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363 極めの一撃

 風乱銃コウメイ。


 それは先々代風の勇者ジュオさんが使う神具だったはずだ。

 数ある神具の中でもとびっきりの変わり種。

 ビット――、とか言うらしいボール大の器具を風に浮かせ、前後左右上下好きな方向へ自由に飛ばし、搭載された小型風銃で攻撃する。

 しかもビッドは一つだけではない、何個もあるので、襲われる敵は全方向何処から攻撃されるかわからない恐怖の武器と言うわけだった。


 しかし、当然と言うべきか、ジュオさんはここにはいない。

 ではあの風乱銃を操っているのは……。


「ヒュエ……、キミなのか!?」

「風乱銃コウメイは、天才とまで謳われるジュオが狂おしいまでの空間把握能力、計算力を駆使しなければ使いこなせぬ狂気の神具。本来拙者が扱いきれるものではござらぬ。……しかし」


 彼女の乗る鉄機が鈍く唸る。


「この風機動銃ククルカンの補助を得ることで、拙者にも何とか扱えるようになった。乱れ舞い飛ぶ三十三のビット……! 今や全員、拙者の衛士にござる!!」

「それで? だから何だと言うんだい?」


 囲まれながらも、ラファエルは取り澄ましていた。


「まさかこんな小石を十か二十浮かべたぐらいで私を倒せると思っているのかい? だとしたら私はお前への認識を改めなければいけないだろう。私の想像を超えるバカだとね」

「何と言われようと、これが拙者の切り札だ。それに気づけないなら貴様こそがバカだということだ!」

「面白い。だったら試してみたまえ。この豆粒どもで本当に私を傷つけられるか否か」

「いいや。そんなことはしない」


 !?


「風乱銃は、貴様の動きを止めるための布石だ!」

「何……!? くッ、なッ……!?」


 突然ラファエルが声を取り乱し始めた。

 しかし声だけだ。体は微動だにせず身じろぎもしない。普通慌てていれば手足がバタつくぐらいしてもいいだろうに。

 むしろラファエルの不動は、動きたくても動けない拘束状態に見えた。


「……お前、僕に何をした!? 何故体が動かない!?」


 本当に動けなくなっているのかラファエル?


「今飛んでいる風乱銃に搭載しているのは、通常攻撃用の小型風銃ではない。ある特殊な音波を流すためのスピーカーでござる!」

「!?」

「ジュオが研究の末に発見した硬直音波。音と神気を織り交ぜることによって、風の神気を硬化させ、動きを止めることができる。ただし完全に硬化させるためには全方位からの放射がなければいけないがな。だからこそ風乱銃にて……!」

「バカな!? それなりの理屈があろうとも、人間ごときの思い付きで魔王ラファエルを止めることができるというのか!? 何十倍もの神気量をもつこの私を!?」

「だからこそ……、にござる!」


 ヒュエが、口元から牙が覗きそうなほど凶悪な笑みを浮かべた。


「この硬直音波は、風の神気のみに反応する。神気が大きければ大きいほど、拘束する力は強まるのでござる! ましてモンスターは純粋な神気の塊。その頂点に立つ魔王とは巨大な神気そのもの。……まさに風の魔王、貴様専用の切り札!!」


 そして。


「動きが止まった今こそ、これを叩きこむ千載一遇のチャンス!!」


 風機動銃ククルカンの背部に折りたたまれていた砲身が、展開されて肩部に乗る。


「あれは……!?」


 試運転の時に見た。

 たしか風主砲ヴェートーベンとかいう。

 ククルカンに搭載されている中で一番強力な風銃!?


「これで細胞一つ残らず消し飛ばしてくれる! これで決着だ! 魔王ラファエル!!」

「おのれぇぇぇーーーーーーーーッ!?」


 ドドンッッッッッッ!!!!!!


 一瞬の躊躇もなく、巨砲は雄叫びを上げた。

 元々砲手はヒュエ。外すことなどあるわけもなく、最大の威力を誇る最強の主砲は、魔王ラファエルのいた場所を正確に貫いた。

 命中すれば山をも吹き飛ばすほどの威力。

 特殊な音波で動きを封じられたラファエルは、回避どころか防御もできなかっただろう。

 直撃したのはたしかだった。

 そしてその結果は……?


「何も、ない……?」


 その瞬間までラファエルが浮かんだまま拘束されていた場所には、破片一つの残っていなかった。

 完全に空だった。


「本当に吹き飛ばしたのか……? 細胞一つ残さず……!?」


 細胞一つ一つを虫に変えて逃げられるラファエル。それこそ神気そのものを硬直させるという、あの音波でなければ掴まえることはできなかっただろう。

 本当にここまで周到に切り札を揃えていたとは……!


「ハァッ! ……ハァ……!」


 そのヒュエは、風機動銃の中で苦し気に息を切らせていた。

 周囲に飛ばしていた風乱銃も、今はすべて地面に落ちて散らばっている。

 まさに力を使い果たしたと言わんばかりだった。


「ヒュエ! 大丈夫か!?」

「……やはり風主砲の反動はきつうござるな。ジュオはコックピット周りの防護性を上げたと言っていたが。まだまだ完全には遠い」


 それでも気絶にまで追い込まれた試運転時と比べれば随分マシだろう。

 しかし……。


「本当に倒してしまったんだな。魔王ラファエルを……!」

「然り、これで兄上様らの結婚式に、花を添えることができる……」


 ヒュエの声は、疲労しながらも勝利の充実感に満ち溢れていた。

 反面僕は思う。この結果を同じ魔王であるミカエルたちが知ったらどう思うだろうかと。

 こんな心配をすることになるなんて。もはや何が正しいか、わからなくなってきそうだ。


『……花を添える、か。ならばその役目、私が勤めてやろうか』


 !?

 なんだ今の声は!?


『真っ赤な血の花を、あの都市中に咲き乱れさせてやろう』


 この声は魔王ラファエル!?

 生きていたというのか!?

 あの硬直を脱し、風主砲の直撃から逃れるか堪えるかした!?


「ハイネ殿! アレを見るでござる!」


 ヒュエも切羽詰まった声を響かせる。


「地面を……!!」


 地面?

 言われて注意を払ってみると、誰もいない荒野で短い草が生えるばかりのそこかしこに、金属のきらめきがあった。


「金属……、鎧……!?」


 魔王ラファエルが着ていた全身鎧だ。

 それが分解されて、あちこちに散らばっている!?

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