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373 懐かしき光都

 光都アポロンシティ。

 この世界を牛耳る五大教団の一つ、光の教団が本拠とする街だ。


 僕ことクロミヤ=ハイネが基本的に所属しているのも光の教団になるので、僕自身の本拠地でもあるのだが、ここ最近随分留守にしていたため、酷く懐かしく感じた。


「我々に送ってやれるのはここまでだ」


 アポロンシティから随分手前の地点で、風の教主シバからそう告げられた。


「五大教団同士の取り決めで、我がルドラステイツは必要以上他都市に接近してはならないことになっているのだ。ここからは送りのエーテリアル車を出させよう」

「色々世話になる」

「それでも我々はしばらくここ周辺に滞在するつもりだから、何かあればすぐ駆けつけよう」

「いやいや、送ってもらっただけで充分だよ」


 別れを迎え、僕はシバと固い握手を交わした。


「あのっ……! ヒュエちゃんは……!?」


 去り際までカレンさんは、友だちであるヒュエのことを心配していた。


「今はまだ眠っているが、諸々別条はない。回復したら挨拶に向かわせよう」

「……ッはい!」


 こうして僕たちは風の都から去った。

 送りの車に乗り込む僕たちだったが……。


「…………」

「…………」

「…………」


 その中に先に乗り込んでいたミカエル、ガブリエル、ラファエルはひたすら無言だった。

 車内というかなり手狭な密閉空間のため、さらに重苦しさが強い。


「うわぁ……!」

「おおぉ……!」


 僕もカレンさんも絶句状態だった。

 この雰囲気に同乗したまま、アポロンシティに到着するまで耐えないといけないのか。


「…………」


 そしてもう一人。僕らと同じ光の教団チームに属するドラハは……。


「お前たち暗いな」

「やめて! ドラハやめて!」

「今この人たちに直球は危険すぎます!!」


 やはりドラハは相当な外弁慶だった。


              *    *    *



 そんなわけで、ついに帰ってきました光都アポロンシティ。

 一体何日ほど留守にしていたんだろうか?

 半月にも満たないと思うが、何故か数年ぶりに帰ってきたような心地がする。

 生まれ故郷からアポロンシティに移り住んでの生活自体、まだ一年と経っていないはずなのに。

 すっかりここが第二のふるさと状態だ。


「おぉハイネ! やっと帰って来たかぁ!!」


 光の教団本部、光の大聖堂に到着した僕を真っ先に出迎えたのは、極光騎士団長のコンロン=グレーツさんだった。

 叩き上げで騎士団の長にまで伸し上がった熟練であり、髪の毛一本ない潔い禿頭がいぶし銀の光を放っていた。


「グレーツ騎士団長。長いこと留守にしてしまって申し訳ありません」

「いいってことよ! 密命受けてあちこち飛び回るのがお前さんの仕事だからな!」


 ああ。

 やっぱり僕そういう風に捉えられていたのか。

 まあ仕方ないよな。

 基本、光都にほとんど落ち付きもせずに飛び回っているんだから。


「しかしなあハイネ。今回ばかりはさすがのオレ様といえどしんどかったよ」


 と何気に僕の首から肩へと手を回してくるグレーツ騎士団長。

 これは……説教&愚痴の複合コースか!?


「何やら世間様じゃ魔王とか言って物騒だろ? その点ウチは勇者様だけじゃなくお前さんやドラハちゃんまでいて、層はなかなか厚い。もし攻めて来られてもまあ安心だってタカを括ってたらよ……!」

「すみません」


 通常、各教団の主力は現役勇者と先代勇者のツートップだ。

 引退した先代勇者を緊急処置的に復帰させ、あらゆる事態にも対応できるようにした。

 我ら光の教団はそれに加えて僕とドラハまでいたわけだから、態勢はもっとも万全と言えただろう。


「でもなあ……、先代勇者のアテスは失踪しちまうし。お前さんは教主様と一緒に行方不明になっちまうし。挙句勇者のカレン様はドラハ伴って他都市の救援に行ったまま、なかなか帰ってこねえし……!」


 あ。

 なんかグレーツ騎士団長がだんだん涙声になって来た。


「気づいたらよぅ。オレ様が一番偉い立場になっててよぅ。責任とかがハンパないわけよ。こんな状態でもし魔王とやらが攻めてきたらどうなるんだろうって夜も寝れねえし。かといって部下の前じゃ怯えるわけにもいかねえし……!」


 僕らが帰ってくるまっでの間、のしかかるストレスは半端じゃなかったと言いたいらしかった。


「オレ様もうハゲだから抜ける髪の毛もないけどよ。髪あったら確実にストレスで抜けまくってたわ。枕髪だらけ。わかる? ねえわかる!? つい先日まで中間管理職だったオレ様にのしかかる都市の命運!?」

「でも……、出撃するカレンさんにドラハを同行させたのはグレーツさんだと聞きましたが?」


 投入するなら全戦力を……! というグレーツ団長の果断さには、又聞きでも感動させられたものだ。


「だってあの時はそう言うしかなかったじゃんよ!? 本当はね、行ってほしくなかったの! 誰でもいいから責任を分け合える相手が欲しかったの!!」


 今まで溜めこんできたストレスを一斉開放するかのように僕の肩で泣きじゃくるグレーツさん。

 ゴメンね。

 いつ魔王が襲い掛かってくるかわからぬ情勢で勇者どころか主だった戦力全部を欠いて。

 そりゃあ不安で仕方ないよね。


「もうどこにも行っちゃヤだよぉ! ボク一人だけにしないでよぉ!!」

「おーよしよし」


 責任から解放されてすっかり幼児退行してしまったグレーツさんをあやすのだった。


「あー、でもこれでやっと日々の不安から解放されるんだなオレ様。魔王とかが襲ってきても、皆で立ち向かえばいいんだな」

「そんなグレーツさんに紹介したい方々がいます」

「ん?」

「道中で一緒になりました。魔王の皆さんです」


 すぐ後ろに、意気消沈したミカエル、ガブリエル、ウリエルが並んでいた。


「ぎゃあああああああああああああああッッッ!?」


 もしオレ様に髪の毛があったら、その瞬間に全部抜けてハゲになっていた。

 ……と、ハゲのグレーツ団長は後に語った。

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