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395 善悪対峙

『では……、この闇都ヨミノクニを作り出したのは……!?』

『人間に転生した光の女神様ってこと!?』


 ミラクちゃんやシルティスちゃんが驚く横で、何故か私はまったく冷静だった。

 答えを最初から知っていたから驚かないというか。

 どういうわけかそんな感覚だった。


【光の女神インフレーションは、知りたかったのです】


 誰のものかもわからぬ案内役の声は、静かに言った。


【闇の神エントロピーがみずからを犠牲にしてまで慈しんだ人間が、本当にそれだけの価値のある生き物なのか】


 それをたしかめるために人間に転生し、人と直に接した、と。


【それと同時に光の女神は、闇の神への償いもしたかったのです】

『償い?』

【彼の愛した人間を、彼の代わりに守り導くことで、人間を巡る戦争で彼の敵に回った謝罪をしたかったのです】

『そ、そんな回りくどい……!?』


 光の女神様は、闇の神様に対してどんだけ後ろめたかったんですか?


【そして時の経過によって封印が解け、闇の神がこの世界に帰還した時に、彼の行いを知って彼に感謝する人々のコミュニティを築きたかった】

『ッ!? だから……!?』


 だからここは闇都ヨミノクニ。

 封印されて世界に関わることができないはずの闇の神エントロピーを崇めた都市。


『封印されていて、存在を知られぬはずの闇の神を教え広めたのは……』

『光の女神様だっただすか!?』


 そうやってヨミノクニは発展していった。

 神の一人に直々率いられて、最初に興った人間の文明はつつがなく発展していった。


【その経過で、知ったのです】


 声は淡々と続ける。


【闇の神エントロピーの言う、人間の素晴らしさというものを。生きているがゆえに死を恐れ、他者を蹴落としてでも自己を守ろうとする。しかしそれでも互いに手を取り合って、一人では乗り越えられない窮地を乗り越えようとする。愛と憎しみ。矛盾する二つを内に収めながら、それらを整合させている】


 その声に、少しずつ懐かしさの感情が交じってきている気がした。


【私は……、光の女神は、いつしか彼女もまた人間の虜になっていきました。もはや闇の神のためだけでなく、自分自身のためにも人を援け、発展させたい。私はいつしかそう思うようになっていた】


 この声、やっぱり……!?


【光の女神インフレーションとしてでなく、女王イザナミとして……】

【そんなことが許されると思っているのかしら?】


 !?

 何ッ!?

 この精神空間に、新たな正体不明の声がこだました。

 ここに存在しているのは私を初め、ミラクちゃん、シルティスちゃん、ササエちゃん、ヒュエちゃん五人の精神と、語り部たるあの方の声のみ。


 そこへ新たに、別の声が現れた。

 元からある声とは違う、非難と否定に満ちた声。


【アナタが女王イザナミとなって人間と馴れ合ってきた日々など、所詮みずからを慰める自己暗示に過ぎません】

『何だこの声は……!?』


 まるで元からいた声を――、光の女神インフレーションのことを全否定するかのような。


【だからアナタは、わたくしから離れたのですか? もう一人の光の女神となったのですか?】


 元からいた光の女神の声が、負けじと新たな声へ言い返す。


【その通り。あの方に愛されるためとはいえ、人間ごときに媚びてどうするのです? それでは永遠にあの方の一番は人間。私は二番以下でしかないではない】

【それでいいではないですか。順番など大した意味はない。それもまた人間と共に過ごして人間が教えてくれたことではないですか】

【そんなものは勝てない女の言いわけに過ぎません。私は許さない。私を差し置いてあの方から一身に愛される人間を許さない! 人間さえいなければ、あの方の愛は私一人のものなのに! この光の女神インフレーションの!!】


 えッ!?


【それは違います。光の女神インフレーション】


 元からいた声が、新たな声に静かに諭す。


【物質と時間に限りはあれど、愛にはまったく限りなどない。それもまた人間がわたくしに教えてくれたことです。とりわけあの方は、神の王、闇の神として無限の力すら持つのです。なのに愛だけに限りがあるとどうして言えましょう?】


 真っ向から反論する。


【わたくしもそうです。わたくしは、あの方の愛する人間を、あの方と同じように愛します。だからこそわたくしは、闇の神と対になる光の女神インフレーション】


 ええッ!?


【結局私とアナタは、根本的に違うのですね】

【だからアナタはわたくしから離れて、固有の存在となったのですか?】


 声と声は、対決するかのように緊張を高める。


【何故そう決めつけるのです? 私がアナタから離れたのではなく、アナタが私から離れたのかも?】

【自分こそが本質だと言いたいのですか? ですがそんなことは絶対にありえません。何故なら闇の神エントロピーは、アナタの存在をこそ許さないからです。邪悪なる光の女神の存在を】

【ならばアナタが善なる光の女神だと言いたいのですか? 何たる傲慢な物言い】


 つまり、それは……!?


『光の女神は、二人いるということ!?』


 闇の神を愛するがゆえに、相手の愛するものを自分も愛する善なる光の女神。

 闇の神を愛するがゆえに、相手の愛するものを激しく憎む邪悪な光の女神。


 その二存在が、私たち人間の与り知らないところで争い合っていた!?


『私は人間を滅ぼします。愛する闇の神エントロピーのために』

『私は人間を守ります。愛する闇の神エントロピーのために、そして人間たちのためにも』


 私たちはますます、この世界の謎の奥深くへ分け入ろうとしている。

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