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362 引き返せぬ点

 何故そこまで一人で戦うことに拘るんだヒュエ!?

 元より魔王は、人間一人がどうこうできるレベルの相手じゃない。

 ミカエルと戦ったミラクも、ガブリエルと対峙したシルティスも、ウリエルを圧倒したササエちゃんだって、自分だけの力で困難を乗り越えたわけじゃない。

 人と神、人と人、さらには人と魔。

 様々な繋がりを大事にして、それを力に変えたからこそ、強さだけじゃどうにもならないことを突破できたんじゃないか。


 それこそが人間にしかできない、人間独自の力。

 何故それを捨てて魔王に挑もうとする!?


「……なんだい。神勇者にはならないのかい」


 ラファエルは心底つまらなそうに言った。


「だったらもうお前に用はないね。さっさと殺して、次の獲物にかからせてもらうとしよう」


 ヤツの視線がこちらを向く。


「まずはクロミヤ=ハイネ、お前だ。せっかくすぐ近くにいるのだし、初めて戦ったあの日の報復をさせてもらう」

「……」


 明らかな敵意が向けられ、僕は身構えた。


「その次は、あのシバとかいう男だ。ヤツとお前、二人がこの魔王ラファエルに与えた屈辱は決して忘れない。その清算を経て、私の人類殲滅計画は本格的に始動するのだ」

「いいだろう、だが戦う前に聞かせろ」


 僕の両腕からは、既に暗黒物質の燻りが上がっていた。

 ヒュエが神勇者とならないなら、ここでアイツを倒せるのはやはり僕しかいない。


「僕たちは本当に戦わなければいけないのか?」

「ほう?」

「僕も最初はそう思っていた。人とモンスター、生き残るのはどちらか一つしかないと。戦って、勝敗をつけることでどちらが消えるか決めるしかないと、そう思っていた」


 しかしそれは思い込みでしかないと教えてくれたのは、一見無力に思えた人間たちだった。

 死力を振り絞って戦い、不可能を可能にした。

 その根源になったのは、人の奥底にある心の強さ、愛、信じる気持ち。

 それらは種を隔てたモンスターの王たちにまで伝わり、彼らを変えた。


 神ですら想像しえなかった人と魔との共存が、人によって実現しようとしている。


「お前の仲間である魔王ミカエルは、人を友として認めると言った。水の魔王ガブリエルや、地の魔王ウリエルも」


 誰かを踏みつけて自分だけが栄光を勝ち取ろうとする未来ではなく。

 全員が全員で栄光を分け合う未来への大きな流れが出来ようとしている。


「風の魔王ラファエル。お前もその流れに沿うべきではないのか!?」


 そうなれば、僕たちはここで戦う意味も必要もなくなる。


「フン、どいつもこいつもくだらない」


 しかし僕の切実な期待は、一言の下に裏切られた。


「たしかにミカエルのヤツも同じことを言っていた。人を滅ぼすよりも、人と共に歩む方が得だとか何とか……!」


 やはりミカエルは、僕たちとの約束を果たそうとしてくれているのか。

 そしてラファエルは、それとはまったく逆の道を進もうとしている。


「何故だ!? 何故同じ道を行けない!? お前もミカエルたちと同じ魔王でありながら!?」

「そうだな……。強いて違いがあるとすれば……!」


 ラファエルの被る頭全体を覆う兜、その眉庇の隙間から深い深い暗黒の視線を感じた。


「私たちはもう既に戦いを始めてしまった、ということかな」


 ……!?

 どういうことだ?


「私とお前たちの戦いはもう始まっているのだ。である以上は決着がつくまで止まったりはしない。そして決着とは、私が死ぬかお前たちが死ぬか、二つに一つしかないのだ」

「言っていることがわからない。ミカエルたちだって人間との戦いを乗り越えて互いを認め合ったんじゃないのか?」

「そんなものは戦いとは言わない。ヤツらは人間と戦ってなどいない。人間との真なる戦いを経験したのは、このラファエルだけだ」


 どういう意味だ……!?


「わからないのかい? 我ら魔王はほぼ同時期に母なるマザーモンスターより生まれ出でたが、生まれてすぐさま戦いとなったのは唯一この私だけだった。今でも覚えているよ。我が母ベルゼ・ブルズが生み出した『真緑帝卵』より私が孵化した時、目の前にお前たちがいたな?」

「ああ……!」

「そして私たちは戦った。あの時お前は言っていたじゃないか? 『共存できないなら、どちらか一方が消えるまで戦うしかない』と。私はハッキリと覚えている。私とお前たちの戦いは、まさにそういう戦いなのだ」


 ラファエルの言おうとしていることが、いまだに判然としなかった。

 ラファエルは僕たちに、戦いに、何を求めているというんだ。


「……貴様の言う通りだ、魔王ラファエル」


 そこへ新たな声が割って入った。

 他でもないヒュエだ。


「拙者も覚えているぞ。貴様が初めて我らの前に現れたあの日のことを」

「やれやれ、まだやる気かい? 神勇者にならないお前に、私はまったく興味が湧かないんだがね」


 たしかに、両腕を損壊させられた風機動銃ククルカンに、これ以上の戦闘は無理と言わざるを得なかった。


「あの時もそうだった……! 貴様は拙者を何の脅威ともみなさず、完全に眼中から外していた。ハイネ殿と兄上が死力を尽くす中、拙者はほとんど何もできなかった……!」



 ラファエルとの初めての戦い。

 僕とシバが協力してラファエルの細胞を一つ残らず消滅させようと試みた、あの戦い。

 たしかにあの場にはヒュエもいた。

 ……そしてほとんど、いただけだった。


「あの時と同じ不甲斐なさを、拙者はもう二度と味あわぬ。拙者は、今度こそお前をこの手で倒すのだ。……勇者として。兄上様から引き継いだ、風の勇者の名に懸けて!!」

「心意気はけっこうだが、実力が伴わなければ無様なだけだね。神勇者にならないなら、そんな壊れかけのガラクタでどうやって私を倒す?」

「だから貴様は油断が過ぎるというのだ。かつても、そして今も!」

「何?」

「風機動銃ククルカンに搭載された風銃装備は、まだまだ尽きていないぞ!」


 いつの間にか、ラファエルの周囲を取り囲む無数の球体があった。

 黒いボール状で、真ん中が割れて中からプロペラのようなものが出てきて回転している。

 それによって空中に浮遊していた。

 それが、パッと見でも数十個。ラファエルを取り囲むように飛び回っている。


「風乱銃コウメイ!! これが貴様に王手をかける、最初の一指しだ!!」

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