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361 乱流

 本当に始まってしまった。


 ヒュエvsラファエル。


 風の勇者と魔王による一騎打ちが。

 しかし予想通り、開始の瞬間からラファエルの圧倒的優勢だった。


「『災渦』」


 ラファエルが蝶の羽を一扇ぎするごとに現れる竜巻が、風機動銃ククルカンに乗ったヒュエを苛む。


「ぐああああああああッ!?」


 今のところ、ククルカンの重厚な装甲と重量で凌ぎきれているものの、もし生身であれば一発で終わっていた。

 やはり魔王の扱う神力は桁違いだ。


「ははははは、どうしたどうした? そのデカブツの取りえは重いことだけか?」

「ほざけ! ならば見るがいい風機動風ククルカンの力を!!」


 風機動銃の左腕がラファエルに向けて突き付けられる。

 そこに取り付けられた、一際大きな砲門。


「風炸銃ノーベル!!」


 その瞬間、ヒュエとラファエルの間にある空気が大爆発した。

 空気の弾丸を放つのではなく任意の範囲内にある空気そのものを炸裂させて敵にダメージを与える。

 それはシバが風の勇者だった時代に使っていた風の双銃術『崩』によく似ていた。

 あまねく全範囲に存在するという空気の特性をよく活かした技で全範囲にタイムラグなしで作用する爆発は防御も回避も不可能。

 しかし……。


「『真空覇』」


 ラファエルは難なくそれを無効化した。


「なッ!?」

「くだらない技だ。周囲を空気の断層で遮断すれば簡単に防げる」


 そしてラファエルは、空中に浮かんでいたところから急降下し、ヒュエの――、というか風機動銃ククルカンの至近距離に降り立った。


「ところで、もう見つけたぞ、そのデカブツの弱点を」


 ロボットの足元に立つラファエル。

 ククルカンは人間一人を内包するだけにそれなりの巨体で、ラファエルを見下ろす形となっているが……。


「全身を分厚い鋼鉄で覆って守り、何種類もの風銃を搭載する。その結果としての巨体。……だが巨体であるからこそ、こうして懐に入られては何もできなくなる」


 ラファエルの言う通りだった。

 元々機械仕掛けのククルカンの腕は、人間ほど器用にできておらず、砲台代わりに使うのが精一杯だ。

 そんな腕の届く範囲の内側に入られては、ヒュエは一切の攻撃手段を失う。


「くッ!?」


 ヒュエは、ククルカンの足部に取り付けられた駆動系を逆回転させ、猛スピードでの後退を試みる。

 詰められた間合いを離すためだ。

 しかし魔王は、それを許すほど甘い相手ではない。


「遅いよ!!」


 ラファエルがまとう全身鎧のガントレット部分。

 その五指それぞれから強固に圧縮された空気の爪が現れる。


「『鎌威太刀』」


 その鋭利さは元が空気とは思えないほどで、ククルカンの鋼鉄の装甲を容易く斬り裂くのだった。


「ぐわああああああッッ!?」


 ヒュエは咄嗟に防御態勢を取るが、そのおかげでククルカンの鋼鉄の両腕がバックリ斬り裂かれてしまった。

 あれではもう腕部に搭載された装備は使えないだろうし、防御動作もできないだろう。

 次また同じように襲われたら終わりだ。


「まさかこの私が、接近戦を挑むなどと考えもしなかったかい? 前の戦いでは神気の大きさに任せて雑に攻めるだけだったからね」

「ぐうう……ッ!?」

「私も成長しているということだよ。お前たちが多少悪足掻きめいた工夫で私の打倒を目指そうとも、私は常にその先を行く。モンスターが人間より優れた生き物であるという証明の一つだ」


 たしかに風機動銃ククルカンは、魔王との接近戦を想定して作られてはいない。

 そもそも風の神術自体が接近戦には向かない質で、それはむしろ地の神術の領域だ。

 だからククルカンの作りが接近戦に対応していなくても製造者のジュオさんや操縦者のヒュエを責めるべきではないのだろうが……。


「さて、お遊びもここまでにして、そろそろ本気でやらないか? 切り札を晒してくれたまえよ?」

「なん……だと……!?」


 既に中破状態のククルカンを引きずるようにして、ヒュエは戦いのかまえを取った。


「惚ける気かい? 私が知らないとでも思っているのか?」

「だから何のことを言っている?」

「神勇者だよ。し・ん・ゆ・う・しゃ」


 その言葉に、ヒュエだけでなく僕まで息を呑んだ。

 コイツ……! 神勇者のことを知っているのか!?


「今さら驚くことかい? ミカエルも、ガブリエルもウリエルも、神勇者によって退けられたんだろう? これだけ何度も同じことを繰り返しておいて、敵に知られていないなんて思う方がおかしいよ」


 たしかに……。それはそうかも……!


「結局人は、神から力を与えられてやっと魔王と互角になれる、ということだ。さ、お前も遠慮なく神勇者になりたまえよ。お前の場合は風の神勇者か」

「…………」


 ヒュエは、ククルカンの中で沈黙を守っていた。


「お前たちは神勇者となることで初めて私とまともに戦えるんだ。そんなお前を叩き潰さなければ戦う意味がない。お前に正真正銘の敗北を味わってもらうためにも。……神勇者になりたまえ」

「断る」


 ヒュエから放たれたのは明確な拒絶の言葉だった。

 風の神勇者になることを、ヒュエは拒否した。


「拙者は決めたのだ、この戦い、何としても己が独力で乗り切ると。自分の力だけでお前を倒すことで、拙者は晴れて本当の勇者になることができるのだ」

「なに……?」

「そこに直れ魔王ラファエル! 貴様は拙者がこの手で倒す! 他の誰でもない、神勇者でもない、風の勇者トルドレイド=ヒュエが!!」

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