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377 人魔交流

 サニーソル=アテスの正体は、憎しみによって分裂した光の女神インフレーションの半身。

 その魂が人間に転生した者。


 その驚愕の事実を告げられた僕は、何も言えず沈思黙考するより他になかった。

 ヨリシロ自身がその事実を知ったのが、アテスとの戦闘直後ということもあり、その気になれば現在までに何度もそれを告げる機会があった。


 なのに今日まで延び延びになってしまったのは、それを告げる決意自体がヨリシロになかったからだろう。

 それもそうだ。

 話の通りならアテスこそ光の女神インフレーションの汚点そのもの、けっして他者には見られたくない醜い一面だ。

 そんな部分を恐れず晒すことなんて、たとえ神でもなかなかできることではない。


「人はまだ、神とのイザコザを終えられないのか……!?」


 思えば、今回の魔王たちとの戦いは、人と神とのトラブルの集大成みたいなものだった。

 それまで人間を敵視していたノヴァやコアセルベート。あまりの価値観の違いから人間と思いの重なることがなかったマントル。


 コイツらも気づけば、魔王との戦いを通じて随分人との距離を狭めてきた。

 これでもう神も人も魔も争わずに済むと思った矢先の、悪しき光の女神の存在発覚。


 世界はまだ危機から脱していない。

 そんな思いがことさら強くなるのだった。


「おっ、おぉ~い、ハイネよぉ~い!!」


 そんなことを思いつつ黄昏ていると、遠くから僕のことを呼ぶ声。


「こんなところで何おセンチぶってんだよ。似合わねぇぞ? 男は若さに任せて突っ走らなきゃなあ!!」

「……飲んでますねグレーツ騎士団長?」


 その証拠に酔って真っ赤なハゲ頭。

 まだ昼日中だというのに飲酒とは、不品行の罪で糾弾してやろうか騎士団長。


「飲んで何が悪いってんだよ? こちとら今日は非番だよ!!」

「え? そうなんですか?」

「お前さんらが帰ってきてやっととれたお休みですよ! それまではなあ、いつ襲ってくるかわからねえ魔王に備えて全日厳戒態勢、休みなしだったんだから。お前さんらの留守中、一睡もできなかったんだぜ?」


 うああああ……!

 言われてみればそうである。グレーツさんは僕らが外でいろいろやってる最中、本当に孤独な持久戦を繰り広げていたんだなあ。

 考えを改めた。せっかく緊張状態が解けたんだから酒ぐらい飲んでもいいじゃないか!!


「いやあ、もう何十連勤したかなあ!? ともかくそんだけ長いお勤め明けのビールは格別なわけよ、なあウリエル!?」

「本当だね! 苦労のあとのお酒は格別だね!」


 何故お前がいる!?

 地の魔王ウリエル。お前教団本部の休憩室に通されたんじゃなかったのか!?


「だって休憩しろとか言われても退屈だし。そしたらたまたまこのハゲた人に遭遇して、なんか一発で意気投合しちゃった!」


 ちょっと!?


「いやー、魔王って怖いヤツかとばかり思ったら案外いいヤツなのな! ビールの味がわかるヤツなら誰でも友だちになれるってか!?」


 グレーツ騎士団長まで!?

 ソイツ、アナタを連日悩ませていた襲撃者の一人ですよ!?


「お酒って……! たしかにいいものだよねえ……! 飲めば美味しいし、たくさん飲むと、腹に溜めこんできた悩みとかストレスが溶け出すように……!!」

「おーよしよし。そうだなあ、魔王ったって溜めこむことぐらいあるよなあ。よし! 今日はこのオッサンがたくさん共感してやるから何でも吐き出してみな!!」

「ラファエルのこともアレだけど……、僕のこと捕えて離すまいとしている地の勇者が怖くてさあ……! 顔は笑ってるんだよ。笑ってるけど怖いの!」

「だったらオレ様が、女上司のあしらい方をレクチャーしてやらぁ! 光の教団にもなあ、怖い女がチラホラいて……!」


 酔っ払いどもが意気投合しだした。

 何やってんだか……、とツッコミを入れよう路する直前、別の方から騒ぎの音が。


「シルたん!」

「それは文化!!」


 おいコラ! ベサージュ中隊長と水の魔王ガブリエル!!

 姿を確認しなくてもフレーズだけでお前らとわかる!!


「おお、ハイネ補佐役! 今ちょうどこの魔王のご婦人に文化を教授していたところだ!」


 極光騎士団所属で、目も当てられぬドルオタとなったベサージュ中隊長が言った。

 水の勇者にしてアイドルのシルティスの大ファンなんだ、このアホ。

 そして……。


「シルティスちゃんの人気をこのように形にして伝播するなんて! これも文化の一種なのね! ポスター、トレカ、抱き枕! どれも見たことのない文化だわ!!」


 と、人の文化をどん欲に吸収しようとするガブリエルはご満悦だ。


「種を越えて悪い文化を浸透させようとしないで!」

「何を言う。悪い文化というのはがガチャだけだ」


 とベサージュ中隊長は言った。

 ガチャ……?


「うむ、最近アイドルショップで流行り出した商売形態でな。まあ一種のクジだ」


 悪い予感しかしない。


「一定額で一回くじを引く権利を買い、それで一等を当てたら超レアなシルたんグッズが貰えるというスンポーだ!!」

「その、一等とやらが出る確率は……!?」

「…………」


 ベサージュは何も答えなかった。


「アンタ、それに一体いくら注ぎこんだ?」

「…………」

「答えろ! 答えろよ!! せっかく中隊長に昇進したのに増えた給料をそんな無駄なことにしか使えんのか!?」


 ベサージュの肩を掴んでガクガク揺さぶるのを、傍から見ているガブリエルはまた喜ぶのだった。


「凄いわ! これが貨幣経済を巡る悲喜こもごも! これも文化の一旦なのね!?」


 この魔王、なんでも文化に結びつけ過ぎ!?

 というかウリエルもガブリエルも人々に馴染みすぎじゃないか!?

 何なんだ一体!?


「我々は、人から学ぼうとしているのだ」


 ぬっと、今度は火の魔王ミカエルが現れた。


「人の想い、人の考え、人の感情、それら一つ一つが我ら魔が取り込み吸収していかねばならぬものだ。それがこれからの我々の取るべき道だ」

「ミカエル……!?」

「我々はもう、人間を滅ぼそうなどとは考えぬ。人が許すなら、共に共栄の道を歩む」


 そんなミカエルは、あとで聞いたところ人の修練を知るために極光騎士団の訓練所に参加してきたらしい。

 当然のようにのされた光騎士たちが山盛りになったとか。

 モンスターと戦う準備のために最強のモンスターと訓練……。


 もはや訳がわからない状況だった。

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