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346 機獣

「風機動銃ククルカン……!?」


 それがあの鉄の巨人の名前らしい。

 それでもまだ理解がまったく追いついていないが……!


「何だろう、この感覚……!? 説明されても目の前のものが何なのかまったくわけがわからない、っていう感覚……!!」


 この感覚だけは前にも覚えがあるような。

 そうだ。

 初めてカレンさんに小型飛空機を見せられた時にも同じ感覚がしたもんだ。

 目の前に見せられたものをまったく理解できなくて、説明されても説明の言葉自体がまったく理解できなくて、とにかく理解できない。

 そんな感じだ。


「一体何なのこれ……!?」


 そしてカレンさんもまったく同じ感覚を今回持ったようだった。

 ですよねー。

 わかりませんよねー。

 人間、何もかもわからないものを目の前に出されると呆然とするしかないですよね。


「ゴーレム、ですかねやっぱり? 人型ですし、無機物ですし」


 我々の記憶の中で、見た目もっともこれに近いのはやはりゴーレムだろう。

 しかしゴーレムは純然たる地属性モンスターだ。今目の前にいる鋼鉄の……、ロボット? なるものとは根本が違う気がする。

 これはエーテリアル研究者であるジュオさんの作り出した、機械類の一種。

 どちらかといえば、それこそ小型飛空機と同じ分類に入るのだろう。


「ジュオ、早速起動実験を行いたい。データ収集の準備は出来ているか?」

「万端オッケー。既に記録用の風乱銃をあちこちに放ってある。最新型の動画カメラを搭載で、あとから何度でも見返せるよ」

「よし」


 短い会話を経て、ヒュエは例の鋼鉄の巨人に乗り込んだ。

 ……乗り込んだ!?


「風機動銃は、ああやって操るもの」


 残されたジュオさんが淡々と説明する。


「魔王との遭遇のあと、ヒュエは私に直接オーダーを持ってきた。オーダー内容は『魔王に対抗できる殲滅力を持った兵装』」

「魔王に……」

「対抗できる……?」


 やはりヒュエは、ただひたすら魔王との戦いを想定していたのか。


「ヒュエの長銃術はたしかに恐ろしい。新旧勇者戦では戦いのフィールドが限られていた分、私の方が有利だったけれど。何でもありの実戦なら無制限の距離から一方的に狙い撃ちにされてしまう」


 たしかに。

 それぐらいヒュエの風長銃が誇る射程距離の長さは脅威で、敵に回せばあれほど怖いものはない。


「しかしヒュエがこれから戦う魔王は、どんなに正確で鋭い狙撃でも殺すことができない。対象の持つ防御力、耐久力が桁違い。アレを倒すには、それ以上の破壊力を持って根絶的に殺し尽しすかない」

「その破壊力を、ヒュエは求めてきたわけですか」


 彼女らの言う通り魔王は桁違いの神気量の持ち主で、大抵の攻撃は持ち前の神気障壁で掻き消してしまう。

 それに加えてヤツらは全員強力な再生能力まで持っていて、斬り刻まれた程度では死ぬことがない。

 かつてこのルドラステイツを襲ったラファエルなどまさにそうで、細胞数個を残して消し尽くしてなお殺すことができなかった。


 そんな相手にいくら正確な狙撃で、頭なり心臓なりを射抜いても意味はない。

 だからこそ、すべてを消し去る破壊力。


「そう、私はオーダーを満足させるのに、とにかく火力の増強を目指した。ブレイクスルーは求めず。ただひたすら今あるものを上乗せした」


 これまで開発してきた兵器。風銃。

 風の教団最高の研究者であるというジュオさんは、風乱銃だけでなく数多くの試験兵器を開発してきたことだろう。

 それら全部を合わせて、たった一人で運用できる形を目指したら……。


「……ああなったと?」

「自分でも割とうまくいったと思う」


 フンスと鼻息荒いジュオさん。

 自信作なんだ……、アレ……?


「風機動銃ククルカンに搭載された風銃兵装は、約二十種、六十門。そのすべてを搭乗したヒュエ一人で制御できる。大火力大兵装となってやむなく肥大化した重量も、追加したエーテリアル駆動機関による無限軌道で、実戦に耐えうる機動力を実現。カタログスペック的には単体で、過去出現した巨大モンスターを危うげなく殲滅することができる。まさに、ルドラステイツ驚異の科学力。ルドラステイツの科学力は五大教団一ぃぃ……!」


 わかりました。凄いということは充分にわかりました。


「だから落ち着いてお願いジュオさん……!」


 職人気質って、自分の得意分野になると途端に饒舌になるのが扱いづらい。

 まず何より何言ってるのかわからないし……!


「それでは試運転を開始する! 記録をしくじるなよジュオ!」


 鋼鉄の……、ロボット? だかからヒュエの声が聞こえてくる。


「……だから準備は済んでる。むしろアンタが早く始めないとダレてしまうかもよ」

「言ってくれる! では、風機動銃ククルカン! 始動!!」


 鋼鉄の獣が雄叫びを上げた。

 それは動力部が最大出力を上げる駆動音だったが、あまりの力強さに鼓膜が震えるほどだった。


「うぐるるるるるるる……!」


 そのけたたましさに、ドラハがビビッてカレンさんの腰にしがみついていた。

 と言うかこの子益々野生化が進んでいない?


「よぉし! まずは何より、一番強いヤツの試射から始めるぞ!!」


 意気揚々と叫ぶヒュエ。


「えっ? まさか」

「風主砲ヴェートーベン!!」


 ヒュエの叫びと共に、鋼鉄巨人の背部に折りたたまれていた筒状のものが展開され、肩に担がれたような体勢になる。

 あれぞまさに大砲だった。大砲を肩に担いだかのようだった。


 そしてその砲門から凄まじい空気の圧が放たれた。


 ドォンッッッッ!!!!


 砲の射線はまったく別方向なのに、充分に距離を離していたのに、直接頭を殴りつけてくるような震動が襲ってきた。


「あわわ……!」


 カレンさんやドラハなどは、その衝撃に二、三歩よろめいて、挙句尻餅をつくほどだった。

 そして実際に放たれた空気砲弾は……、標的に定められていたらしい小山ほどもある盛り土を苦も無く跡形もなく吹き飛ばした!


「……風主砲ヴェートーベンは、私がこれまで開発した中で最大化力を誇る風銃。風の神具だから飛ばすのは空気弾。それは基本で変わらないけれど、その規模、破壊力は火の教団の『メルト・グランデ』にも引けを取らない」


 周囲は、砲撃によって起きた気圧の急激変化で突風が吹き荒れていた。

 こりゃ、試運転のためにわざわざルドラステイツの外に出るわけだ。こんなの街中でぶっ放されてたら大惨事になっていたぞ!?


「あまりの重さ大きさ、消費するエネルギー量の多さに、人による運用が想定できずお蔵入りになっていたけれど、ロボットであるククルカンなら問題なく運搬できる。これで風の教団は新たな力を手に入れた」


 ……ひょっとしてこの人。物凄いものを作ったんじゃない!?

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