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364 虚の魔王

 風の魔王ラファエルは、以前の戦いで消滅させられた体の大部分を補うために、全身を覆い尽くすほどの甲冑をまとっていた。

 隙間一つないほどくまなく包み込まれたヤツだ。

 それが今、バラバラの部品になって地面に散乱していた。

 目を凝らせば中身は空。何も入っていないことがわかる。

 一体どういうことだ!?

 じゃあ、魔王ラファエルはどこに行ったというのだ!?


『私ならここにいるよ』


 そして突然に異変が起こった。

 地面に散乱していた鎧のパーツが、一斉に空へ飛びあがったのだ。

 まるでそれぞれに意志がある、空飛ぶ生き物であるかのように。


「なッ!?」

「何が起こるのでござる!?」


 空飛ぶ鎧のパーツたちは空中を舞いながら、それぞれ繋がり、組み合わさっていく。

 前腕と二の腕部分が繋がり、下腿と太ももの部分が繋がる。

 さらにそれらが胴体部分にドッキングし、最後に頭部が一番上に収まる。

 そして最後に背中から極彩色の蝶の羽が噴出し、魔王ラファエルが完全な形で復元された。


「なん……!? なん……!?」


 一体どういうことかわからなかった。

 鎧がバラバラになっていた時、その隙間から見えた中身には何も入っていなかった。

 つまり中空。

 では合体して人の形に復元された今も、あの中身は空っぽなのか!?


「そうか……! そういうことでござったか……!!」


 僕より先にヒュエが何かに気づいたようだった。


「思いだすのでござるハイネ殿! ヤツは自分の細胞を微細な虫に変えることができる。そしてそのほとんどを以前ハイネ殿によって消滅させられた! あの鎧は、そうした欠乏状態を補うものだという……。しかし!」


 しかし。

 アイツは失った細胞を言うほど復元できていなかったのだ。

 精々、あの背中の蝶の羽を構成できる程度しか。

 それでもラファエルは、魔王としての格好をつけるために人型の姿を欲した。

 それであの鎧を利用した。

 ……そういうことか!?


「あの鎧は空っぽで、中の空気に風の神気を通して操作していたに過ぎなかったのでござる。つまり張りぼての操り人形だったのでござるよ!!」

「ご名答。……と言っておこうか」


 静かに答えるラファエル。

 しかしその声色はどことなく静かな怒りを湛えていた。


「思い出話をするが……、実際困ったものだったよ。クロミヤ=ハイネ、お前に体の大部分を消されてね。他の三人に出遅れて、見下されたような気分になる。そんな恥辱から脱するために何としても体が欲しかった。そこでコイツに出会った」


 ラファエルは、みずからの金属鎧をこつこつ叩いた。

 ……いや、あの部分をラファエル本体と判断していいのかもうわからないが。


「コイツを見つけたのは、どこぞの森の奥にあった廃墟の屋敷だ。持ち主がいなくなって何十年も経っているのか埃は積もり放題、雑草は生え放題。そこに打ち捨てられていたのがコレだ」


 恐らくは裕福な貴族なりが金に飽かせて購入した調度品だったのだろう。

 人の形をしていて、かつ間接部分もある程度動かせる。

 それらの利点を見出し、ラファエルは鎧を仮の体に決めた。

 そしてわずかに残った細胞数個分の虫の群れを、ヤドカリか何かのように鎧の中に住まわせた。


「いや、たしかに今のは危なかったよ。我々モンスターは純粋な神気の塊だから、あの音波から逃れる術はなかった。モンスターの体だけだったらね」


 しかし今、ラファエルが仮の寄る辺している金属鎧はモンスターの体とは別のもの。ただの物質だ。

 通常物質は、ヒュエが風の神気を混ぜて放った硬直音波に反応しない。


「急いで細胞を鎧の中に引っ込め、神気を限界まで抑えてみたのさ。おかげでなんとか音波の拘束から脱し、重力に引かれて地面に落ちた。あの空気砲が放たれる寸前だったよ。ギリギリだね」


 そんなことができたと言うのか……!?


「通常状態では無理だっただろう。あまりに神気を抑えすぎると自己が保てなくなり霧散してしまうが、鎧という殻に存在を預けることによって神気をほぼゼロにしながら保身することができた。……皮肉なものだね、こんな無様な体になったがゆえにお前の秘策を破るきっかけを得られるとは」

「くっ……!」


 勝ち誇るラファエルに、歯ぎしりするヒュエ。

 そうだろう、あれはヒュエにとって魔王を打ち砕く必勝の一手だった。きっと多くの時間を重ねて練りに練られた作戦だったのだろう。

 それをこんな形で破られることになるなんて……。


「あの巨大空気砲を放つのに大量の神気を消費したようだし、人間ごときに続けて二発も同威力のものは撃てまい。つまりお前の秘策は完全に不発に終わった上、同じことを繰り返すのも不可能」

「…………ッ!」

「ついでだが、今のをきっかけに私は新しい技を思いついたよ。今から披露してやるから、存分に堪能してくれたまえ」


 そう言い終わるが早いか、ラファエルの体が爆発したかのように四散した。


「なッ!?」


 実際にはアイツを見立てた鎧がパーツごとに分解したのだった。

 鎧のパーツは一つ一つが飛燕のように鋭く飛び、僕とヒュエの間を飛び回る。


『ハハハハハッ!! 見たかい! 鎧と一体化して完全にコントロールするコツはさっきので掴んだよ! ピンチを一転、成長の機会へと変えたというわけさ!』

「速い……!」


 鎧パーツの飛び回るスピードは思った以上で、相当ヤバいことがわかった。

 何せパーツは一つだけじゃない。

 一つの動きに集中してたら、他のパーツに襲われて……!

 しかも元が金属だ。頭にでもぶつかろうならそのまま頭蓋骨陥没にもなりかねないぞ!


「ヒュエ! 悪いが助太刀させてもらうぞ!!」


 秘策に全神気を注ぎ込んだヒュエに、もう戦いを継続することはできまい。

 こうなった以上は僕がラファエルを抑える!


「ダメでござる!!」

「うわッ!?」


 突如僕は、大きな力に撥ね飛ばされた。

 風機動銃ククルカンの壊れかけの腕が、僕を払いのけたのだ。

 おかげで僕はかなりの距離を転げ回ったが、バラバララファエルの飛び交う中心点にはヒュエが一人残って……!


「ヒュエ! 何故そこまでして一人で戦おうとするんだ!?」


 僕にはわからない。

 彼女は何に拘っている!? 何故そうまで頑なに一人であろうとする!?


「一人で戦ったって! 一人で勝ったって! それは勇者として何の誇りにもならないぞ! 勇者の務めは人々を守ることだ! そこに詰まらない拘りを混ぜること自体、勇者失格じゃないか!!」

「承知してござる……! しかし、拘らぬわけにはいかぬでござる……!」


 ヒュエは答えた。

 戦おうにもスタミナはほとんど切れかけているに違いない。


「そしてわかったでござる。……ラファエル、貴様も同じであると。貴様は拙者と同類でござる!!」

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