331 数寄詫びて
なんかゴーレムのデザインについて意見の飛ばし合いが続いている。
「オラは、意識した飾り気のない滋味あるゴーレムも好きだす」
とササエちゃんが主張した。
大人化して、声もいかにも美人らしい低音で語られる声は、不思議と含蓄があるように聞こえる。
「ただ作業用のために、余計な飾りも何もなく生み出されたゴーレム。しかしそれでもゴーレムには手足があって、顔があるだす。その顔に、時に優しげな表情を感じるだす」
「お、おう……!?」
「形成されてから長くライフブロックに戻らないゴーレムなどは、段々と表面が苔生すようになり、土気一色だったものに青味がかかってくるだす。そういう長い時間の経過でしか備えることのできない装いをまとったゴーレムを見ると……!」
見ると……!?
「『ミュヒャアア』と感じるんだす!!」
なるほど意味わからん!
「勉強になる! 勉強になるわ! さすが本場の意見は違うわね!?」
そしてシルティスが熱心にメモ取り始めた!?
なんかもうわかる人にしかわからない領域に入ってないコレ!?
「無論、ここでウリエル殿が拵えたゴーレムは……!」
「ウリエル、殿!?」
「殿って!?」
どういう方向性に持ち込もうとしているのッ!?
「……たった今出来上がったばかりで、時を重ねるごとにできる深味は求めようがないだす。構造の単純なゴーレムほど、そうした深味が面白う出てくるものだすが……!」
「はい! 先生……!」
先生!?
水の魔王ガブリエルが、手を挙げてササエちゃんに呼びかける。
「では、現時点でウリエルのゴーレムは、先生には敵わないというんですか!? 女性的な色気を取り入れて景観的にも華やかな先生のゴーレムの前では、ウリエルの貧相ゴーレムは見劣りします……!」
「貧相言うなッッ!?」
ガブリエルよりの質問に、ササエちゃんは答える。
「そんなことはないだす。たしかにウリエル殿のゴーレムは単純な作りだすが、必要最低限なければならぬ形の中に、表れてこざるをえない独特の形にこそ個性があるだす」
と、ササエちゃんはウリエル謹製ゴーレムへと視線を送る。
「さすがに魔王殿が直接生み出しただけあって、作り手の意気がダイレクトに表れとるだす。たとえばこの肩幅!」
肩辺りを指さす。
「通常生まれるゴーレムより肩幅が広く、いかつい印象になっておるだすが、やはりこれは『倒してやるぞ!』という意気込みが形となって表れておると思われるだす。もちろん……!」
ササエ……、先生?
「……体格のよさは、そのまま運動性のよさにも繋がるだすから、ここはウリエル殿の意気込みが、ゴーレムの強さに直結しておると言ってもよいだす」
「ま、まあ当たり前だよ。何しろ魔王が直接作ったゴーレムだからね……!」
ウリエルはまんざらでもなさそうだ。
「しかし、何事も過ぎれば障りとなるのが世の常だす」
「何ッ!?」
「ウリエル殿のゴーレム……。やはり負けん気が形となって表れたのか、両拳がかなり大きめになっとるだす」
ササエちゃんは実際ウリエル謹製ゴーレムの前腕を念入りに触りながら言う。
「無論、金づちなどと同じ理屈で先の方が大きく重くなれば、殴る際の破壊力は増すだす。しかし、重いほど取り扱いが難しくなるのも道理。まして本体から切り外すことのできない腕部をここまで大きくしては、動きに支障が出ること必至だす」
「うぐぅ……!?」
言われてみれば、ウリエル謹製ゴーレムの構造は、たしかにバランスを欠くほど腕が大きい。
僕の素人目からは、指摘されてやっと気づく程度のアンバランスだが、それくらい小さな齟齬が、紙一重の差で勝敗というハッキリした名案に分かれる事柄には大きく響くのだろう。
「機能的には言うまでもなく、景観から評しても人というよりは猿のような不格好さだす。情熱が空回りしてしまった感があるだすな。クリエイティブを創造するに意欲は不可欠だすが。その意欲を余すことなく作品に注ぎ込む技術が足りぬと見ただす」
「うるさいよ!!」
辛口評価への反発なのか、ウリエルは激昂した。
「黙って聞いてりゃ、さっきから何が言いたいんだよキミは!? ゴーレムは我が手足、戦いの道具だ! その道具にいちいち精魂込めなくたっていいじゃないか!?」
「さっきマントルから、モンスターは道具だと言われて怒ったくせに?」
「うぐぐッ!?」
反射的に僕が入れてしまった物言いに、ウリエルは思いっきり喉を詰まらせた。
いやだって、ここは流石に口出しせずにはいられなかったから。
「自分が言われて怒ったことを、他人に言ってはダメだ。むしろ、ただの器物でしかないはずのゴーレムに、イシュタルブレストの人々がそうして代々思いを込めてきたからこそ、それが溜まり溜まって心を持った魔王という者が生まれたんじゃないか?」
「ぐっ……!? そんな、そんな……!?」
反論できないウリエル。そこへさらなる追い打ちが飛ぶ。
「助言は素直に受け入れなさいよウリエル。せっかく人間の文化を吸収できる、いい機会じゃないの」
「ガブリエル!?」
「潔さは、熱血だぞウリエル」
「ミカエルまで!?」
同僚まで加わって袋叩きの体であった。
何だかそろそろウリエルのことが哀れになってきた。
「ぐぬ……! ぐぬぬぬぬ……! わかったよ。だったら、ハッキリ決めようじゃないか!」
と、ついにキレた。
「僕とキミ、どちらのゴーレムが優れているか実戦でね! 互いに壊し合って残っていた方のゴーレムが優れている。誰にも文句が付けられない完璧な決め方だ。そもそも最初から戦うつもりなのに、なんでまだ始まらないんだよ!?」
まことウリエルの申す通りであった。
やっと鬨の声が上がった。
「受けて立つだす! 前代未聞のゴーレム合戦、ここに開幕! 地母神マントル様ここにご照覧あれだすよ!!」
「はい! ご照覧します!!」
それでもやっぱりお祭り騒ぎっぽかった。




