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339 二人きり

 僕ことクロミヤ=ハイネ、in列車。


 魔王にまつわる地都イシュタルブレスト~水都ハイドラヴィレッジの騒動を治めて後、本拠地である光都アポロンシティに帰還の途中です。

 奇しくも遠出先で光の勇者カレンさんとも合流し、共に戦いを乗り越えて無事に帰ることができる。

 そんなこんなで僕たちはエーテリアル動力で駆動する列車に揺られて、帰途の旅を楽しんでいる最中だった。


 ……だったんだけれど。


「それでですね? シルティスちゃんたら酷いんですよ!?」

「はあ……」

「私のことを指して『子宮で物事考えてる』とか言ったり、ウネウネベッチョリなトカゲ掴んですっごく気持ち悪い私を助けてくれなかったり……! あ、でも神魔王に立ち向かってる時のシルティスちゃんは凄くカッコよかったです! 愛することの凄さを見せつけられました!」

「はあ……!」

「ミラクちゃんも、最初に魔王さんと戦ったのはあの子でしたから! すべての発端はミラクちゃんが切り拓いたと言っていいですね! 私は最後の方しか目撃できなかったけれど、魔王ミカエルさんとのパンチ合戦は本当に凄かったです!!」

「はあ…………!!」


 と。

 列車内でずっとカレンさんのお喋りが止まらないのだ。

 僕が地母神マントル復活のためアポロンシティを出てから、彼女とはずっと別行動。

 こんなに長く行動が分かれることは出会って以来なかったからなあ。


 それだけカレンさんの中で鬱憤が溜まっていたということか。

 僕と一緒にいられなかったから?

 それが理由でストレスが溜まったと?


 ……一瞬、自意識過剰ではないかなと思った自分が。


「あ~あ。ハイネさんも私と一緒にれば、全部を生で目撃できたのになー。歴史が変わるような大きな出来事を、私と一緒に見守ることができたのにな。あ~あ」


 あ、やっぱり自意識過剰じゃない。

 カレンさん明らかに、僕と長く離れ離れになってストレス多過だ。


「あの……。………………。……カレンさん」


 僕は超慎重に言葉を選びつつ言った。


「……ごめんなさい」

「なんで? なんで謝るんです? ハイネさんは、世界を救うための大事な用事でアポロンシティを留守にしたんですよね? ヨリシロ様と二人きりで」

「……」

「ヨリシロ様と、二人きりで」


 ……。

 いえ、正確には風の教主シバの野郎もいましたので真実二人きりというわけではないのですが。

 そんなことを行っても下手な言いわけにしかならず、熱く燻る炎に油を注ぐことになりかねない。


 そもそも、僕がヨリシロやシバと共に地母神復活のため赴いたのは、僕自身の正体――、闇の神エントロピーの転生者であること――、に直結することだから包み隠さず話すことは絶対無理だし。


 どう言ってご機嫌を直してもらえばいいのか……!?


「はあ、いいですよー……」


 そんな僕を眺めて、カレンさんは盛大な溜息をついた。


「そんなに困った顔されたら、私もこれ以上ネチネチすることはできません。私はハイネさんのことが大好きで、ハイネさんに嫌われたくないですから」

「はあ……!」


 カレンさんは、本当こういうことハッキリ言う人になった。

 ところで僕さっきからほとんど「はあ」しか言っていないのだけれど。


「ハイネさんに謎めいたところがあるのは前々からわかっていたことですし、それを今さら追及しても意味ないです。私はハイネさんを愛しているから、私の知らないところも含めてハイネさんを信頼する。それだけです」


 なんか凄いカレンさんの言い切りのよさ。聞いてるこっちが圧倒される。

 ここ最近ずっと別行動をとっていた僕らだが。ミラクの激闘やシルティスの大愛。それにササエちゃんの愚信などを間近で見守り、カレンさんも何がしかの影響を受けたのかもしれない。

 彼女自身も既に光の神勇者への進化を果たしているし、僕のいない間カレンさんの成長は著しかったのではあるまいか?


 そんなカレンさんの胸の広さに、僕はただただ甘えさせていただくしかないのだった。


「……なんか、本当にすみませんカレンさん」

「もー」


 !?

 もしや僕またマズいこと言った!?


「私がハイネさんから聞きたいのは、そんな言葉じゃありません。それくらい、いい加減に察せられるようになってください」


 と露骨に頬を膨らませるカレンさん。

 怒っているというより拗ねている感じだ。


 …………。

 よし、言おう。


「たとえ何が起こっても、僕がカレンさんを嫌うということだけは絶対にないです」

「……及第点です」


 カレンさんの表情がひとまず緩んだ!

 ……いや、蕩けた!?


「本当はもっとはっきり『好き』とか言ってほしいんですけれど、そんな奥ゆかしさもハイネさんのいいところですよね」


 そう言ってカレンさんは、僕の向かいの席から隣の席へ移動した。

 ここは列車のクロスシート。

 二人用の広さの席が対面に向かい合い、僕の座る席の向かい側には誰もいない。さっきまでそこいたカレンさんが僕の隣の席に移動したから!

 二の腕とか、ふとともとか!

 女の子の柔らかい部分が僕に密着する!!


「ああ……! 私、自分でもびっくりするぐらい大胆になっています。仕方ないですよね。二人きりなんですから……!!」


 そうですね!

 これまでは大体いつもミラクなりヨリシロなりがいましたし、二人きりなんて相当珍しいですね!!


「でも、ハイネさんはつい最近までヨリシロ様と二人きりだったんですから、私にもご褒美タイムがいないとズルいです。アポロンシティに到着するまでの短い間ですけど、しっかり二人きりを楽しませてくださいね」


 だからヨリシロと一緒にいた時はシバもいて……。

 って言うか、ああああああ! 密着するカレンさんの髪のいい匂いが伝わってくるほどに!!

 ヤバいこれは理性を溶かされる!

 列車の旅ってこんなに楽しくてときめくんですね! 二人きりの列車の旅!


「カレン様、ハイネ様」


 いや、二人きりでもなかった。

 僕らと同じ光の教団に所属するドラハが、少しの間離席していたのから戻ってきた。


「おかえりなさいドラハさん。美味しそうな駅弁ありました?」


 第三者が帰還して理性が戻ったのか、カレンさんは僕との間にほんの少しだけ隙間を空ける。

 ほんの少しだけ。


「はい! 停車時間中に駅に降りて買い物をするのは、制限時間があってドキドキしました。選ぶ時間が怖かったので、結局全種類一つずつ買ってきました!」

「その代金……! 僕のポケットマネー……!」


 光の教団から出ている給金の半分を実家に仕送りしている僕としては、けっこう痛い……!


「駅弁美味しいですよね! 前の駅で食べたのも凄く美味しかったので、もっと駅弁食べたいです! 駅弁したい!!」

「そうですね。駅弁したいですね! 滅多にないですから思う存分駅弁しましょう!」


 やめて!

 なんかよくわからないけど問題ありそうだからやめて!


「あれ? でもドラハさん。品物選ばずに全種類買ってきた割にはえらく時間がかかりましたね? 私、随分長く迷ってるなあって思ったんですが……?」

「買い物自体はすぐに済んだんですが、そのあと人に呼び止められました。さっきの停車駅の街にある光の教団支部の方だそうです」


 え?

 列車は既に走り出して、停車駅をあとにしていた。


「その人から伝言を預かりました。ヨリシロ様から通信で送られてきた緊急指令だそうです」

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