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390 五色の艶泉

 闇都ヨミノクニ。


 その名に聞き覚えはあるものの、何故今この時その名が出てくるのか、私にはまったくわからなかった。


 闇都ヨミノクニ。


 そこはかつて、闇の神エントロピーを崇拝していた人たちの建てた都市。

 今はもう滅びてしまった都市。


 人の歴史の黎明期に現れ、大きく発展、拡大化し文明が形成される先駆けとなった。

 その都市は今まで存在すら忘れ去られ、再発見は人類史に大きな影響を及ぼすだろうとされていた。

 でも真魔王ルシファーによって世界の明日もどうなるかわからぬ状況。

 ハッキリ言ってアカデミックな問題はひとまず置いておいた方がいいと考えるのですが。


「闇都ヨミノクニに向かいなさい」


 ヨリシロ様は頭ごなしにそう言うのみだった。


「あの都市のさらに奥深く、真魔王ルシファーを打ち倒す鍵が眠っているはずです。それをアナタたち五人で探し出し、見つけてくるのです」

「あの……、ヨリシロ様? どうしてそんなことが……?」


 わかるの? と聞こうとしたところ……。


「ルシファーの調査解析は、風の教団が全力を挙げてくれると風の教主シバさんより連絡がありました。他教団も決戦に備え、先代勇者が先頭に立って準備が進んでいます。我が光の教団は、ドラハが陣頭を固めましょう」


 取り付く島がない。


「アナタたち勇者はヨミノクニに向かい、対ルシファーの戦いに必ず必要なものを見つけてくるのです。世界の命運はアナタたちにかかっています。頼みましたよ!」


 そんなわけで、私たちは半ば追い立てられるように旅立たされたのだった。

 闇都ヨミノクニへと再び訪れるための旅へ。


             *    *    *


 ただ、今回の旅と以前の旅との大きな違い。

 それは道連れの賑やかさだった。前にヨミノクニを探しに行った旅は、私――、カレンに合わせてヨリシロ様とハイネさんでの三人旅。

 男性のハイネさんが加わっていたということで、私もヨリシロ様もけっこう大人しく旅していたと記憶している。

 それに対して今回は……。


 私――、光の勇者カレンに加えて……。

 火の勇者ミラクちゃん。

 水の勇者シルティスちゃん。

 地の勇者ササエちゃん。

 風の勇者ヒュエちゃんの計五人。


 女三人寄れば姦しいとか言われるご時世に、同性だけで五人も集まれば倍々ゲームと言っても過言ではなく。

 それはもう、世界の命運を懸けているとは思えないほど賑やかな旅となっております。


「ちょっとーッ! ちょっとちょっと聞いてないわよ!? ヨミノクニって『無名の砂漠』にあるの!? 滅茶苦茶暑いじゃん!?」

「死の大地だすよ!? 足を踏み入れたら生きては帰れぬだす! 祖母ちゃんたちに遺書書き忘れてきただすよーッ!?」

「ゼェ……、ゼェ……!?」

「ミラク殿が死にかけているでござる!? この人、火の勇者のくせに意外と暑さに弱いでござるよ!?」

「暑さはともかく……! 乾燥が……!?」


 あー、煩い。

 この状態のままじゃ、とてもヨミノクニを探すのに集中できないため、私たちは小休止を取ることにした。


 ここは世界屈指の異境『無名の砂漠』。

 地平線の遥か先まで広がる砂だけの地形は、入る者を目印なく惑わせ、暑さと乾燥によって乾かし殺す。

 過去何百人という人が、この砂漠に迷い込んで帰らなかったことだろう。

 だからこそ人々はこの地を魔境と恐れ、好んで踏み込むなど誰もしなかった。

 だからこそ広大な砂漠のどこかに、人から忘れ去られた古代遺跡があったとしても不思議はないという……。


 でもとにかく! そこに行くまでに一休み!


              *    *    *


「あー! 生き返るーッ!!」


 以前来た時も休憩のために利用したオアシスに、私たちは立ち寄った。

 到着した瞬間、ミラクちゃんもシルティスちゃんもササエちゃんもヒュエちゃんも、服を脱ぎ散らかしながら湖の中にダイブ。


「…………!」


 彼女らの通過後に、パンツも含めた衣服が点々と散らばっていた。


「み、皆恥じらいがなさすぎるよ……! いくらここが未開の秘境で、人の通りかかる可能性が限りなくゼロだとしても……!!」


 お互いがいるんだし、裸になるにしてももう少し躊躇いというか……!


「えぇー? 何一人でお上品ぶってるのよカレンッち?」


 と水にぷかぷか浮かびながらシルティスちゃんが言う。


「大体アタシら全員、既に何回もマッパ見せ合ってるじゃん。今さら恥ずかしがる理由もないでしょう?」


 まあたしかにイシュタルブレストの温泉とか、ルドラステイツの高級スパとか思い返せばけっこうお互いの裸を見せ合っている機会が多い。


「裸の付き合いというではないかカレン」


 ミラクちゃんが、体ごと顔の下半分まで水中に潜らせ、ゴクゴクと水分を補給していた。

 ……カバみたい。


「こうしてお互い曝け出して、隠すものをなくしてこそ絆も深まるというものだ。裸を見せ合うたびに結びつきが上がると言っても過言ではない」

「仮にそうだとしても、ミラクッちの視線には邪悪めいたものを感じるんだけど……!?」

「オッサンからねっとり見詰められているかのようでござる……!?」


 シルティスちゃんもヒュエちゃんも、同性から向けられるにあるまじきミラクちゃんの視線に困惑している。

 ミラクちゃん……! やっぱり火の教団の人って異性より同性の方が大好きなんじゃ……!?


「いや、しかし……、ササエの裸も見ていると感慨深いものがあるな」

「ん? 何だす?」


 私たちとの間にできた心の溝にも気づかずに、ミラクちゃんは最年少のササエちゃんにまで食指を伸ばし始めた。


「今でこそ山も谷もない幼女体型のササエだが、神勇者になった時の豊満さを思いだすと……。落差が……!!」


 ああ、そういえば……!

 私たちが神様の一部を加えられることで超パワーアップする神勇者モード。

 それのお陰で私たちは魔王さんとも渡り合えるようになったんだけれど、その中でもササエちゃんが地母神マントル様と合体した時に起こった変化は特筆すべきものだった。


「……何しろ、幼女のササエッちがバインバインのダイナマイトバディに変身しちゃうんだもんね。あんなスイカみたいなパイオツ初めて見たわよ」

「え? 何があったのでござるか?」


 ただ一人現場を目撃しなかったヒュエちゃんは話について行けてない。


「地母神とのシンクロ率の高さから下手したらあのままとも思ったがちゃんと元に戻ったのだな……!」

「ハイだす! 地母神様のお力は、オラだけの独り占めにしていいものじゃないだすので!」


 とササエちゃんは、つるつるペッたんの胸を張って言った。


「もちろん必要とあればいつでも神勇者モードになれるだす! 地母神様が言うには、地の勇者は肉弾戦が主体なので、体つきも一番成長した状態でいる方が都合がいいそうだす!!」

「それがあの超豊満体……!?」


 思い出すだけで同性の私ですら鼻血が出そう。


「ということは、やっぱりササエが普通に成長してもああなる可能性が高いということか?」

「よくわからんだすが! 多分そうだす!!」


 よくわからない多分で断言しないで。


「……」


 ミラクちゃんは、一瞬酸っぱい顔つきをすると、無言でササエちゃんの裸体を抱きしめた。


「え? え? なんだす? なんで急に抱擁するだす!?」

「いや、いずれあんな脂身たっぷりのササエに成長してしまうなら、今のうちにこの小っちゃいササエを噛みしめておこうかと」


 ミラクちゃん、そろそろ通報されるレベルだよ……!


「あ、じゃあアタシもー!」

「シルティスちゃん!?」

「で、では拙者も、可愛いササエ殿を今のうちに……!」

「ヒュエちゃんまで!?」


 裸女三人が一斉にササエちゃんを揉みくちゃにする!?


「うわー! 何だすか!? 何事だすか!? オラのぷりちーさが皆様を虜にしただすか!? でもちょっと冷静になってほしいだす!?」


 水をバシャバシャ言わせながら可愛がられるササエちゃん。

 そんなササエちゃんも、あと数年したら神勇者でなくとも豊満になって、むしろ私たちが愛でられる側に……。

 …………。


「待って、待って! 私もササエちゃん可愛がるーッ!?」


 私もポンポンとパンツまで脱ぎ捨てて湖に飛び込むと、皆揃ってササエちゃんの過ぎ去っていく一瞬を大事に噛みしめるのだった。


 世界の命運を懸けて進む旅。

 その中で私たち勇者の絆が、また一つ固まっていった。……のかな?

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