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353 浄化装置

 ジュオさんをグイグイ引っ張っていくヒュエ。

 そんな彼女たちを放っとくわけにもいかないので、僕やカレンさんやドラハも一緒についていく。

 そしてたどり着いたのは、豪勢な衣裳部屋と思しき場所だった。

 何着どころか何十着、マネキンに着せたりハンガーにかけたりしてある衣装が並んでいて、しかもそれは全部女物。

 しかも一着一着が見るからに、僕の一ヶ月分の給料が丸々吹き飛びそうなぐらいの高級感。

 まさしくドレス。


「これ全部、ジュオが結婚式当日に着る花嫁衣裳の候補だ」

「全部!?」


 いくらなんでも多すぎやしませんか!?

 これ下手したら百着近くあるよ!?


「この中から立った一着を選ぶって言うんですか!?」

「何言ってるんですハイネさん? 今どき結婚披露宴と言ったら、お色直しをするのが当たり前じゃないですか」

「お色直し?」


 カレンさんから「何も知らないのこの人?」的な目で見られてしまった。


「式の最中、何回か着替えをするんですよ。それでいろんなタイプの花嫁衣裳を着るんです!」

「ああ、それで来客の目を楽しませると?」

「違います!」

「え?」

「花嫁が色んな衣装を着たいからに決まってるじゃないですか!! 結婚式は一生一度しかないんですよ!! だからって着られるドレスが一着だけなんてありえないじゃないですか!!」


 自分のためなんかい!?

 女の子の願望よくわからん!


「まあ、それに加えて今回については、風の教主の結婚式ともなれば風の教団全体の権威に関わってくるゆえ。結婚式を豪勢に執り行えばそれだけ風の教団の強大さを他教団に見せつけることにもなりまする」


 ヒュエが言う。


「対立の時代が過ぎ去り、和平が世界全体のスタンダードになろうと、軽く見られていいことなど一つもありませぬ。他教団とて祝いの使者を寄越すであろうから、その者らを圧倒するほど盛大な式にしなければ……!」


 まあ、僕やカレンさんも光の教団からの祝賀の使者みたいなものだしね。

 こっちに到着してから気づいたけど。


「豪勢なれば花嫁の衣装替えも一度や二度では足りませぬ。十回や二十回。いいえ百回や二百回でも目まぐるしく変化しなくては」


 式の間中ずっと着替えてることになるのでは!?


「ただ、それには問題が……」


 ヒュエの苦々しい視線がある方向を向き、僕たちの視線もそれを追う。

 すると集中する視線の先にいたのは、あの世から迷い出たと思うばかりの、おどろおどろしい怨霊。

 疑うことなかれ、コレが式の主役となる花嫁なのだ。


「……どんなに綺麗で高価な花嫁衣装を着せても……」

「元がこれでは……!」


 招待客を違う意味で圧倒してしまうことになるだろう。

 主に恐怖的な意味で。


「今までこの点に言及しなかったのが不思議なくらいだったんだけど……!」

「まあ、打開策が確立されているから大した問題とも捉えられなかったゆえ」


 そうだよなあ。

 以前、この水死体みたいだった不気味なジュオさんを一念発起してエステティックしたことがあるんだけれども。その結果物凄い美人さんになったことがあった。

 悪霊の呪いが解けて天女にでもなったというか。

 僕も過去に一回、その浄化ジュオさんを見たことがあるが、あまりに光り輝いて美しいので、今でもハッキリ覚えている。


「ハイネさーん? 何を思いだしてるんですー?」

「ヒィッ!?」


 後ろからカレンさんに囁かれて、背筋がゾクリとした。


「ええと……、じゃあ、またシルティスなりサラサさんなりを呼んで、エステしてもらえば結婚式当日はまったく問題ないよな?」


 そうすれば式には、天女のように神々しい花嫁が降臨なさることだろう。


「うむ、だからこそこの問題は、大きな問題と認識していなかったのでござるが。こうなると花嫁衣裳の試着は無理そうでござるな。とりあえず見た感じだけで当日着るものを選抜するか……」

「ノープロブレム」


 と、当の亡霊花嫁が口を挟んだ。


「この私に隙はない。いつまでも友だちのサラサの手を煩わせるわけにはいかない」

「と言いますと?」

「こんなのを作ってみた」


 と、衣裳部屋の片隅に置いてあるものを指さした。

 何か……、人が一人丸ごとは入れそうな鉄製のカプセル?

 また僕らは、こんな異様なものがすぐ近くにあるのにも気づかないで……!


「サラサたちのエステを受けてから、すぐ作ってみた。彼女たちのアレを再現するエーテリアル機械」

「えっ!? するとまさか、これで」

「水の神気が人体に及ぼす作用を、エーテリアルで再現するのは結構簡単。これを使って、私は再び変身する……!」


 そう言ってジュオさんはカプセルの側部に付いたボタンをピッと押す。

 するとカプセルが二つに割れて「さあ入れ」と言わんばかり。

 ジュオさんも、当然の順序のようにカプセル内に踏み込み、内側からボタンを押してカプセルは閉まった。


 今や完全に、ジュオさんin謎のカプセル。


 不安しか感じないんだけど。中からジュオさんが操作しているのか、ゆっくりと機械が運動を開始した。


 ……うぃーん、がっちょん。

 みん、みん、みん、みん、みん、みんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみん!!

 みんみー!!


 ずどががががががががが!!

 どったんばったん。

 がしゅんがしゅんがしゅんがしゅん!

 ずどどどどどどどどどどどどどどどど!!

 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!

 ドラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!

 アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!

 ありがとうございました!!


「あわわわわ……!?」


 カプセルの中から、自然には絶対に発生し難い珍妙奇怪な擬音が発せられている!?

 これ中の人大丈夫なの!? っていうか中で何が行われているの!?


 僕たちの不安が恐怖にまで高まった頃。

 狂気の域にまで騒ぎ立てるカプセルは、力尽きたように唸りを止め、静かになった。


 そしてゆっくりとカプセルが開き、中から現れたのは……。


「あろはー」


 例の天女のごとく輝いた浄化されたジュオさんだった。

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