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379 リーダー就任

 これが……、真魔王ルシファー……?


 山脈かと見紛うほどに巨大な蛇身。その先頭に付いているのは、ヘビの頭ではなく人の上半身。

 まさしく異形。

 身の毛もよだつほどの。


 爬虫類のザラザラした皮膚は、わけもなく人に生理的嫌悪をもたらす。

 理由もわからない。恐らく本能的な嫌悪感をあの蛇人は、意図的に何倍も高めて見る者に振り撒いているかのようだった。


 しかも、その一部が人とまったく同じ様相。

 屈強な男性を模したその上半身は、人にとって見慣れた自分自身と異形の蛇身が融合したことにさらなる気持ち悪さを触発する。


「阿迦迦迦迦迦迦迦迦迦迦迦迦迦迦迦ッッ!!」


 空気をつんざき鼓膜を切り刻むような咆哮は、さらに薄気味悪いものだった。

 身の毛もよだつおぞましさの塊。

 あれが魔王戦の最後を飾る脅威。


 真魔王ルシファー。


「一体どうした!?」


 騒ぎを聞きつけたのだろう。

 あの真魔王の異形を目の当たりにできる光の大聖堂の外へ、続々と人が出てきていた。


 その中にミカエル、ガブリエル、ウリエルの三人もいた。


 彼らはそれぞれに哲学書や、アイドルポスターや酒瓶を抱えて、ここアポロンシティで人の文明文化を満喫しきっていることがわかった。


「ヒッ!? 何あのおぞましい生き物!?」


 魔王であるガブリエルすら、ルシファーの異形に怖気をもった。


「まさかあれが……!?」

「真魔王、ルシファー……、様?」


 ウリエルもミカエルも、初めて見るのだろう始動した真魔王に呆然自失の体だった。


「活動しているお姿を初めて見た……! あれがルシファー様なのか……!?」

「城で眠っているお姿は直に拝見できなかったけれど、まさかこんなに大きいなんて……! ルシファー様の揺り籠って説明されていた城より断然大きいじゃない!?」

「いや違う……! あの城自体がルシファー様だったんだ! 僕らはルシファー様の体内を拠点にして活動していたわけか!?」


 魔王たちの間からも漏れる戸惑いの声。

 その中で、一人だけ握った拳をプルプルと震わせる者がいた。

 いやもはや全身が小刻みに震えていた。激流する感情を押さえつけようとするかのように震わせるのは、火の魔王ミカエル。


「……何が、真魔王だ……!」


 え?


「あんなものは魔王ではない。ただの巨大モンスターだ。たしかに巨大、強大ではあるが、知性も魂も感じない……! ただ神に与えられた命令通りに破壊殲滅を行うだけの巨大モンスターだ……!!」

「そ、そう言われてみれば……!?」


 モンスターが何百世代にも渡って生誕と消滅を繰り返し、その積み重ねの末に自意識と魂を得たのが魔王。

 その存在はまさにモンスターの指導者にふさわしい。獲得した知性を最大限活用するために、人によく似た体格を持っているのも特徴だった。


 しかし、その魔王の頂点に立つはずの真魔王は、そう言った特徴のどれにも当てはまらない。

 人を遥かに超えた巨大さ。上半身はともかく、下半身の目を覆いたくなるほどの異形。

 そしてその振る舞い、あの雄叫びには知性の欠片も感じられない。獣そのものだ。

 あの様子は、むしろ過去戦った大海竜ヒュドラサーペントのような意思なき神の傀儡そのものだった。


「我々は、あんなものを頂点と崇めてきたのか……!? あんなものをモンスターの王と定めようとしたいたのか……!? ふざけるなッッ!!」


 ふざけるな!

 ふざけるな!!

 ふざけるなッッ!!


 ミカエルの怒号が、それこそ光の大聖堂全体を震わさんばかり。


「これでハッキリした! やはりあの女……、サニーソル=アテスは我ら魔王を謀っていたのだ!! ルシファー、もはや敬するに値せず!!」


 そして怒りの心を表すかのように、火の魔王としてみずからに備わった炎の翼を広げる。


「これより我ら魔王の指揮は、このミカエルが執る!! ガブリエル、ウリエル! お前たちの命をオレに預けろ!!」


 たからかに叫ぶミカエル。


「オレがルシファーの下での平等に拘り、魔王をまとめる責務を怠った末にラファエルを失ってしまった……! もはや同じ間違いは二度と犯さぬ! このミカエルは名実ともに魔王のリーダーとしてお前たちを率いる!!」

「やれやれ、やっとリーダー格がリーダー就任か」

「私はかまわないわよ。どうせそんな面倒な役、真面目なミカエル以外引き受けそうにないもの」


 ウリエルもガブリエルも気楽に同胞の決意を受けいれた。


「……クロミヤ=ハイネよ」

「は、はいッ!?」


 いきなり名前を呼ばれてビクッとなる。


「あのルシファーの始末。我ら魔王に任せてもらおう」

「ええッ!?」

「モンスターが起こしたイザコザは、モンスターの中でケリをつける。それがこの世界の新秩序だ」

「今まで僕らを謀ってくれた落とし前も付けてやらなきゃね」

「アナタたちは、ダメージを受けたっていう風の都を助けてあげて。あの都市の文化もいずれは学びに行きたいから」


 そうして三人の魔王たちは、それぞれのシンボルたる翼から神気を放って空へと飛び立つ。


「ええッ!? ちょっと!? それまさか……!?」


 僕も、隣にいるカレンさんも飛び立つ魔王たちを呆然と見送るしかなかった。

 まさかこれから始まるのは……。


 ミカエル率いる三魔王と真魔王ルシファーによる正面衝突!?

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