全体に走ろうとした、その矢先……!


「愚々々……!」


 ルシファーは急に動きを止めた。


「!? どうしたのですルシファー!? 動きなさい! 動いてさっさと皆殺しにしなさい! お前まで私の計画を狂わすというのですか、役立たず!!」


 創造主に悪しざまに罵倒されても、ルシファーは動かない。


 むしろ苦しそうに身震いして、そしてついに決定的な動きが起こった。

 ルシファーが口から、おびただしい真っ黒い何かを吐き出した。


「なあッ!?」


 異常だということが一目でわかる。

 口からだけじゃない。目や鼻や耳。それどころか私たちから散々攻撃を受けてできた無数の傷口からも、黒い何かが漏れて噴出している。


「どうしたのですルシファー! 立ちなさい! 立って戦いなさい!!」


 そんなことできるわけがないというのに。

 やがてルシファーは真っ黒を吐き出すだけじゃなくて、全身が激しく光って明滅しだした。


「何なのです!? なんでどいつもこいつも私の思う通りに動かないのです! だからこの世界で生まれたヤツらはゴミだというのです! 誰も私の役に立たない!!」


 アテスは一人金切り声を上げて自分の惨状を嘆く。

 私たちはどうしていいかわからず、傍観するしかできなかった。


「何もかもがアナタの思い通りにならないのは……」

「!?」


 そこに現れる、優雅ながらも厳かな声。


「アナタが誰も愛していないからですアテスさん」

「ヨリシロ……!?」


 光の教主ヨリシロ様!?

 何故今ここに。


「アナタは誰も愛さない。だからアナタは誰からも愛されない。愛していない者のために何かしてやろうと思う人は、残念ながらいないのです」

「今さらノコノコ現れて何の御高説です? 勝ち馬に乗りに来ましたか!?」

「ええ、アナタはもう終わりです」


 ヨリシロ様は静かに言った。

 静かながらも有無を言わせぬ声の圧に、私たち勇者チームどころか魔王たちまで押し黙る。


「私はずっと疑問に思ってきました。何故闇は光に勝つことができないのだろう? と」

「!?」

「闇は、この世界の始原であり最強の力です。それが弱点を持つなどありえるでしょうか? 欠点のある至高などありえるでしょうか?」

「何が、言いたいのです……!?」

「『闇が光に勝てない』という法則は、闇の神エントロピーがみずから作り出したものだということです」


 どういうこと?

 闇の神様は、みずからの絶対性を損なうルールを自分の手で作ったってこと?


「闇の神エントロピーほど、この世界を何より深く愛する存在はいません。そんな彼だからこそ、この世界に絶対者が存在することを許しませんでした。自分自身がそうであることすら。絶対なる一は、必ず世界全体のバランスを崩し、進歩を阻害してしまうから」

「!? だから……!?」


 自分と対局する存在、光を生み出した?

 絶対なる自分を制する属性をあえて作り出すことで二極の均衡を生み出し、その間に四元素という彩りを生み出すことができた。


「光……。それこそ闇が生み出した優しさそのものなのです。なのにアナタはその優しさを理解できず、あの方ごと闇を取り込んだ。その瞬間に闇から神の愛は失われてしまったのです」

「!?」

「アナタの自分勝手な心が、アナタの闇に投影されたのです」


 神の愛を失った闇は、自分の対極たる光の存在を許さない。

 光と闇の相克が、母体であるルシファーの内部で行われた。

 その相克に耐えきれずルシファーは内部崩壊起こしたというの!?


「四元素を取り込み間に立ってもらっているうちは何とかなったのでしょうが、魔王たちと共にそれを失い、間に何も遮るものがなくなって崩壊が一気に加速したのです」

「……ッ!?」

「ルシファーは程なく完全消滅するでしょう。アナタの目論見は完全に崩れたのですアテスさん」


 ヨリシロ様とアテスの睨み合う横で、ルシファーは今なおもがき苦しんでいた。

 自分の生み出したルシファーに憐みすら向けず、チッと舌打ちした。


「いいでしょう、今回は素直に負けを認めてあげます」


 アテスは言った。


「ですが決定的な敗北ではありません。今日は退いても、神の魂を持つ私には永遠に等しい時間がある。一から計画を練り直し、いつか必ず私は舞い戻る。そしてその時こそ、私とあの方しかいない完璧な世界を実現させる!」


 !?

 アテスの体が光に包まれる!?

 まさかこのまま逃げる気!?


「それは叶いません」

「あうッ!?」


 光の中に消え去ろうとしたアテスが一転、何かに弾かれるように飛んだ!?

 逃亡に失敗した。


「今頃ノコノコ何しに来たのか? と聞きましたね? 質問したのに答えも聞かずに退散しようとは失礼な人です」

「な、何を……!?」

「教えてあげます。準備が済んだからやって来たのですよ。アナタを絶対に逃がさないための準備を」


 ヨリシロ様は言った。


「今この一帯は、わたくしと四元素の神々による結界が張られています。光の女神の化身たるアナタに結界を破ることはできません。光は四元素の集結に勝てない。それもまた神の王がこの世界に定めたルールなのですから」

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