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329 雲霞のごとく

「……こ、これでいいんでしょうかハイネさん?」


 カレンさんが不安げに聞くのも仕方のないことだった。

 本当に何だかよくわからないうちに成立した……、地の魔王ウリエルと、地の神勇者ササエちゃんとのタイマン勝負。

 僕たちその他全員は揃って観戦に回るしかなくなってしまったが、それはそれで仕方ないと思う。


「マントルは、一等単純な理屈でしか動かない神ですから、細かい理屈では納得させられません。ササエちゃんも似たようなところがある。そんな彼女らを納得させるには、理屈を超えた何かじゃないと無理でしょう」

「……それが、戦いだと?」


 安易かも知れないが、それ以外に有効な手段が見当たらない。

 この戦いがどんな結果に辿りつくかまったくわからないが。得られる結果が良いものであることを信じて見守るしかない。


「……ササエちゃんや地母神様はそれでいいとしても。相手をするウリエルさんの方は……!?」

「まあ……、とことん付き合ってくださいとしか……!」


 なんか魔王に申し訳ない気持ちになってきた。


「うりゃあああ~ッッ! こうなったらとことんやってやりゃあああ~ッッ!!」


 当人、超ヤケクソ気味になってるし。


「ウリエルって、意外にヘタレなのね。ちょっと追い詰められたぐらいで、あんなにテンパるなんて……」

「熱血にはまだ遠いようだな」


 同じ魔王のミカエルとガブリエルも、行儀正しく観戦中。


「見るがいい! 地の魔王の本気をぉぉーーーッッ!!」


 ウリエルは、大きく身をかがめたかと思うと、その背から左右方向に生える一対の樹木を羽ばたかせた。

 枝ぶり、葉の茂り方から両翼を連想させるシルエットだが、でもその本質はやはり樹木であるらしい。

 ウリエルの背から、翼を模した二本の樹木が凄まじい勢いで成長し、互いに螺旋を描きながら絡まり合って一本の大樹となった。

 その大きさ、枝葉の広がり、それはまるで……!


「『御柱様』のようだす……!」


 魔王ウリエル自身を生み出した地のマザーモンスター、グランマウッドのようであった。

 無論、地都イシュタルブレストを覆い尽くさんほど巨大だったグランマウッドに比べれば全然小さいが、ミニサイズと言えども威容というか威厳というかは、魔の母より余すことなく受け継いでいた。


「驚くのはこれからだ! とくと見よ!!」


 ウリエルの背中から生い茂った巨樹は、その樹体から何かが放出された。

 ズドドドドドドドドッッ!

 ものすごい速度で射出される……、弾丸のような? しかもそれらが樹木全体から何百と、まさしく乱射だった。

 それら弾丸は、斜め下方向に走って地面に激突し、盛大な土煙を上げた。


「うわッ!? 危ない!?」

「ちょっとウリエル!? やるなら注意ぐらい促しなさいよ! 当たったら痛いでしょう!?」


 たしかに普通に攻撃に使えそうなほど凄まじい乱射だったが、弾丸めいたものはすべて地面にめり込み、敵とすべきササエちゃんには掠りもしない。元から狙った形跡がない。

 ウリエルは一体何をしようとしているんだ?


「くくく……! 答えが知りたくば目を凝らしてよく見てみるんだね。僕が何を放ったか?」

「え……? あれは!?」


 促されて目を凝らし、初めてわかった。

 ウリエルの樹体から放たれ、地面にめり込んだのは、片手で持てる程度の大きさのレンガブロック。

 あれにはたしかな見覚えがあった。


「ゴーレムの核、ライフブロックッ!?」


 地属性モンスター、ゴーレムは基本的に人型をした土の塊だが、最初から土人形として生成されるわけではない。

 まずマザーモンスターたるグランマウッドの樹体からブロックが生まれ、そのブロックを核として土や石などを取り込み、人の形を形成する。

 今まさに、その過程が進行中だった。

 ウリエルが何百個と乱射したライフブロックは、すべてゴーレムへと変わり、ウリエルに指揮される大軍団となった!


「驚いたかね? 我がゴーレム軍団に」


 ウリエルは、既に背中の木を両翼形態に戻していた。


「まさかウリエルもゴーレムを生み出すことができるなんて……!?」

「魔王たちは、マザーモンスターからモンスターを生み出す能力も継承しているそうです。そうでないとマザーモンスターが滅びた今、モンスターは繁栄できなくなりますから」


 カレンさんが説明してくれた。


「本当ならキミたちの都市を一飲みにせんがため用意した必殺技だったが、ここに来て手加減などする余地はない。この数百体のゴーレム軍団で、袋叩きにしてくれる!!」


 と言いつつ、自身はゴーレム軍団のずっと後方に下がるウリエル。


「アイツ、実は敵が怖いからゴーレムの陰に隠れようとしてるんじゃない?」

「熱血には程遠い漢よ」


 仲間の魔王からも散々な言われようだった。

 一方、突如発生したゴーレム軍団を目の当たりにしたササエちゃんは……。


「なんと……! なんと素晴らしことだす……!!」


 むしろ感動していた。


「もう二度と新たに生まれることがないと思っていたゴーレムが、再び生まれてくるなんて……! こんなに嬉しいことはないだす!」

「え?」


 さすがゴーレム大好きっ子のササエちゃんらしき物言いだ。

 思えば、ササエちゃんの一意専心ぶりは、ゴーレムに対しても顕著だった。

 グランマウッド暴走の一件で、ゴーレムが悪者とされかけたその時も、率先して庇ったのはササエちゃんだった。

 だからこそ今も、イシュタルブレストでは人間とゴーレムは友人であり続けている。


「とてもよいものを見せてもらった礼に、こちらも一服馳走いたしますだす!!」


 マントルの力で艶福溢れたダイナマイトバディのササエちゃん。

 神具たる地鎌シーターを、大地に突き立てる。


「あの体勢は……!?」


 ササエちゃんの新必殺技、神気錬金でライフブロックなくゴーレムを精錬する術か!

 そして予想通り、ササエちゃんの放った神気に呼応して、大地からまた妖艶な女性型ゴーレムが浮上してくる。

 ただ……。

 予想通りでないことが一点あった。

 数が。


「んななななななあああああああッッ!?」


 ササエちゃんの神気によって精錬されたゴーレムは一体に留まらず、二体、三体、四体五体六体七体八体九体十体、二十三十四十五十、何百と。

 凄まじい数の女神ゴーレムがササエちゃんの周囲に現れた。


「これが……、神勇者化したササエちゃんの実力……!?」


 以前は一体を、実戦中にはとても使えないぐらい時間をかけてやっと精錬していたのに、今は瞬く間に何百体と。

 それぐらいササエちゃんの神力が桁外れに上がっているということか!?


「……そう言えばササエちゃんはまだ、神勇者になってから一回もゴーレムを戦いに使っていない……!」

「ど、どういうことです? ハイネさん?」

「歴代地の勇者は、神具の鎌を使った肉弾戦タイプと、ゴーレムを操作して戦うタイプに大きく分かれる。でもササエちゃんは、ゴーレムを操りながら自分も前線で戦う。両方の型を併せ使おうと模索していた」


 その困難さに大いに足掻きながら。


「ササエちゃんは神勇者となることで、その問題すら克服できたのかもしれない。彼女の本領ゴーレム操作をさらに伸ばし、大鎌もヨネコさん並みに扱えるようになった」


 なにせ体が成長して、大鎌をちゃんと振り回せるぐらいの体格にもなったし。


「それなのに、ササエちゃんは今まで大鎌だけを使って戦ってきた。得意な方のゴーレムは一切使わず……」

「それってササエちゃんは、これまで実力の半分を発揮せずに戦ってたってことですか!?」


 それでも魔王三人、神勇者三人がかりに引けを取らなかった恐ろしさ。

 ササエちゃんはどこまでポテンシャルを秘めているんだ!?


 そしてそれとは別に、これから始まる戦いの異様さにも戸惑わずにはいられない。

 地の魔王ウリエルは、その能力を発揮し何百というゴーレムを生み出した。それに対してササエちゃんもまったく同じように女神ゴーレム軍団を精錬。


 ゴーレム軍団とゴーレム軍団が対峙する。

 これらがぶつかり合ったら、個人単位の決闘に収まるわけがない。

 集団対集団の戦い。

 まさしく合戦だ。

 合戦が始まる!

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