356 ヴァージンロードを三人で
「これは素晴らしい……!!」
純白のウェディングドレスに身を包んだ天女ジュオさんは、本物以上に天女だった。
元々真珠のような怪しい輝きを放つ肌は、ドレス生地の白絹の輝くとコントラストを放って同じ白なのに互いを埋没することなく互いを引き立て合っていた。
ジュオさん独特のふくよかな体つきもドレスが程よく締め付けて、清楚な美しさを形成している。
「シバ様……、どう?」
伏し目がちに聞くジュオさん。
そんなジュオさんを見てシバの馬鹿野郎は見とれて硬直してしまっていたので、僕が横腹に肘鉄を食らわさなければならなかった。
「ぐふぅッ!? ……あ、似合う似合う! すっごく似合う!! とても美しい!!」
シバの工夫のない安直な褒め言葉に、ジュオさんは改めて顔を赤らめるのだった。
初々しい。
そして……。
「シバさん、こっちはどうですか?」
カレンさんに押されてやってきたのは、これまた純白のウェディングドレスに身を包んだヒュエだった。
こちらも負けず劣らずお美しい。
まだ十代で、本来ならばウェディングドレスなど着る年齢ではないヒュエだが、ジュオさんと同じデザインのドレスをまとってまったく印象が違う。
鍛え上げて引き締まった体に装飾性の高いドレスは一見不釣り合いに思えるが、それでもヒュエは本質的に美人なので何を着せても美人になる。
むしろ鍛え上げて細すぎるくらいの体を、ドレスのフリルが程よく膨らませて、女性のボリュームが上がった感じだった。
それを見て、お兄さんのシバは。
「何故ヒュエまで着ているんだ?」
当然至極の感想だった。
「そう言われると思った。だから言ったのですよカレン殿! 兄上様には見せたくないと! キョトンとした顔されるに決まっているではございませぬか! そして実際された!!」
「いいから! いいからシバ様感想をお願いします! 綺麗だって言って!」
何故か必至なカレンさんに気圧されて、シバはコクコク頷いた。
「ああ、当然綺麗だぞ。我が妹はそもそも美人だしな」
それを聞いてすかさず赤面するヒュエだった。
花嫁姿の二人が揃って顔を真っ赤にしておられる。
何とも言えない空気になってしまって、誰かによる打破が必要だった。
「そ、そうだシバ。お前用件があってこっち来たんだろ!?」
それは僕の役目だった。
「そうだそうだ! ジュオ、実はお前と一緒でないとわからないことがあってな! 是非とも一緒に来てくれ!!」
* * *
そしてシバに先導されて僕たちがやってきたのは、風の教団本部内にある大礼拝堂だった。
結婚式当日には、シバとジュオさんがここの祭壇の前に立ち、風の神クェーサーの御前で互いに夫婦となることを誓う。
その風の神クェーサーって、転生したシバ本人のことじゃね? ってことはさておき。
つまりここは結婚式の本番会場というわけだった。
「式当日には俺とジュオ――、新郎新婦が向こうの正面ドアから入り、礼拝堂内を真っ直ぐ突っ切って祭壇まで移動することになっている」
結婚式にありがちなパターンですな。
「……で、式の取り仕切り役が言うには、俺たちの入場から荘厳な音楽で盛り上げるらしいのだが、俺たちが祭壇前にたどり着くのと同時にピッタリ音楽お終わらせたいというのだ」
「そのために、私たちがどれくらいの時間で祭壇までたどり着けるか時間を計りたいと……?」
「そうだ」
歩く速さって、人によってまちまちだもんね。
ちょっと細かくこだわりすぎとも思えなくはないが、やっぱり教主の結婚式ともなればビシッと決めたいのだろう。
「せっかくドレスまで来ているのだ。実際に歩いてみて試してみるのもいいだろう。当日の予行練習も兼ねてな」
「わかった」
二人は礼拝堂の入り口まで移動してスタート位置に着くと、僕がエーテリアル製ストップウォッチを握ることとなった。
「ところで、僕ら以外にまったく人がいないねえ……?」
「既にこの礼拝堂は、結婚式準備のため一般立ち入り禁止になっているのでござる。参拝者は、本部内にある第二礼拝堂で祈りを捧げることになっている」
なるほど。
「では……、よーいドン!」
ちょっと掛け声違う気がするが、シバとジュオさんは二人並んで礼拝堂へ入場した。
そのまま祭壇前へ。そこへと至る道筋はまさしくヴァージンロードってヤツで、結婚する二人の花道となるだろうが、ここで思わぬ問題が生じた。
「え?」
「え?」
「「えええええええええええええええええええええ?」」
傍から見る僕とカレンさんが揃って困惑の声を上げた。
二人の歩幅が合っていないのだ。
具体的に言うとシバの歩くのが速すぎ、ジュオさんが遅いため二人腕を組んで歩くと段々二人の距離が離れてこんがらがってしまう。
下手くそな二人三脚を見ている気分だった。
「何やってるのキミら?」
と僕が唸るのもしょうがないだろう。
これじゃあ時間を計る以前の問題だ。予行練習しといて本当によかった。
「シバ! もう少しゆっくり歩けよ! この場合速い方が合わせるのが簡単だろう!?」
「う、うむ。そうだな……!」
しかし問題はジュオさんの方にもあるらしく、日頃から亡霊めいてどこから現れるのかわからない彼女は、独自の歩法があったらしい。
それを捉えきれずシバ、何度やっても並んで歩けない。
「マズいな……! まさかこんなところで引っかかることになるとは……!」
「式本番まであと十日ですよね……? 矯正できるのかしら……?」
僕とカレンさん、二人で頭を悩ませているといち早く進み出た者がいた。
「何をしているのですか二人とも!!」
ヒュエだった。
内弁慶の彼女、僕たちには見せない強気さで新婚夫婦に迫る。
「兄上様! ジュオは風の乱銃術を極めるため独自の歩法を開発しているのです。通常の歩法では捉えきれぬのは当然ではないですか!」
「あ、ああ!」
「ジュオも! 日常生活では普通に歩け。別に兄上の歩幅に追いつけないくらいどんくさいわけではあるまいに!!」
「ご、ごめんなさい……!」
ヒュオが二人を引っ張っている。
普段から考えると兄大好きジュオが大嫌いな彼女は、この結婚反対とばかり思うのだが、やっぱりそうではないのか?
さっきのメイドさんの言った通りなのか。
「私にはわかりますよ」
僕の隣でカレンさんが言った。
「ヒュエちゃん本当は、二人とも大好きなんですよ」
友だちとして、彼女の心をそう推し量るカレンさんだった。
「ああもう! 見ていられぬ!!」
ヒュエは、腕を組む新郎新婦の間を割って、自分の体を割り込ませた。
ヒュエは右腕をシバと組み、左腕をジュオと組む。
三人一緒に並んだ体勢で、再び入場口にセット完了。
「いいか! 二人とも拙者の歩調に合わせよ!」
「お、おう……!」「わかった……!」
「ジュオのオリジナル歩法『幽歩』は、拙者も齧ったことがある。拙者が間に立って調節するので、二人ともそれに合わせるのだ!!」
「「はい……!」」
そして世にも珍しい新郎新婦の入場が始まった
夫と妻、そして妹。
三人によるヴァージンロードの行進が。
ヒュエもまたウェディングドレスを着ていたので、その様はとてつもなく絵になった。
これを目指してヒュエにまでドレスを着せたの? とカレンさんに視線を送るが、首を左右に振られた。
さすがのカレンさんも、そこまで計算高くなかったか。
だがあの三人は、間違いなく三人で今、人生の門出となる花道を歩いている。
「ほら、一、二、一、二……! 兄上はもっとペースを落として! ジュオは足と地面の間に神力を挟まない!」
「「はは、はい……!」」
入場練習はまだまだ続きそうだった。
しかしそれはあの三人にとってとても貴重な時間に思えた。




