345 囁くゴースト
「「ヒィィーーーーーーーーーーーーーーッッッ!?」」
僕とカレンさん、揃って悲鳴を上げつつ飛び上った。
何故ならそこに悪霊がいたから!
悪霊!
ゴワゴワの黒髪をだらりと下げた女の悪霊!!
「ってこれジュオさんだ!!」
先々代風の勇者ブラストール=ジュオさん。
風の教団で研究者も務める彼女は、研究に没頭しすぎるため女の子としての身だしなみも無視してスキンケアも怠り、こんな悪霊みたいな外見になり果ててしまった。
「何度も繰り返してるはずなのに、このやりとり。まだ慣れない……!」
「あの、お願いですからサイレントで傍に立つのやめてくれませんか!? されるたびに寿命が一年縮んでますよ、きっと!」
カレンさんも、僕の体にしがみつきながら小刻みに震えていた。
「……フヒ、おひさー」
浜辺に上がった海草みたいに不気味な髪で顔全体を隠したジュオさん。
ヘタに応えたら取り憑かれそうで、返答に戸惑う。
「あーと。……まずは、ご結婚おめでとうございます」
「………………(ぽっ)」
そしてそう、先ほどルドラステイツ内で起きていたバカ騒ぎの根源。
風の教主の結婚。
それに目の前のジュオさんはとても深く関係しているのだった。
風の教主のシバと結婚するのがこの人だから。
「…………チッ!!」
僕がその点言及すると、隣で聞いていたヒュエが不愉快そうに舌打ちして、風長銃による銃撃を天に向けて放った。
……この子は相変わらずシバ大好きでジュオ大嫌いなのか。
ブラコンだなあ。
「というわけで! こちらが拙者の魂を売り渡した悪魔にござる!」
「義理のお姉さんになる人を悪魔呼ばわりしないでよヒュエちゃん!」
カレンさんのあまりにも的確なツッコミが飛んだ。
「……そうか、ヒュエはシバの妹になるんだから、ジュオさんがシバと結婚したらヒュエとは義理の姉妹になるのか」
「ヴぇろろろろろろろろ!! ごうろろろろああああッッ!!」
なんかヒュエが発狂した。
どんだけ今回の結婚を受けいれられないのこの子?
「それは! それは今どうでもいいのでござる!!」
「現実から目を逸らした」
「問題は、この女こそ風の教団で最高の研究者だということ!! 風の神術とエーテリアル技術を組み合わせ、ヘンテコな発明をすることにかけてこの女の右に出る者はおりません!」
「フヒ、マンセーどうも……」
まんざらでもないらしい様子のジュオさん。
たしかに風の教団は、五大教団の中でもっともエーテリアル技術の研究が進んでいる。
本来であれば機械文明は教団への信仰を妨げるということで基本禁止傾向にあるのだが。
教団みずからが率先して研究を行っているのは、この風の教団だけだ。
「だからこそ拙者は、この亡霊女に下げたくもない頭を下げて依頼したのでござる。新しい神具の開発を!」
「「新しい神具!?」」
その宣言に、僕もカレンさんも声を揃えて驚愕した。
神具というのは、神気を使って戦う者にとって必須の武器で、その界隈の頂点に立つ勇者にとっても絶対必要となる。
それどころか勇者には世に二つとない特別な神具が下賜される仕来りで、カレンさんの持っている聖剣サンジョルジュも、カレンさん専用に完全オーダーメイドされた一点物だ。
さらに言えばヒュエたちの扱う風の神具は、エーテリアル技術の最先進という土地柄、機械技術まで盛り込まれている。
ヒュエの風長銃。
シバの風双銃。
ジュオの風乱銃。
いずれも他の教団ではまったく見られない、パッと見ただけでどのように敵を攻撃するのかも想像がつかない武器だった。
この上さらに、新兵器を開発するというのか。
「でもヒュエちゃん……、さっきも言ったけど、ヒュエちゃんは風長銃の狙撃だけでも充分に強力だよ? なのに無理して戦闘スタイルを変えなくても……!?」
「魔王に通じなければ意味がないのでござる! 今の我が目標は、ひたすらに打倒魔王! そのためにジュオにアレを作らせた!」
一体何を作らせたの?
「カレン殿とハイネ殿が来てくれたのはよいタイミングだ! ジュオ! 今こそアレの試運転を始めるぞ!! 我が風の操銃術と、お前の研究技術が合わさる時!!」
「……コトメの頼みとあれば否とは言えぬ。付き合ってやるとも」
コトメ→小姑のことらしい。
「……ではスイッチオン。起動」
ジュオさんが、服の中からなんかリモコンめいたものを取り出して、ボタンを押した。
同時にゴゴゴゴゴ……、と地響きめいた音が。
……いや。
実際に地響きしている!?
「なんだ!? 何が起こるというんだ!?」
予想だにせぬ不審な展開!?
我関せずと、その辺の虫を追って遊んでいたドラハも驚いてカレンさんにしがみついていた。
「ちょッ……! ッ!? ハイネさんアレ!?」
「何です!?」
「岩、岩が……!?」
僕らが今いるのは、ルドラステイツから離れた無人の荒野。
見渡す限り短い草しか生えていない荒れ地ではあったが、そこにポツンと、見上げるような大岩が一つだけそびえ立っていた。
よくある自然物かと思って僕は気に留めていなかったが、どうやら違った。
それは自然物の大岩などではなく、何か巨大な人工物にカバーを被せて、岩のように擬態しているだけだったのだ。
「さあ皆さま、御覧じろ!」
ヒュエがバッとカバーを剥ぎ取る。
そのうちから現れたのは……!?
「何ッ!?」
「何これッ!?」
僕にもカレンさんにも理解できないものだった。
あえて言葉にして表現するならば、鋼鉄の巨人?
人のシルエットをした、鋼鉄で出来た大きなもの。
それがひとりでに動いている、咆哮のような駆動音を上げながら!
「何これ、もしかしてゴーレム!?」
「たしかに似てはいますが……!?」
でも違うだろう?
ゴーレムは本質的に地属性モンスターだが、この鋼鉄巨人からは地の神気は感じない。
ヤツから感じるのは、明確に……、風の神気。
「……これこそ、私の研究、集大成」
ジュオさんがボソボソとした口調ながらも、誇らしげに語った。
「今まで開発してきた風銃のすべてを組み合わせ、それを円滑に運用しようとした結果。機械構造で動く人型になってしまった超兵器。いわばロボット」
「「ロボット!?」」
「風の神気で動く神具ロボ。……名付けて風機動銃ククルカン」




