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344 シルフ再会

 そんなわけでヒュエのいる場所を訪ねてみると、なんと彼女は風都ルドラステイツの中にはいなかった。

 移動都市であるルドラステイツの外、何もない荒野にポツンと彼女は立っていた。


 風の勇者トルドレイド=ヒュエ。


 長い黒髪をポニーテールに結んで、背筋を真っ直ぐ凛々しい立ち姿は、遠目から見てもひたすら絵になる。


「いた! ヒュエちゃーん!!」


 そんな彼女を認めて真っ先に駆け出したのはカレンさんだった。

 久方ぶりの勇者仲間との再会でテンションが上がるカレンさんも仕方がない。


「あっ……」


 そしてヒュエの方も、駆け寄ってくるカレンさんに気づいたようだ。


「申し訳ありませぬ!!」


 とダイビング気味に土下座した。


「「ええぇーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」」


 これにはカレンさんだけでなく僕までビックリ。

 何故会っていきなりの最大限の謝罪!?


「お久しぶりにござる! 実は拙者、事前の通達でカレン殿たちがお越しになることは知っておりました!」

「あ、はい。お久しぶり……!」

「されど拙者、自分の修行を優先して出迎えにも上がらず、風の勇者として、また友人として不徳の極み! 合わせる顔がないゆえ地面に密着させまするー!」

「ああああああああああ……! そんなにお顔を地面に刷り込ませないでええええ……!」


 困惑するしかないカレンさんであった。

 同じ勇者でもカレンさんと比べれば、僕にとってまだまだ面識の浅い風の勇者ヒュエ。

 いまいち掴みどころのない彼女だが、ただ他の勇者たちと同じく特徴的なところがあるのは間違いない。

 度を越えて……、真面目? なのだろうか?


「大丈夫だよヒュエちゃん。私そんなの気にしてないから。いきなり押しかけて来た私たちの方が悪いんだから、ヒュエちゃんの修行を邪魔したらこっちの方が心苦しいよ?」

「そ、そうだぞ、だから心配しないで……!」


 僕も一緒になってフォローする。

 それでやっとヒュエは地面から顔を上げてくれた。案の定土だらけだった。


「カレン殿、ハイネ殿、お二人の大空のように広い心、痛み入る」


 と再び深く礼をした。

 そこへ一番あとからやってきたドラハが言う。


「私は許してないけどな」

「本当に申し訳ありませぬぅ~~~ッッ!!」


 またヒュエが顔面を地面に擦りつけた!?


「元の木阿弥!?」

「ドラハさんッ! もう、本当に外弁慶なんですから!!」


 ヒュエだけでなく、ドラハにまでこんな一面があったなんて。

 そうか……、ドラハって人見知りするだけでなく、部外者には滅茶苦茶攻撃的になるのか。

 駅でヨリシロの伝言を受け取れたのは、光の教団支部の職員相手で身内センサーがギリギリ働いたのだろう。


「とにかく! ……ヒュエちゃん、修行中だったの? だからルドラステイツの外にいるんだね」

「然り。今の修行は、少々派手なので。兄上様にお願いして人のいないこの地に逗留してもらったのでござる」


 妹にお願いされて移動都市の行く先を決めたのか……。

 シバってあれで案外兄バカ……!?


「そっか……。ヒュエちゃんも風の勇者としてとっても頑張っているんだね」

「拙者、勇者に就任したのはつい最近ゆえ。先んじて経験を多く積んだカレン殿たちと肩を並べるには、人一倍修行する以外に方法がござらぬ」

「そんなことないよー。ヒュエちゃんは充分に強いよー」


 たしかにヒュエは、五人の勇者の中でも風長銃という一風変わった神具を扱い、その戦闘法も極めて特異だ。

 機械構造と組み合わせた神具で空気の弾丸を遠距離まで放ち、しかもそれを正確に狙い撃ちして敵を貫く。

 その攻撃範囲の広さは脅威そのもので、下手をすれば自分の存在に気づかれることもないほど遠くから、何かが起こったと知られるより早く撃ち殺せる。


 勇者五人が揃ってチーム戦が想定されるようになってから、後方で戦場全体を俯瞰しつつ、前衛に迫りくる危機を速やかに排除できるヒュエのポジションは超重要だった。

 勇者同盟の中でヒュエを軽んじている者など一人もいない。


「修行って、やっぱり狙撃の練習? ここから遠くを狙って正確に当てる練習をしているの?」

「いいえ、そうではござらぬ」


 え?


「拙者、ただ今新しい戦いのスタイルを模索中なのでござる。今までの風長銃では、魔王に太刀打ちできぬと考え至ったゆえ」

「ええッ? でも、ヒュエちゃんの狙撃って超強力だよ? ヒュエちゃんになら私も、ミラクちゃんもシルティスちゃんもササエちゃんも安心して背中を預けられるんだよ?」

「しかしそれでは拙者、皆々様に最前を任せ、守っていただけねば戦えぬ身となってしまいまする。勇者を名乗る以上は、単体でもモンスターと……、魔王と渡り合える力を得なければ!」


 ヒュエは力強く語った。

 少し気負いすぎているようにも感じられる。魔王という強大な敵を目の前にして緊張してしまうのは、今まで他の勇者でも見られたことだが……。


「ちょうどいい機会、カレン殿やハイネ殿にも拙者の新しい力を検分していただきたい。まだまだ未完成なのでお二方からの意見などを聞かせていただければ参考になりまする」

「は、はい……!?」


 真面目な人は時に押しが強い。

 押し流されるような形で、僕たちはヒュエの修行を見学することになった。


「ご期待くだされ。この力、必ず魔王にも対抗できると存ずる。このために拙者、悪魔に魂を売り渡したゆえ!」

「「悪魔!?」」


 何だか穏やかじゃないな!?

 命と魂は大切にして?


「皆にもご紹介いたす。拙者が魂を売った悪魔こそ……!」

「どもー……」


 そして現れた。

 先々代風の勇者ブラストール=ジュオ。

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