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348 虫食う仲

「ククルカンの完成が、ククルカンの完成が、ククルカンの完成が、ククルカンの完成が…………! 遠のく……!」

「だ、大丈夫だよヒュエちゃん! 私たちが休んで遊ぶ間ぐらい魔王さんも待ってくれるよ!!」


 風都ルドラステイツ内へ戻って来てから、ヒュエはずっとこんな調子だった。


 そして街中は、相変わらず教主の結婚祝賀ムードでお祭り騒ぎ。

 これ結婚式までずっと続くのか?

 僕は、カレンさんとヒュエ、それにドラハと一緒に観光客として人ごみの中を練り歩き中だった。


「あのロボットだかいうのは、今もジュオが改善中だから別に止まっているわけでもないし。休むのも仕事のうちだよ。ヒュエはここ最近ずっと働きづめなんだろう?」


 ヒュエの心の負担を少しでも和らげるために、僕はまたしても懐を痛めることにした。

 何か美味しいものでも口に入れれば自然と心は晴れるだろう。

 お祭り騒ぎに便乗していくつか露店が出ていたため、そこで人数分のお菓子を買った。

 棒のついたキャンディで、それを自分含め四人に行きわたらせる。


「わあ、美味しそう! 何の変哲もないキャンディでも、お祭りで食べると美味しい気分がするよね!!」


 カレンさんが喜々として棒付きキャンディを口に含み、前後に動かしながら味を楽しむ。


「ルドラステイツ名物のタガメキャンディにござる。拙者も好物でござるよ」

「ん!?」


 キャンディを舐めしゃぶっているカレンさんの舌が止まった。


「水場で獲れたてのタガメを炒めてから、飴で閉じ込めるのでござる。飴の甘さに舌が飽きてきたころ、虫の塩っ辛さと歯ごたえを存分に味わえるのでござる」


 そう言えばルドラステイツって、昆虫食が一般的なんだっけ。


「しかしこのタガメキャンディは、あまりいいものではござらんな。材料費をケチって新鮮ではないタガメを使っているようでござる。だから飴を不透明にして、買う前に中身の状態を確認できないようにしているのでござるよ」


 売る方もなかなか考えているんだなあ。

 ……と言うと思ったか。

 それで気づかず普通に買ってしまった観光客ですよ。

 まあ普通にバリバリ飴を噛み砕いて、中身のタガメもボリボリ食いますが。

 ……たしかに外骨格の歯応えが、他に思い当たる種類がないな。そして殻を噛み砕いて出てくる身のプリプリ感。

 さすが水中最強といわれる水棲昆虫の肉は張りがいい。これを飴の甘さでたるくなった舌にはたしかにいい刺激になる。


「……あの、ハイネさん。よかったら私のも……」


 スッと差し出されるカレンさんの飴。

 たしかにカレンさんは、いつだったか昆虫食を出された時も涙目だったしなあ。

 いや、しかし……。


「いいんですか? あの……?」

「何がです?」

「その飴、既にカレンさん舐めまくっているから、僕が口にしたら……!」


 間接キス。

 その考えに思い至ったのか、カレンさんはボッと顔を赤くした。


「やっぱりいいですぅ! 責任もって私が全部舐めますぅ!!」


 と再びキャンディを口に含むカレンさんだった。


「うぅ……、甘い、美味しい……! でもこの飴を舐め終ると……!!」

「あー、いいでござるよカレン殿。拙者が食べてあげまする」


 とヒュエが、カレンさんの手にあるタガメキャンディにぱくついた。

 自分のはもう食べ終わったらしい。


「え? いいのヒュエちゃん!?」

「土地それぞれで食文化は違いまするからな。無理をして食べるのは、お互いによくないこと。……あむあむ」


 と、カレンさんの口にあったキャンディは、今はヒュエの口の中にある。

 彼女は以前、新しい仲間たちに喜んでもらおうと腕によりをかけてルドラステイツ自慢の昆虫料理を振る舞ったことがあったが。

 生まれによって起こる価値観の違いというものに気づいてしまったか。


「…………ま、仕方のないことにござるよ。しかし、飴の方もあまりよいものではないな……」


 と若干寂しそうに飴を頬張るヒュエだった。

 それを見て……。


「ヒュエちゃん! やっぱり私これ食べる!!」


 とヒュエの口の中から飴を引き抜くカレンさんだった。


「ふぇッ!?」

「だってヒュエちゃんの大好きな味でしょう! 友だちの好きな食べ物を嫌いだなんて勇者のすることじゃないよ! まして食わず嫌いなんて……! あむッ!」


 とカレンさん、ヒュエの口の中でかなり溶けて小さくなったキャンディを頬張る。


「うう……、なんか明らかに飴の触感じゃないのが出てきた。大丈夫だよ、私はトカゲさん直掴みにも耐えきった勇者だよ!」


 トカゲ?

 一体何があったんですかカレンさん?

 ところでトカゲはともかくイモリは毒があるからあまり食べたくないなあ。


「……カレン殿、タガメの身が出てきたら躊躇わず噛み砕くのでござる。舐めたって味が出るわけではござらんぞ」

「わかった……!!」


 がちゅっ。


「ふぇっ!? 何この今まで感じたこともないような歯応え!? そして出てくるプリップリの身!?」

「それがタガメの味でござるよ。手頃な一口サイズゆえ、露天のお菓子として定着したのでござる」

「凄いね! 凄いね! 今まで生きて来て知らない美味しさに出会えるなんて、まさに異文化交流だよ!!」

「喜んでもらえて嬉しいでござる! でもさっき言ったようにこの売り物はあまりいいものではないゆえ、今度拙者手作りの最高タガメキャンディをご馳走するでござるよ!!」

「本当!? 嬉しい!」


 カレンさんは本当に人と仲良くなる天才だなあ。

 自分とは異なる価値観もおおらかに受け入れ、愛そうと努力する。

 最初は仲が悪かった五大教団とが一つにまとまり、魔王とすら垣根を越えようとする今の状況は、カレンさんが大元なのかもしれない。


 ……ところで、キャンディ一つを巡ってカレンさんとヒュエが間接キスしまくってるのは女の子同士だからいいんですかね!?

 さっきから見守るだけで心ドキドキするんですが!?


 あと、ドラハもキャンディの中のタガメにそれほど抵抗感なく棒ごとバリバリ噛み砕いていた。

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