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337 御勧請

「両方とも正しい? まあまあ……!」


 マントルの、目からうろこが落ちたかのような声の弾み方。


「その発想はなかったわ! どちらかがポジなら、どちらかがネガじゃないといけないとばかり思っていた!!」


 白黒ハッキリさせたいお年頃が千六百年続いたマントルだった。


「ところがどっこい『正義は勝つ、悪は死ね』だす! ゆえに真のネガポジは、生きるか死ぬかのみに関わるんだす!!」


 ……今さらながらに思うんだけど。

 地の教徒の人たちの考え方怖い。


「オラたちは既に刃を合わせ、審判を決しただす! どちらも生き残っただす! この上は『両方正しい』という判断が下されるべきだす! 地の教団流だす!!」

「ねえガブリエル……、アンタたちやっぱり人間滅ぼした方がいいんじゃない?」

「えぇ~?」


 シルティスとガブリエルが小声で話しているが、この殺伐すぎるやり取りに外野も戦々恐々としていた。


「えっと、じゃあどうすればいいのかしら? 人間もモンスターも滅ぼさないとしたら、誰を滅ぼせばいいの?」

「誰も滅ぼさなくていいんだす! ここはカレン姉ちゃんたちの仰る通り、共存を目指してみてはいかがだすか!?」

「え?」


 滅ぼすという発想から脱却できないマントルに戦慄し、それをサラッと却下する神にも負けないササエちゃんの押しの強さにも戦慄した。


「カレン姉ちゃんたちは、人間とモンスター様の共存をご提案しとるだす! しかし! 人とモンスターの共存ならば、我が地の教団こそがもっとも年季入っとるだす!」

「まあ、たしかに……!」


 何しろゴーレムとの百年来の付き合いだからなあ。


「我がイシュタルブレストが、ゴーレムと切っても切り離せんのは周知のとおりだす! 人間とゴーレムは、百年の長きに渡りずっと仲良しだったんだす! これも地母神マントル様のおかげだす! どうもありがとうだす!!」

「あらあら、そんなにお礼を言われると照れるわあ!!」


 ありがとうの畳みかけにマントル有頂天。


「しかし……! その関係も、『御柱様』がご乱心めされてオジャンだす! あれこそまさに痛恨事だす!! 誰だすか、オレたち人間とゴーレムさんたちの蜜月関係に水を差したのは!?」

「うぐッ!?」


 ナチュラルに神様を抉ってくるササエちゃん。


「さらにしかし! 今日このウリエル殿が目の前でライフブロックを生み出したのを見て、オラの心はときめいたんだす! この気持ち、まさにナイスアイディアだす!!」

「「「「「「ナイスアイディア!?」」」」」」


 外野も揃って戸惑った。


「『御柱様』がお隠れになり、ゴーレムが生まれなくなった今。しかしこのウリエル殿を新たにイシュタルブレストにお迎えできれば、ゴーレムは再び生まれてくるだす! 全盛期再来だす!!」


 えええええええええええッッッ!?


「まあまあまあ! それはたしかにナイスアイディアだわ!!」

「いや、でもそれは……!?」


 たしかに共存共栄はいいことだろうけれども、あまりにモデルが確定しすぎてはいませんか!?

 ……いや、だからこそ、過去百年からゴーレムと共存してきた地の教団、地都イシュタルブレストならではなんだろうけれど……!?


「話はまとまっただす! さすればウリエル殿! 今すぐオラたちの都、地都イシュタルブレストにお越しいただきたいだす!」

「いや……、話がまとまったどころか、提案されて面食らった段階でしかないんだけれど……!」


 驚くばかりのウリエルである。

 しかし、そんな相手の驚きに合わせてくれるほど情け深いササエちゃん&マントルではない。


「祖母ちゃんは、よそ様からエーテリアル技術を導入することでゴーレムの穴埋めに使おうとしとるだすが、また大いに方針転換の必要がありそうだす! 早速戻ってタウンミーティングだすよーーッ!!」

「えッ!? えッ!? ええッ!? ぐるぐる巻き!?」


 地の魔王ウリエル、戸惑いのままに捕縛される。

 ササエちゃんが地面の土を錬金し、ロープというかワイヤーを作り出してそれでがんじがらめにしたウリエルを。

 ついでに戦いでぶっ壊れたゴーレムからライフブロックも根こそぎ回収し、やはり地面の土から錬金した風呂敷に包み込む。


「それではカレン姉ちゃん! ミラク姉ちゃん! シルティス姉ちゃん! 他!!」

「「「「「は、はい……!?」」」」」


 呼ばれて応えるのが精一杯の僕ら。

 っていうか僕のこと魔王もろとも他でまとめた……?


「お久しぶりんこで積もる話も山盛りだすが、今日のところは急事にて失礼するだす! 一刻も早く、この釣果を祖母ちゃんたちにお見せしたいゆえ、だす!!」

「釣果って僕のことかいッッ!?」


 網にかかった魚みたいになってるウリエルがわめき散らした。


「そんではバイチャだす! 近々また会って、近況を報告するだす!!」

「ワタシも一緒に行くわ! ワタシ! 今神として千六百年間で一番輝いてる!! ワタシ神で本当によかった!!」


 ササエちゃんとマントルのテンションが完全に同調している……!!

 大丈夫なのかこの二人。これからちゃんと分離できるのか!?


「ぎゃああああああああッ!? 待って! 待って!! 僕は一緒に行くとは一言も言ってないし!! 放せ! この縄を解け! せめて引きずって行くのはやめて! 地面に擦れて樹皮がベロッて剥がれる!? ぎゃああああああああ!! もしかして本当にこのままイシュタルブレルトまで引きずってくつもり!? 到着するころには摺り下ろされて足しか残ってないとかになるぅぅぅぅぅ!! ホントに待って! 待ってってば!! うぎゃあああああああああああああああああッッ!?」


 ウリエルの断末魔がドップラー効果を伴って、地平線の向こうへ消えていった。


「うわぁ……!」


 残された僕たちは、せめてウリエルに哀悼の意を表し、溜め息を搾り出すことしかできなかった。

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