34 騎士団とは
※ご報告とお礼
本作『世直し暗黒神の奔走』がジャンル別ハイファンタジー日間ランキングで5位に入りました!
総合日間ランキングでもベスト10入りしており、皆様の応援のお蔭で本当にありがとうございます!
これからも楽しんで読んでいただけるよう頑張ります。
では、これより本編をお楽しみください。
そうして僕がヨリシロから言い渡された任務とは……。
騎士たちの通常任務を体験することだった。
「よかった……! 想定以上の無茶振り任務じゃなくて本当によかった……!!」
何せあのヨリシロ=光の女神インフレーションである。
「夜伽をしなさい」とかフツーに言い出しかねないあの女の下に付いたのは、恐ろしい失敗だったのではないかと今更になって思えてくる。
「まあアイツも今は人間。社会のルールは弁えるだろう……!?」
今回言い渡された任務も、極めて理に適っているものだし。
『勇者補佐役として勇者のためだけに動くにしても、騎士団との連携は必要不可欠でしょう。そのためにも互いに理解しあうことが大事です。ハイネさんには数日、騎士団の小隊に所属してその働きを体験してもらいます』
というのが彼女の弁だ。
その一方で、勇者であるカレンさんにも補佐役がついたことで「勢力が強化された」と思われがちな昨今。その補佐役を限定期間ながら騎士団そのものの指揮下に置くことで、騎士団長を始めとする旧守派というか反勇者派の不満を和らげる目的もあるのだと思う。
政治的判断というヤツだ。
この処置を後になって聞いたカレンさんも渋々ながら了承してくれた。
極光騎士団は、勇者と騎士団長との間で勢力が分かれ、対立が起きつつある。
これでは折角結べた火の勇者との協力関係も意味をなさなくなってしまう。あの協力は現在あくまで勇者同士の個人的な協力で、教団同士は依然として仲が悪いままなのだ。
カレンさんが目指す、モンスターから人々を守るための完成された体制作り。そのためには騎士団の改革が必要不可欠だろう。
そのためにもまず相手のことを知るのは足掛かりとして悪くない。
* * *
「というわけで、よろしくお願いします」
「何が『というわけ』だ?」
明朝、騎士団の詰め所を尋ねた僕に応対したのは、知ってる顔だった。
ベサージュ小隊長。
僕の故郷の村に新人募集できていたあの人だ。
「またお会いしましたね。その節はどうも」
「私はもう会うことはないと思ってたんだがな……! 貴様が試験に落ちて厨房下働きに回されたと聞いてどんなに喝采したことか……! それがこんなに早く……! しかも中隊長待遇の特別職だと……!」
「目まぐるしくて参っちゃいますよねー」
「それは五年かけて小隊長になった私への当てつけかッ!?」
何か知らんがキレられた。
毎回自己コントロールが完璧でない人だ。
「だが任務ならば仕方がない。クロミヤ=ハイネ補佐役。貴殿には数日間、我が小隊に入って騎士団のイロハを学んでもらう。その間、貴殿は私の指揮を受けることになるが異存はないな?」
「ありませーん」
「クッソ……! まあいい、まずは極光騎士団の成り立ちから説明しよう」
え? そこから?
割と律義な人なんだな。
「基本的なことだが、我ら極光騎士団は光の教団の武力機関として成り立っている。他の地水火風の教団にも同じような兵士団が存在し、教団を守るための戦いを目的としているのだ」
「それって、火の教団の業炎闘士団みたいな?」
「そうだ。他に風の教団の旋風遊撃団、水の教団の流水海兵団、地の教団の焦土殲滅団などがそれに当たる。それぞれ教団創設の際、同時期に立ち上がった。モンスターが発生するより昔は、これらの武力機関が教団の権威を守るため、互いに戦争しあっていた時代もある」
「そんな時代が……?」
「長い戦乱で疲弊したのと、エーテリアル発見と同じ時期にモンスターが発生し始めたことでなし崩し的に休戦になっているが、牽制のし合いは続いている。昨今エーテリアル機器の発展で減少している信者の奪い合いも激化しているしな」
なるほど、そういう事情か……。
僕が封印されて眠っていた千六百年の間に乱世もあったということだ。
その根幹に五大教団――、あの五大神が関わっていることに引っかかりを感じないこともないが。
後でヨリシロかクソ牛に問い詰めてみるか。
「まあ、今のところモンスター害の方にかかりきって人間の争いはほとんどなく、平和と言えば平和だ。その点モンスターには感謝しないといかんのかな?」
「じゃあ騎士団の主な仕事はモンスター退治になるんですか?」
「イヤ、モンスターだって年がら年中発生しているわけじゃない。我々の一番メインの仕事は有事に備えての鍛錬だ。体作りは無論のこと光の神力を操るための精神鍛錬も欠かせないな。勇者カレン様とまではいかずとも、我ら光騎士の放つ『聖光弾』はモンスターに対する必殺武器だ」
「ああ、僕にまったく通じなかった……」
「悪かったな鍛錬が足りなくて!!」
モンスターは神が歪んだ摂理で生み出した仮の生命。
神力を固めて作った仮の肉体は、同じ神力をぶつけることで対消滅し、簡単に破壊できる。
……普通に殴るよりは簡単に、というレベルだが。
ただ例外もいる。こないだ戦った炎牛ファラリスなどがまさにそれで、神力を極限凝縮して作り上げた鋼鉄の皮膚は、よほど強い神力でなければ崩せないし、物理的に壊そうとすればなおさらだ。
そういうのと対峙する時に、ただの騎士と勇者との差が出てくるってわけで。
「では、今日もトレーニングを?」
「それもいいが、せっかく補佐役殿が見学に来てくれたのだ。もっと実質的な業務を見ていただいた方がよかろう」
そう言ってベサージュ小隊長は得意げな笑みを見せた。
「平穏無事な時にも、平和のために我々ができる仕事がある。モンスターのような目に見える脅威とは違う、小さな危険を摘み取るのだ。地味で単調だが、それでも平和のために欠かせない仕事。それは……!」
「おおっ、それは!?」
「それは……、アイドル狩りだ!!」
「……あの、すいませんもう一度?」
「アイドル狩りだ!!」




