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332 タクティクス

 こうして数百体のゴーレムがぶつかり合う大合戦が始まった。

 もう天下分け目の大いくさ、って表現してもいいくらい。


 僕たち傍観者は巻き添えを食らいかねないので、大分離れて戦場を全体的に俯瞰できる小高い丘へと登る。

 そこから見下ろせる光景は、まさに血で血を洗う大乱戦だった。

 ……まあ、戦っているのはゴーレムだから血は出ないんだけど、代わりに砕けた機体から噴き上がる土煙やらで、現場は騒然。


 既にウリエルの生み出した基本形ゴーレムと、ササエちゃんが精錬した女神ゴーレムの軍団は混ざり合って芋洗い状態となって、互いが互いを壊し合っている。

 基本形ゴーレムの突き出す拳が女神ゴーレムの頭部を砕けば、女神ゴーレムの手刀が基本形ゴーレムを一刀両断する。

 砕け倒れても、その後ろから次々新手が投入されてくるため、残骸の上に残骸を積み重ねて争いは決して終わることはない。


 まさにいくさ。まさに戦争。


 これまで僕たちが体験してきた戦闘とは、明らかに異質のものだった。


「なんだか……、怖い……!」


 何体もの巨大モンスター相手に修羅場を潜り抜けてきたカレンさんも恐怖を感じていた。ゴーレムたちが次々砕け散っていくこの光景に。


「ササエは、敵ゴーレムの中にあるライフブロックを壊さぬように戦っている。ササエ側のゴーレムも、ササエの神気で練り作ったものだから、ササエ本人が健在でいる限り何度でも復活する。一区切りついたらササエから神気を抜かれ、土に還る運命だ」


 火の勇者ミラクは気丈に眼下の光景に見入って。


「しかしこれは……、オレでも来るものがあるな。やはり戦いとは一対一でやるべきだ。団体戦はオレの性に合わん」


 火の教徒であるミラクならではのセリフだった。

 そして一方。


「惨々たる戦野、蕭々たる干戈の響き。争いの風景はたしかに人を荒ませ、この胸を掻き乱すわ……!」


 シルティスも何かそれっぽいこと言い出した。


「そも、この雄大な戦景に心揺さぶられ、次から次へと詩賦が溢れてくるのは何故!? 新たな歌詞が! 筆が止まらない! これじゃあ次のライブはオール新曲で行けそうよ!!」

「凄いわ、これもまた文化ね!!」


 そしてまたガブリエルが乗っかっている。


「漢たるもの熱血たれ」


 最後にミカエルが、腕組みしながら呟いた。


「いまだオレは、この戦状をこの一言でしか評せられぬ。大まかで、すべてをあまねく捉えきれていないことはわかっている。すべてを掴み感じ取れるようになるには、まだまだ多くの言葉を、価値観を学ばねばならぬ」


 そう。

 そしてすべてを学び取って、余計なものを選別できるようになり、どんどん余計なものを取り除いて行って、最後には再びあの言葉に戻ってくるのだ。

 漢たるもの熱血たれ。


「しかし、この場においてもっとも学ぶのは、実際に戦っているウリエルと、あの勇者の乙女だろう。二人がこの戦いにおいて、何を学び、いかなる回答を得るのか。見届けさせてもらおう」


              *    *    *


 さらに時間が経って、状況は少しずつ傾き出していた。


 基本形ゴーレムが壊れ、女神ゴーレムが壊れ、基本形ゴーレムが壊れ、女神ゴーレムが壊れ、女神ゴーレムが壊れ、基本形ゴーレムが壊れ、女神ゴーレムが壊れ、女神ゴーレムが壊れる。


 僅かながら女神ゴーレムの方が壊れる割合の方が多くなった。

 ウリエルもササエちゃんも、次々新しいゴーレムを生み出し戦線に投入するため、一見拮抗しているようにも見えるが……。

 でもやっぱり間違いない。

 じわじわとウリエルが押し始めている。


「くくくくく……、どうした? 脆くないかいキミのゴーレムは?」

「くっ、だす……!!」


 遠方から観戦する僕たちの目からでも、大人ササエちゃんの美貌が歪んでいるのがわかる。


「これが真理さ! 見てくれだの風情などに拘ろうと、結局ゴーレムの真価は強さにある! 余計な拘りをもつキミのゴーレムなんかより、シンプルに強さを求めた僕のゴーレムの方が強い! それだけのことさ!」


 バゴン!

 また一体、基本形ゴーレムのパンチで女神ゴーレムが砕け散った。

 同じ瞬間にも、戦場のあちこちで同じことが起っている。


「これはいかんだす! 全軍後退だす!!」

「逃がすかッ!!」


 下がる女神ゴーレム軍を追いかけて、ウリエルのゴーレム軍が大きく前進する。

 この勢いのまま畳みかけるつもりか……!?

 性急な……!?


「か弱い女に似せて作るから、ゴーレム自体もか弱くなるのさ。やはりゴーレムに華美など不要! 実用性こそが真の価値! それを損なう余計なものなど廃するべきなのさ!!」


 ……ウリエルのヤツ、戦闘前に自分のゴーレムをけなされたせいで、装飾性とかを目の敵にしてないか?

 だが、この流れ……。

 本当に、有利なのはウリエルなのか?


              *    *    *


「ねえ、この動きって……!?」


 丘の上にいる観戦者の中にも、僕と同じことに気づきだす者がいた。

 それはやっぱりというか、文化都市ハイドラヴィレッジ出身のシルティスだった。


「おかしくない? これ一見ササエッちの方が押されてるように見えるけど……!」

「おかしくはないだろう。実際にササエ軍は押されているのだから」

「バカねミラクッち。アンタって本当にタイマン勝負にしか勘が働かないの!?」

「ササエちゃんのゴーレム軍は、後退しているように見せかけて、横に陣形を大きく伸ばしている」


 僕の指摘に、シルティスは指を鳴らした。


「そう! それに対してウリエルの方のゴーレム軍は、ササエッち軍を追うつもりでどんどん前に出ている!!」


 横に伸びたササエ軍の陣形は。まるで突進してくるウリエル軍を左右から包み込むかのように。半包囲。

 これはまさしく……!


「「鶴翼の陣」」

「ウリエルめ! 罠に誘い込まれたか!?」


 ミカエルも気づいたようだ。

 ササエちゃんが用意した悪辣な美人局に。


              *    *    *


「何ッ!? 何ッ!? これは……!?」


 ウリエル当人が気づいた時には、もう後の祭りだった。

 ササエ軍による鶴翼の陣からの半包囲は完成し、誘い込まれたウリエル軍は袋叩きの惨状に。


 基本形ゴーレムによって景気よく砕かれていた女神ゴーレムも、相手を罠に誘い込むため演技していただけだった。


「祖母ちゃんの四番目の娘さんであるサノ伯母ちゃんが言ってただす。女が得意なのは寝技。押し倒されてからが本当に強いのだと……!」


 そのアドバイスに従って、戦局の初めにか弱い乙女を装い、気をよくした男が覆い被さってきたところで大蛇になって絞め殺す。

 ササエちゃんの戦術は見事に当たった。


「ひょーほーしょに曰く! 『はじめは処女のごとく、終わりは脱兎のごとく』だす!!」


 もはや女神ゴーレムもか弱い演技をやめて全力の反撃を始めた。

 既に半包囲も完成し、様々な方向から攻撃できるササエ軍はますます有利。反対に包囲されたウリエル軍は窮地に立たされた。


「くそ……! くそッ……!!」


 ここでウリエルがいくらか野戦に通じていれば、包囲のために隊列が薄くなる鶴翼陣形の弱点を狙い、一点突破で包囲を抜けることもできただろう。

 しかし、それを知らないウリエルは逆に包囲から脱しようと、後退する選択を取ってしまった。


「全軍退却! 後退だ!」


 しかしそれでは、後退するのと同じ速さで追ってくるササエ軍から一方的に殴りつけられるだけ。

 完全にササエ軍有利の展開にハマってしまった。


「くそッ! ズルい汚いぞ! 有利な位置関係を取るために、負けてるふりをしてたって言うのか!?」

「神のウソは方便、戦士のウソは武略と、祖母ちゃんの六番目の息子のサルガ伯父さんが申しとっただす! 騙し騙されはいくさの基本! 騙されるは敗将の落ち度だす!!」


 ササエちゃん、言うことまで大人びてきてない!?

 しかもちょっと好ましくない方向性で!

 マントルのせいでササエちゃんが悪い大人になっちゃった!?


「まだまだ戦いは続くだすよーッ!!」

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