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349 愚痴る勇者

 こうして街中を歩いているうちに、ソワソワしていたヒュエも段々と落ち着きを取り戻し、カレンさんたちとの再会を心から楽しむようになっていった。


「わー! ヒェエちゃん、この露店は何!?」

「ここは手裏剣投げ屋でござるな。風の教団の武力、風間忍の代表的ウェポンである手裏剣を投げる遊戯場でござる」

「へぇ! 手裏剣を投げて景品を当てるってヤツだね!?」

「いや、店主と手裏剣を投げ合って、先に刺さって死んだ方が負けでござる」

「何それ怖い!?」


 それでもカレンさんとヒュエとドラハは三人がかりで手裏剣投げ屋の店主をサボテンみたいにして、景品をGETしていた。

 どうやら店主に刺さった手裏剣の数で景品のランクが上がるらしい。

 恐らく最高ランクの、風都ルドラステイツのイメージキャラクターふうとくんの特大サイズぬいぐるみをゲットしてホクホクしていた。


「皆々様……、ありがとうございまする」


 少し間を置いて、ヒュエがいきなりお礼を言ってきたので戸惑う。


「え? どうしたの? ふうとくんGETしたのそんなに嬉しかった?」

「いやそれより……、新神具開発に煮詰まっていた拙者を連れ出して、気分転換させてくれた気配りに、お礼申し上げたいのでござる」


 ああ。

 ヒュエも、カレンさんの気遣いに勘付いてくれていたか。

 元々いい子だしな。勇者の子たちは大体そうだが。


「……ヒュエちゃん、あまり焦らなくてもいいんだよ。ヒュエちゃんは一人で戦っているわけじゃない。今こうして私やハイネさんやドラハさんが来たからには、もし魔王さんが攻めてきても一緒に戦うよ!」


 カレンさんは自信ありげに自分の胸を叩いた。叩いた拳がボヨヨンと跳ね返った。


「それに悲観することもないんだよ! 状況は人間にとってけっこういい方向に傾きつつあるの。ヒュエちゃんも無線とかで神勇者のことは聞いているでしょう!?」


 神勇者。

 もはやその名は一部に限られたものではなく、全世界に知れ渡ろうとしている。


「たしかに……、各所からの報告は窺っているでござる」

「私たち五大教団が奉じる神様は、ちゃんと私たちを助けてくださっているんだよ! 私もそうだけど、ミラクちゃん、シルティスちゃん、ササエちゃんも神勇者になれた! ヒュエちゃんも必ず風の神勇者になれるよ!!」

「そうでござろうか……!」

「そうだよ! 私、直接火の神様や水の神様から聞いたもん!! 風の神クェーサー様はとりわけ人間を好いてくださってるって!!」


 ノヴァやコアセルベートのヤツ、そんなこと人間の前で漏らしていたのか。

 それ以前に、正体を明かして人間に直接接すること自体、ブラックホールぶつけたくなる大チョンボなんだけど。

 人間に転生した闇の神――、僕が言うのも何だけど、人と神の境界は曖昧であってはならないんだ。


「あのね! 私ここまでの戦いで火の神様にも水の神様にも地母神様にも直接お会いしたけど、皆いい御方たちだったよ!! だから風の神様だって、とっても素敵な御方に違いないよ!」


 だ、そうですよシバさん。

 ここにはいない風の神クェーサーが転生した人間シバが聞いたらどうリアクションするか気になるセリフだった。


 ……しかし、よりにもよってノヴァやコアセルベートやマントルがいい御方とは。

 そう思うのは、むしろカレンさん自身の聖人的性格によるところが大きいのだろうが。

 ……でも、ノヴァやマントルはまだいいとしてもコアセルベートがいい御方かぁ。

 …………あの泥水野郎がなあ。

 やっぱり蒸留して、ここ数百年分の汚れを落としたのが大きかったのかなあ。


 僕は何気なく、ここに来る途中で買っておいた新聞を流し読みしてみた。

 こんな見出しが躍っていた。


『奇跡!? 枯れた乾燥地帯から地下水湧出!!』

『氾濫した河川、市街地を避けて死傷者ゼロ!!』

『水源を巡って争っていた村落が和解! 謎のモンスターが平等に分ける知恵を!!』


 …………。

 全部アイツの仕業だよなあ。

 これが後々汚れを溜めて悪行に転化していくのかと思うと。カルマを消化しているのか? それとも溜めてるのか?


「だから、ヒュエちゃんも魔王さんに対する時は神勇者になればいいんだよ! そしたら万事解決だよ!!」


 向こうの話も依然続いていた。

 カレンさんは割と興奮気味のテンションだった。


「カレン殿……、それは違うと存ずる」

「え?」

「たしかに神々が我ら人間を慈しみ、助けてくれることは喜ばしく。しかし、それを当たり前のものとして人間がみずから練磨することをやめては、神の恵みも人を内から腐らせる毒としかなりませぬ」


 うわぁ、超正論。


「だからこそ拙者は、出来る限りみずからの力のみで強くなりたいのでござる。神に頼る前に、まずみずからが神に認められる勇者とならなければ、自分の力で!」


 ヒュエがまた気負い始めた。

 魔王の出現で余裕をなくすのは全勇者共通のことだったが、やっぱりヒュエはそれが一番酷いように思える。


「……なあヒュエ。キミは何をそんなに気負っているんだ?」

「う」

「たしかに独立独歩は大切だけど、今のキミの態度はまるで絶対一人で魔王に立ち向かわないといけないとでも言っているかのようだ。キミをそんな気持ちにさせる理由はなんだ?」


 僕が尋ねると、ヒュエは途端に気落ちした表情になった。

 そして言いづらそうに言った。


「拙者は……、まずそうしなければつり合いが取れませぬゆえ」


 つり合い?

 何と?


「拙者は、つい最近勇者になりました。勇者として積んだ実績、経験は、他のどの方よりも少ない。カレン殿やミラク殿、シルティス殿、他と肩を並べるには、拙者はまだ努力も実力も足りぬのでござる」

「そんなことないよ。ヒュエちゃんは充分にちゃんと勇者しているよ」


 カレンさんの心底からだろうフォローも、慰めには足りなかった。


「だから拙者には、実績は必要なのでござる。勇者として、誰からも認められるような功績を、誰にも助けられることなく一人で成し遂げたいのでござる!」

「そのために魔王と……!」


 狙う手柄としては難易度MAXな気もしますが。


「あの……、どうせならもう少し易しいクエストでは……!? モンスターは魔王だけではないんですし……!」


 とりあえず人類の命運を左右する問題は、全員全力で確実に解決解決してですね。

 個人の名声度を上げるのは地道にコツコツ……。


「いえ、そうは行きませぬ」


 しかし思った以上にヒュエは頑なだった。


「拙者は、これまで一人で戦ったことがありませぬゆえ」

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