330 ゴーレム景談
「これぞ神勇者ササエきゅーきょくおーぎ! 名付けて『大地蹂躙乙女団』だす!!」
雲集する女神ゴーレムの大軍団。
かつてはたった一体ですら見る者の度肝を抜いたというのに、それが数百体も一度に現れては、驚愕を通り越して、どんなリアクションをすればいいかもわからない。
対して魔王ウリエルも数百体ものゴーレムを生み出し、奇しくも状況は、ゴーレム軍団vsゴーレム軍団の集団戦の様相を挺している。
「これ……! 一体どういう状況になるのよ……!?」
傍から見守る観客一同も、この成り行きに心平静ではいられない。
真っ先に、袋から漏れる空気のように力ない声を上げたのはシルティスだった。
ミラクがそれに応える。
「わからん……! だが、この戦い。我々が今まで経験したこともない類の戦闘となることだけはたしかだ……!」
「集団と集団の戦いだもんね。今まで巨大な一体のモンスターで皆に立ち向かっていったことはあっても、たくさんの数に、たくさんで当たったことはないよ……!」
「同じ大規模戦でも性質が違う……! まるで数百年前の、教団同士で争っていた時代の戦争のようだ……!」
カレンさんたち姦しトリオの言う通りだった。
これはもはや、ウリエルとササエちゃんを旗頭とした集団戦。
戦闘というよりも戦争と言うべき規模だった。
一体この戦いがどのように進行していくのか、僕にも予想ができない。
「フフッ……! いいじゃないか、これまでとはまったく違う性質の戦い。魔王ウリエルによるバトルに相応しいよ!! ならば僕のゴーレム軍団と、キミのゴーレム軍団。どちらか強いか早速ハッキリさせようじゃないか!!」
「あいやその前に!!」
と大人ササエちゃんがバッと開いた手をかざして制止した。
しかし今のササエちゃんは一挙動のたびにおっぱいぶるるん揺れるのは何とかならんのか。
視線が吸い寄せられるたびにカレンさんから脇腹小突かれる。
「ただ憎み斬り合うだけのいくさでは無粋だす! ここは火蓋を切る前に、互いの名物を評しあってみてはいかがだす!?」
「名物……? 評す……!?」
いきなり予想外の展開が来た!?
「ウリエル殿。お前様が拵えたゴーレムだすが、実に基本に忠実に作成されたゴーレムだす」
「うん!?」
「何の作為もなく自然に生まれてくるゴーレムそのものと言ってよいだす。無駄なく必要なものだけがあり、効率よく働くことができるだしょうが、しかし工夫のなさに物足りなさも感じるのは事実だす!」
「何が言いたいんだ、キミは!?」
いや、ウリエルが言うことももっともである。
ウリエルが生み出したゴーレムは、たしかにライフブロックが周囲に土石を取り込んで生まれるごく普通のゴーレムと言ってよく、簡素な手足があるだけだ。
それはたとえば、すぐ眼前にいるササエちゃん謹製の女神ゴーレムに比べれば、あまりにも単調に作りすぎている、という気がしなくもない?
「ササエッちの女神ゴーレムは、今さら説明するまでもなく女性の体つきをモチーフにした、色気溢れるデザインだわ。腰の細さや、各部の魅惑を誘うための湾曲。それはたしかに美しいけれど、同時に作業に不安を与えたり、製造に無駄な工程を挟み込む、非効率なものでもある」
「シルティスちゃん!?」
シルティスがなんか言い出した!?
「文化面のことなら、観光都市ハイドラヴィレッジの勇者シルティスちゃんにお任せあれよ! 地都イシュタルブレストの上質な土で作られた陶器類は大量に輸入していて、アタシもたくさん見てきて目が肥えているから、解説役も務まるわ!」
誰も解説してくれとは言ってないし!
「ササエッちのゴーレムは、まさに『艶』をテーマにした魅惑の作! 人型と言えども所詮作業用ツールでしかないゴーレムに性別を持たせ。見る者を魅了させるとは、実に大胆な発想!」
「凄いわ! これも文化なのね!?」
水の魔王ガブリエルが食いついてきた!?
いつもながら何なの水属性の連中は!?
「ササエッちの亡くなったお母様をモデルにされているという造形は、匂い立ってくるほどの色気の中に母性をも織り交ぜ、実に複雑に仕上がってるわ! その複雑さゆえに、ただ劣情を誘うだけの下品なものに堕さず! 格式さえ匂わせている! 神聖さ! つまり聖母!」
「高き評価に感無量だす」
多分手放しと言っていいほどのシルティスからの高評価に、殊勝さを装うササエちゃん。
「そこからもう一度ウリエルのゴーレムを見返すと。……やっぱり簡素すぎて寂しいわねえ」
「なあッ!?」
「何の飾り気もなく『やっつけで仕上げました』と言わんばかり。もう少しさあ、強そうな見てくれとか意識しなかったわけ?」
あまりにも明け透けなシルティスの難詰に、ウリエルが逆上してしまうのも無理からぬ話である。
「何をバカなことを言う人間が! 我が眷属ゴーレムは地属性のモンスターだ! モンスターがジャラジャラ身を飾るような、人間の真似事などできるか!?」
と大憤慨。
「でもウリエル、アナタだってやたら外見に気にしてたりしたじゃない?」
「ガブリエル!?」
魔王が背中から撃たれた。
「前にクロミヤ=ハイネにやられて脱いだ樹皮だって、新しいのを再生するのに黒さが気に入らないだの言って滅茶苦茶時間かけてさ。本当なら一日足らずで元通りになるところを、何週間もかけて。バカじゃないかって思ったものよ」
そう言えばさっきもそんなことを言っていたような……。
「僕はいいんだよ! だって魔王だもん! 魔の頂点に立つ者にはそれに見合った威厳をまとわなきゃいけないんだよ!」
「それも一理ある熱血だな」
相槌を打つミカエル。
「それに比べてゴーレムは所詮ザコモンスターだし、雑兵には雑兵に見合った装いがあるだろう。こんなにたくさんいるんだから、いちいちそれらに華美な装飾していられないよ!!」
「華美だけが装いの種類にあらず、だす」
ここで再び、ササエちゃんが口を開いた。
ってかこの話題まだ続くの!?
戦いには入らないの!?




