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365 器は欠けた

「ハーハハハハハッ!! 死ね死ね死ねェ!!」


 もはや勝負は佳境にあった。

 ヒュエはもう手札をすべて出し切ったと言っていい。

 満を持して搭乗した鋼鉄ロボット、風機動銃ククルカンも両腕部分を壊され中破状態。


 風回銃ガトリング。

 風炸銃ノーベル。

 風乱銃コウメイ。

 風主砲ヴェートーベン。


 皆壊れるかエネルギー不足で使用不能となり、最後に残ったのは脇部分に搭載された小さな機銃のみだった。

 それでもヒュエは、その機銃を続く限り撃ち続けて敵を牽制し、驚異的な粘りを見せた。

 足部の駆動系はまだ健在なため、常に走り続けて相手に狙いを定めさせない。

 しかしそれらすべて崖っぷちで耐え凌ぐ以上の効果は望めなかった。


 つまりそこから押し返し、自身の勝利へと突き進めるだけの力はないということだ。


「どうした!? 逃げるだけでは私には勝てないぞ!」


 蛇行しつつひた走る風機動銃を、バラバラになった鎧パーツが猛スピードで飛びつつ追う。

 新しい能力を獲得して上機嫌の魔王ラファエルだった。


「だがいいぞ! もっと足掻け! 見苦しくのたうち回れ!! その無様さが実に愉快だ! もっと滑稽な姿を見せて私を楽しませろ!!」

「くうぅぅぅッッ!?」


 ヒュエは、みずからの乗るククルカンを回転させつつ機銃をばらまくものの、とても正確に狙う余裕などなく、激しく飛び回るラファエルのパーツには当たらない。


「それで攻撃しているつもりか!? 攻撃というのはな、こうするんだ!!」


 分かれて飛ぶラファエルの鎧パーツ一つ一つから、超高圧の空気流が放たれる。


「うああああああッッ!?」


 カレンさんの『聖光穿』を光から空気に置き換えたかのようなその攻撃は、分かたれた鎧パーツから幾筋も放たれ、それこそ四方八方からヒュエを襲う。


 超圧空気流はあやまたずククルカンに命中し、その鋼鉄の装甲を凄まじい空気の流れて切断せんばかりだ。


「もっと苦しめ! もっと悲鳴を上げろ!! それがお前たちの義務だ! 痛み苦しみ泣き叫んで、私の心を安らげるんだ!」


 分かたれた鎧パーツから放たれる超圧空気流は、パーツの数に合わせて十以上もある。

 それが全方位からククルカンを責め苛み、ついに最後の武器である機銃や、命綱である駆動系をも破壊した。


「ぐあッ!?」

「これで今度こそ終わりだねえ」


 九分九厘の勝ちを確信したのかパーツを合わせて再び人の形に戻るラファエル。


「これでそのデカブツの、すべての能力は破壊した。攻撃することも移動することもできない。もはやソイツはただの鋼鉄製の棺桶だ」

「…………」

「これでようやく理解できただろう。人間は魔王に勝つことなどできない。存在としての強さが次元違いだからだ。だからこそ魔王が率いるモンスターこそ、次なる霊長に相応しい」

「……」

「お前たち人間は滅ぶべき種族なのだ。この魔王に滅ぼされるべき種なのだ。それを受け入れ、醜く足掻きながら消えろ!」


 ……ッ!!

 もうダメだ! 黙って傍観するなどできない!

 ヒュエを助けなければ。あのまま彼女を見殺しにして言いわけなどがない!


 彼女が何故一人で戦うのに拘るのかわからないが、彼女はもう充分に戦った。

 あとは僕に、最強の暗黒の力を持つ僕にバトンタッチすべきだ!!


「来るなハイネ殿!!」


 駆け出そうとする僕を、先んじてヒュエの声が制した。


「それ以上近づいたら拙者は貴君を許さないぞ! 絶対に、永遠に許さないぞ!!」

「ヒュエ……!?」


 何故そこまで……!?


「いいのかい? お前はもう私の勝つことはできないんだ。クロミヤ=ハイネに助けを求める以外、生き残る術はないぞ?」

「……どうかな?」


 ヒュエは、もはや自分を閉じ込める棺桶以上の役をなさなくなった風機動銃ククルカンの中から語る。


「たしかに、人間ごときが魔王に対抗するなど身の程知らずなことだ。人間一人では、絶対に魔王には勝てない」

「だからそう言っているだろう? 学ばない女だね?」

「人間は魔王に勝てない。……お前以外の魔王には」


 ……その瞬間に、空気が凍った。

 その凍結した空気は、ラファエルが作り出したものだった。

 ぐうの音も出ないほど図星を突かれて、ヤツの心が支配する場と共に硬直した。


「お前は弱くなっているのだ。初めて我々の前に現れた。あの頃からずっと……!」

「何を……! 何を言い出すんだ……!?」

「漠然とした予感はあった。それが確信に変わったのはアレを見た時だ。我が渾身の風主砲から、あんな無様な方法で這いずるように逃れたあの時にな」


 ラファエルが弱くなっている……!?

 最初に出会った時よりも……!?


「お前はかつて、最初に我々と戦った時にハイネ殿によって体の大部分を消滅させられた。そして細胞数個分が残っていたことにより完全消滅は免れた。しかし、それだけの極大ダメージ。やはり何事もなかったほどに回復するなど不可能だったのだ!!」

「………!!」

「事実お前は、細胞を完全に元の数に戻すこともできず、そんな鎧に宿らなければならなくなった! もはやお前のダメージは回復不可能なのだ! そして能力も、受けたダメージに比例して衰退していた……!」


 今日の戦いで、ラファエルがヒュエに仕掛けた超絶攻撃。

 竜巻、風の爪、バラバラに分かたれた鎧パーツからの超圧空気流。

 いずれも強力で、ヒュエを圧倒するものばかりだった。強力だったけれども……。


「いずれも、拙者ごとき人間一人を圧倒する程度のレベルだ。魔王の力はもっと物凄いもののはずだ。事実最初に現れたお前の力は、指の一振りでルドラステイツそのものを破壊せんばかりだったではないか!」


 他のミカエル、ガブリエル、ウリエルら魔王の力も、人の想像を絶するレベルのものだった。

 それに比べれば今のラファエルの力は、たしかに強力だけれども、想像を絶するほどのレベルじゃない。

 他の魔王よりも見劣りしている……?


「だからこそ拙者はここまで食い下がることができた。神勇者にならずとも、通常のままで……。その何よりの理由は、貴様が弱いからだ。弱くなったからだ! 違うか!?」

「……そうだ、その通りだ」


 答えるラファエル。

 その声は、感情に少しずつ揺れ始めていた。怒りの感情に。


「私はね、言うなれば既に再起不能の状態なんだよ。クロミヤ=ハイネに体をほとんど消され、いくらなんでも完全に元に戻るのは不可能なんだ。体がね。戻るべき元の状態を覚えていないんだ」


 僕によって消される前の、子どものようだった姿。

 あれから時も経ち、もし五体満足な状態ならあるべき姿に成長していたことだろう。他の魔王たちのように。

 しかしその前に体を消滅させられたラファエルは、成長した自分の姿を知らない。


「能力もそうだ。私の再生能力にも限界があったようでね。ある一定のところまで分裂したら、それ以上増えなくなってしまった。そんな少ない細胞では、とてもミカエルたちほどの大きな力は扱えない。この鎧に存在を預けることで、何とか見栄えを整えるのが精一杯だ」


 語るごとに、ラファエルの声はどんどん大きく揺れていく。

 怒りの感情に。

 屈辱と憎しみに塗れた怒りの感情に。


「わかるかい……!? 初めて魔王たちが集った時、ヤツらはあからさまに私のことを見下したんだ。生まれて早々人間にしてやられた敗者。魔王の風上にも置けぬ弱者とね! そんな屈辱を浴びた我が心の憤り! 悲哀!! お前たちにわかるか!?」

「……」


 ヒュエは黙ったまま何も反応しない。


「この魔王ラファエルを……、誇り高き風の魔王を!! こんな不完全な状態に追いやった人間たちを、絶対に許さない!! 人間そのものは無論、直接手を下したクロミヤ=ハイネ! そしてあのシバとかいう男は特に!! そしてお前だ!!」


 ラファエルの鎧の指が、動かぬ鉄の巨人を指す。

 その中にいるヒュエ。


「私の知ってはいけない秘密を見抜き、暴いたお前! お前もまた許さない!! 意味もなく私の屈辱に触れ、痛みを思い出させたこと、たっぷり後悔させてやるぞ!!」


 ラファエルは再びバラバラのパーツになって飛び、風機動銃ククルカンへ向かい突進した。

 流星のような猛スピード、それらはすべてククルカンの巨体に命中し、装甲を穿ってめり込む。


『どうせ、この硬いシェルターから出てくるつもりはないんだろう? 出たらすぐさま殺されるからね! だったら憶病に引きこもったまま、殻ごと貫いて殺してやるよ!』」

「それはどうかな」


 同時に、爆発音と共にヒュエが乗る操縦席の蓋が消し飛んだ。


「ハッチ強制開放! 待っていたぞこの瞬間を!!」


 そして一瞬の間も置かず、ヒュエ自身がククルカンから飛び出した。


「弱くなっただけでなく賢さも伴わないなラファエル! 拙者の挑発に気づかなかったか!?」

『ちょ、挑発……!?』

「貴様はまんまと挑発に乗せられてククルカンに直接攻撃してしまった! ククルカンに残された最後の武器、その身でとくと味わえ!」


 中身のヒュエごと貫通するつもりでククルカンにめり込んだラファエルの各パーツは、瞬時に離れることはできない。


「ククルカンに搭載された大型の聖別鉱石。さらに補助用のエーテリアル動力部をオーバーロードさせて……!!」


 ……自爆!?

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