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336 感謝へ感謝

 何故礼を言うのか?

 たしかにモンスターを、特にウリエルの源流となる地のモンスターを生み出したのは地母神マントルだが、それはもう遥か昔のことだ。

 モンスターが自我を獲得したのは、モンスター自身の変遷によるもの。

 しかも神は、それこそモンスターをただの道具としてしか見なしてこなかった。

 かつて僕が、闇の神エントロピーとして他の神と争った理由、人間への扱い――それと比べても、モンスターの立場は過酷なものであったはずだ。


 それでもなお、魔王ウリエルは感謝した。

 生み出してくれた。ただその一事のみを見て。


「まあ……!」


 どこからか響いてくる、ふんわりした声。


「まあまあまあまあまあまあまあ…………!!」


 その声は大人化したササエちゃんの口から漏れだしたものだったが、ササエちゃんの口調とは明らかに違う。

 今は神勇者としてササエちゃんと融合している地母神マントルの声だった。


「ありがとうなんて……! ありがとうなんて……!!」

「マントル様?」

「ワタシ言われたの初めてですわ!!」


 なんかマントルが手放しで喜んでいる。


「ワタシ、ずっとずっと人間さんたちのお役に立ちたいと、色んなことをしてきました。でもいつも思った通りにはいかなくて、失敗して、インフレーションさんにしばかれたり、エントロピーさんに消滅させられたり……」


 紛れもない事実なんでフォローしようがない。


「でもワタシ、モンスターさんからお礼を言われたってことは、モンスターさんのお役に立てたんですね! 人間さんのお役には立てなくても、モンスターさんのお役には!!」

「え? いや、そんなことは……!?」

「わかりました、ここはもうモンスターさんの希望に沿って人間さんを滅ぼしちゃいましょう!!」

「「「「ちょっと、ちょっと、ちょっと待って!?」」」」


 相変わらずマントルは単純に物事を決めすぎる。

 お礼の一言だけで掌返すとか!!


「待つだすよマントル様! オラたち人間だって日夜マントル様に感謝しとるだす! おはようからおやすみまでサンクスだすよ!!」

「あらそう?」

「マントル様がオラたち人間を生み出したことにも感謝しとるだすし、日々の糧を与えてくださってることにも感謝だす! ゴーレムたちを遣わしてくれたのにも感謝だす! こうしてオラを神勇者にしてくださったのも感謝だす!!」

「あらあらあら、人間さんもそんなに感謝してくださっていたの!? 直接言ってくださらないのだから気づかなかったわ!?」

「常日頃から礼拝堂とかで感謝の祈りを捧げとるだすよ!! それにさっきも直接感謝してると言っただすオラ!」

「あの時は『信じる』って……?」

「似たようなもんだすよーッ!!」


 ところでこの会話。

 ササエちゃんとササエちゃんに憑依したマントルとの会話だから、二人の人物が一つの口で会話しているという非常にシュールな光景となった。


「そう、そうなの……!? じゃあ、ワタシ人間さんのお役にちゃんと立てていたの?」

「ちゃんとどころか、毎打席毎出塁の打率十割だすよ!! マントル様はサイコーの神様だす!!」

「まあまあまあ!!」


 マントルの喜びの波動がここまで伝わってくる……。


「ワタシ、そんなこと言われたの創世以来一度もありませんでした!! ワタシ、人間さんたちのお役に立ててたんですね! 役立つ神でいられたんですね!」


 本当に嬉しいんだなあ……!

 他者のためにあれだけ頑張れる神だからこそ、日頃から流されやすいのかもしれない。

 とにかくマントルの誰かに尽くそうとする思いは、千六百年を経てついに報われたというわけか。


「わかりました! ワタシを信じてくれる人間さんのために、人間さんを滅ぼそうとするモンスターさんを滅ぼしましょう!!」

「ちょっと、ちょっと、ちょっと!?」


 今度はウリエルが慌てる。


「それは困ります! 僕たちは既に生み出された意味を手放すことはできません! それに僕たちだって生み出されたことを感謝しているんです!! さっきそう言ったじゃないですか!!」

「あらあら、そうだったわ」


 マントルの中で二つの共立し難い事実が衝突した。


「あら? あら? ……これ、どうすればいいのかしら? 困ったわ? どうすればいいのかしら?」


 彼女に感謝してくれたモンスターの望みを叶えるならば、人間を滅ぼさなければならない。

 彼女を信仰する人間のためには、人間を脅かすモンスターを滅ぼさなければならない。

 これまで極めて単純な結論しか出してこなかったマントルにとって、単純さだけでは絶対解決できない矛盾が発生した。


「どうすれば、どうすればいいの!? 人間のためにモンスターを滅ぼす? モンスターのために人間を滅ぼす? ……あ! 両方滅ぼす!?」

「「いやいやいやいやいやいや!!」だす!!」


 危うくカタストロフに行きかけていたのを、地の魔王と勇者が二人がかりで止めた。

 ……アイツ結局、破滅的な方向へ行く傾向みたいなのがあるんだな。


「ダメです神様! 短絡思考しないで! 熟慮と議論を重ねて!!」

「そうだすよ! それに、その件には既に結論が出ておるだす!!」


 え?


「言ったはずだす! 正しいかどうかは死合いにて決めるだす、と! 生き残った方が正しいのだす、と! そしてオラたちは実際に死合っただす!!」

「でも……、僕たちはどっちも死んでないじゃないか?」


 ウリエルがうわ言のように質問した。

 もう事態にまったく付いて行けないと、今にも悲鳴を上げそうだった。


「どっちかが死なない限り結論は出ないというか……! だからまた斬り合うとか言わないよね!?」


 やはりヘタレめ。


「そんなことは言わんだす。この死合いは既に終結しただす。そして結果は示されただす。両方とも死なんかった。両方とも生き残っただす。と言うことは……!」


 審判が下った。


「どっちも正しいんだす!!」

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