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334 声援

「頑張れ? 頑張れって、たったそれだけ!?」

「そうだ、それ以外に何がある!?」


 と言いつつミカエルは真横へ手を掲げ、超広範囲に渡る大炎流を解き放った。

 その大火の流れていく先にあったのは、いまだ合戦中のゴーレム大軍団たち。敵味方の別なく大炎流に飲み込まれたゴーレムたちは、表面をこんがり焼かれて、材料が土であるだけに焼結して陶器みたいに固まってしまった。

 一体残らず。

 やっぱり魔王の神気は凄まじいなあ。


「さあ、これで戦うべきは当人らのみ! 力を尽くして戦え! ゴーレムなど使わず自分自身の体一個をもって!」

「ま、待ってよ!」


 それでも縋りついてくるウリエルさん。


「ミカエル、キミだって見ただろう!? あの神勇者は異常だ! 他の神勇者と比べても遥かに図抜けている!」


 まあ、それはまったくその通りなんだよなあ……。

 元々神の一部だけを分け与えるシステムの神勇者。だが今回、何であろうと必ずやりすぎるマントルが自分の全部を注ぎ込みやがったから、その点のみ見ても地の神勇者ササエちゃんは他の数倍パワー。


 しかもササエちゃんとマントルは、一番妙なところで性格が共通していてシンパシーを発し、共鳴作用でさらに数倍。


 マントルは元々ゴーレムの働きで、他の神より多くの祈りを確保できているためまた数倍。

 光の女神インフレーション――、ヨリシロから強要されていた『無名の砂漠』の砂漠化も、ブラックホールに飛ばされたのをきっかけに辞めてしまったので差し引きゼロもなくなった。


 さらにササエちゃん当人も、大勇者の孫娘でその才能を色濃く受け継ぎ、若く幼いがために全勇者の中でもっとも伸びしろがあるのが、神勇者化によって全開放


 …………。

 考えれば考えるほど『僕たちはなんという怪物を生み出してしまったのだろう』となってしまう。

 こんなのと戦わされる境遇に追い込まれたウリエルに、申し訳なさすら感じてしまいそうだ。


「あんなのにまともに戦って勝つなんて無理だよ! ここは逃げるか、全員で袋叩きにするか……!」

「知ったことか!!」


 ウリエルのくどくどしい訴えを、その一言で吹き飛ばすミカエル。


「情けないぞウリエル! 相手が強いから諦めてしまうというのか!? 人間たちは最初から、そんな境遇に置かれていたというのに!!」

「はっ!?」

「人間たちは、力において遥かに上回る我ら魔王を相手に、諦めることなく立ち向かってきた! その結果神勇者という新たな力を手に入れたのだ! 諦めて背を向ける者に、進化はない! ウリエル、お前の判断はモンスターの可能性をみずから捨て去る行為だ!!」

「そ、そんなこと言われても……!」


 ウリエルは、もう泣きそうだ。


「私もそう思うわウリエル」

「ガブリエルまで!?」


 いつの間にか、水の魔王も戦地に降り立っていた。


「人間には、力だけじゃない。力だけではどうにもならない困難な状況を乗り越えるための智と愛を持っている。私たちモンスターもそれを獲得できるか否か。それこそモンスターが真実の生命になれるかどうかの分かれ道だと思うわ!」

「それと、この戦いとどういう関係があるんだよ!?」

「わからないの!? この戦いは互いの意地と誇りを懸けたものなのよ! そんな戦いで無様を晒してみなさい。アナタは魔王全員の誇りに泥を塗ることになるのよ!」

「その通りだと思います」


 カレンさんにミラク、シルティスの勇者組まで!?


「この戦いは、創世神のお一人である地母神マントル様が直接ご照覧になる戦いです。神様に直接、アナタの存在意義を示せる戦いです」

「神は、お前たちモンスターのことをただの道具だと言ったのだぞ! 悔しくはないのか!? お前たちの生まれた本当の意味を示し、神をぎゃふんと言わせる絶好の機会だぞ、この戦いは!」

「だからアンタ一人で戦う意味があるのよ。アンタの存在する理由を表現できるのは、アンタしかいないの! この世界でただ一人、アンタにしかできないことなの!!」

「何だよ、人間まで……!? 寄ってたかって、僕に何をさせたいって言うんだよ……!?」


 ウリエルにとっては迷惑千万な話だろう。

 困難な状況、絶対に勝てない敵。逃げてしまう方がずっと楽だ。

 しかしながら……。


「ここにいる誰もが皆、それを乗り越えてここまで来た」

「クロミヤ=ハイネ……!?」


 いつの間にか僕も、皆に続いてウリエルの近くまできていた。


「皆、お前にも乗り越えてほしいんだ。自分たちと同じ高みに立ってほしいんだ。一緒に並んで立つために。対等な友でいるために」

「友だって……!? 友だちだって……!? ふざけてる。魔王は、人間滅亡の目標を遂げるために同盟しているだけ。まして人間は敵じゃないか!?」

「その不条理を理に変えるため、この戦いが必要なんだ。お前も乗り越えてみせろ。戦いを乗り越えて、その先にある言葉じゃ示せない答えを見つけてみろ! それを僕らに示してくれ!!」


 その一言が決壊となり、皆が一斉に言葉を浴びせる。


「頑張るのだウリエル! 魔王の意地を示してみろ!」

「頑張ってウリエル! アナタなら絶対やれるわ!!」

「頑張ってくださいウリエルさん!」「頑張って根性見せんか!!」「がーんばれ、それ、がんばーれ!」


 全員から送られてくる声援。

 誰もが、ウリエルが乗り越えることを望んでいる。


「頑張るんだウリエル! お前が、魔の頂点に立つ強者ならば!!」

「あああああああああッ!!  しゃあああああああああッッ!! きしゃあああああああああああッッ!!」


 ウリエルが壊れた。


「あああああ! もおおおおおお!! ドイツもコイツも無責任に頑張れ言いやがって!! わかったよ! やればいいんだろ!? 死力を尽くして、あの怪物女をやっつければいいんだろ!?」

「「「「「「「おおー!」」」」」」」


 パチパチパチパチ。

 皆から一斉に拍手が飛んだ。

 元からヤケクソだったウリエルの、ヤケクソリミットが外れた。


「お、終わっただすか?」


 律儀に待ってくれてたササエちゃん。

 それもそうだろう、彼女にとってこの戦いは既に人間対モンスターの生存抗争ではなく、正しいか間違っているかを決める決闘裁判のようなもの。

 神の見守る御前試合。

 隙を突くようなマネで正否は計れない。


「それでは死合い再開と行くだす! その前にウリエル殿、オラからも一言言っときたいことがあるだす!」

「?」

「頑張れ、だす!」

「煩いよ!!」


 皆が言ってるから、ササエちゃんも一応言っときたくなるよね。

 あの何でも流れに乗ってしまう性質は、やはりマントルの影響だろうか?

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