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347 問題あり

「……風主砲ヴェートーベン。威力、命中精度共に期待値に到達。機体への負担、目視にて見受けられず。成果は上々」


 何やら期待通りに行ったらしく、ジュオさんの上機嫌だった。


「いいものを作った。風機動銃ククルカン量産の暁には魔王などあっと言う間に叩いてみせる……!」


 あんなもの量産して大丈夫なんですか?

 最終戦争とかになりませんか!?


「あれを一機作るのにウチの研究室の予算一年分が消し飛んだから量産無理だけど……」

「使いすぎーッ!?」


 一年分の予算!?

 一年分って、具体的にいくらなんですか!?

 いや待てやっぱり聞きたくない!? 可愛い女の子に駅弁奢るのすら懐に痛みを感じる小市民の僕が聞いたら心臓止まる額であることは間違いない!


「ヒュエ。試運転は順調。次は機動性とか足回りもチェックしたい……」

「……」

「……ヒュエ?」


 ククルカンの中に乗り込んだヒュエからウンともスンとも返事がなかった。


「これは……」

「何かおかしいんじゃ……!?」


 さすがに不安になった僕たちが、棒立ちになったままのロボットに駆け寄り、強制的にハッチを開ける。

 すると案の定、目を回したヒュエが中から転がり落ちてきた。


「ヒュエーッ!?」

「ヒュエちゃーんッ!?」


 カレンさんと一緒になって介抱するものの、ヒュエは完全に意識が消し飛んでいた。


「…………風主砲発射による急激な神気消費、それから反動のダブルパンチで卒倒。神気の枯渇はエーテリアルの補助で解決できたつもりだったけど、反動は……。コックピット周りのショックアブソーバーを強化するべき……?」

「冷静に分析してないで助けてやれよ! 義理の妹だぞ!?」

「誰が義妹かーーーッ!?」

「ヒィッ!?」


 なんか奇声を上げつつヒュエが復活した!?

 たとえ意識を失っても義妹のフレーズに反応するなんて。そんなに嫌なの!?


「……ハァハァ。……不甲斐ない、意識を失っていたか。風主砲ヴェートーベンはククルカン最大の切り札。これを放つたびに卒倒していては実戦ではとても使えんな」

「コックピットの防護力を強化することで問題は解決できる。今日の試験操作はここまでにして、研究室に帰還させる」

「いいや、まだだ」


 ヒュエは立ち上がるが、やはり足下がフラフラしていた。


「まだ主砲の発射テストを行っただけだぞ。他の兵装の試射は元より足回り、連続運用による耐久性。実戦テスト。試さなければいけないことは数多くある」

「それは、コックピットの改善が済んでからで……」

「いや! まずできる限り多くの問題点を洗い出して、一挙に直した方が効率的だ。そのためにも今一通りの試験項目を進めるべきだ!」


 いや待て。

 見かねて僕は止めに入った。


「やるにしても少し休憩を挟むべきだヒュエ。さっきの滅茶苦茶な砲撃の反動は、思ったよりキミにダメージを与えている」

「……こうしている間にも、いつ魔王が襲ってくるかわからぬ。その時ククルカンが未完成では済まされぬのだ。一刻も早く迎撃態勢を整えねば……!」


 と言いつつ、再び操縦席へ乗り込もうとするヒュエ。

 やはり彼女からは相当な焦りが感じられた。

 迫りくる魔王の脅威。

 それを打ち砕く使命を背負った勇者。

 五大教団の五大都市をそれぞれ守る五人の勇者は、皆等しくその重圧にもがいていた。

 しかしこのヒュエからは、その上さらに深刻な焦りをもう一重ね感じられた。


「…………」


 そんな深刻なヒュエの首根っこを、むんずと掴む手があった。


「!?」


 そして無理やりと言っていい力で、ククルカンに乗り込もうとするヒュエを逆に引きずり下ろす。


「うわわわわわ……!? 何事!? ……カレン殿!?」


 引きずり下ろされたヒュエは、背後を振り向き困惑する。

 自分の首根っこを掴んでいる人物が、カレンさんだったことに。


「どうしたのでござるかカレン殿!? 拙者、見ての通り忙しいゆえ……!?」

「ヒュエちゃん、遊ぼう」

「え?」


 え?


「ヒュエちゃん、今がどういう状況かわかっているの? 私が来てるんだよ? お客様だよ? しかも私は光の教団を代表して訪問した光の勇者。同格である勇者がおもてなしするのは当然のことじゃない」

「いや、しかし、だから……!?」

「戦うことだけが勇者のお勤めじゃないんだよ。だから今から予定はキャンセルして、ヒュエちゃんは私と一緒に遊ぶの。ドラハさんも一緒に行きましょう!」

「はい、カレン様」


 ドラハも同調して二人、ヒュエの右手左手を取ってグイグイ引っ張っていく。


「ちょっと!? お二人とも拙者の話を聞いていなかったのでござるか!? 拙者には大事な使命が……! あああああ~~~~~ッ!?」


 有無を言わさず引きずられて、ヒュエの呻き声はドップラー効果を伴いすぐ消えていった。

 …………。

 ……あれは、カレンさんが気を利かせてくれたんだよなあ。


「……ありがとう。助かった」


 一方で怨霊のジュオが、残された鋼鉄ロボットにみずから乗り込んでいた。


「ヒュエのヤツ、最近ずっとこれの開発に付きっきりだったから、そろそろ息抜きが必要だと思っていた。アイツは真面目だから、誰かに強制されないと休まない」

「アナタが言ってあげればよかったんじゃないですか?」


 休め、と。


「私は無理。アイツは私を嫌っているから、私の言うことだけは断じて聞かない」


 だよなあ。

 ヒュエのジュオさん嫌いは相当なものだ。それだけお兄ちゃん大好きの反動なんだろうが。


「だからこそヒュエが、これの作成を依頼しに来た時はびっくりした。アイツが私に頼みごとをするなんて一生ないと思っていた」


 感慨深いジュオさん。


「それだけ彼女の意気込みが強いってことでしょう。彼女は勇者として、ルドラステイツを絶対守るつもりなんですよ」

「それだけなら、いいけど……」


 ジュオさんの意味ありげな呟きに、僕は引っ掛かりを感じる。

 しかしジュオさんはテキパキとロボットを起動させ帰り支度を整えていた。


「私はこのまま研究室に戻って、この子の改良を進める。ヒュエが私を頼ってくるなんて、この先もうないかもだから。頑張って恩を売っておく」

「ほどほどにしておいてくださいよ。アナタだって忙しんでしょう?」


 何しろ、近々結婚を控えた若奥様だ。

 式の準備やら何やらで本来なら目が回るほど忙しいに違いない。


「……心配ない。式の準備は周りの人がしてくれてる」

「おいおい」

「シバ様もそうだから。面倒事より仕事に集中してたい。私たちは似たもの夫婦」


 そう言ってロボットを運転し、去っていくジュオさんだった。

 ……相変わらず掴みどころのない人だよな。

 さてじゃあ僕も、カレンさんやヒュエたちのあとを追うか。

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