33 駄々っ子襲来
正式に騎士となった僕は、何にしろ面通ししなければならない相手が何人かいた。
「最初に言っておきます」
その一人が光の教団教主ヨリシロ。
「ハイネさんと騎士団長、どちらか一人が死ななければならない状況があったとしたら、迷わず騎士団長に死んでもらいますので」
「教主様!?」
「そのつもりでお話してくださいね」
先制パンチどころじゃない特大の一撃を貰った極光騎士団長ドッベ。
鼻白みながらも、僕に向けられた瞳は憎悪一色だ。
「何と言われようと私は承服できません! 騎士団内に命令系統から独立した役職を作るなど、秩序を乱す元にしかなりません!」
騎士団長というからには騎士団でもっとも偉い人ってことだろう。
初対面じゃない。いつぞやの会議でモンスター討伐から帰ったばかりのカレンさんを悪しざまに非難していたのがコイツ。
今日も今日とで人のやることに文句だけは人一倍だ。
だから僕もボールを投げ返す程度の気分でチクリ。
「では秩序とか言うものはちゃんと騎士団の役に立っているんですかね? 見たところソレは、騎士団ではなく騎士団内のごく限られた人の役にしか立っていないようですが」
「なんだと!?」
「無能な人間がトップに居座れる原因が秩序なら、やはり排してしまった方がいいですからね」
「貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
騎士団長は、今にも剣を引き抜かんばかりだ。
「教主様! やはり私はこのような汚物を誇り高き極光騎士団に入れるなど断固反対です!! 騎士団の秩序が乱れます!」
「騎士団長、これは決まったことです」
教主が断言しても、騎士団長は引き下がらない。
「いいですか! 近年我が極光騎士団は自由奔放すぎる勇者に散々手を焼いてきたのです! あのワガママ娘に秩序の何たるかを教え、上官の命令に従うよう躾けるのにどれだけ苦労しているか!! ようやく私の教育が功を奏しようとしているこの時期に、こんな愚物を採用しては元の木阿弥と……!」
「おい、お前……!」
「ですが、ハイネさんは成果を上げています」
騎士団長の、カレンさんに対する暴言と言っていい自分勝手な物言いに抗議しようとするのを、ヨリシロが遮った。
「テリシェアの森でのピュトンフライ掃討の件はもとより、火の教団を長らく悩ませていた超巨大モンスター、炎牛ファラリスを共同討伐したことにも、ハイネさんの尽力があったことはたしかです」
「違います! あれは我ら光の教団の単独討伐です!!」
おいおいアンタ……。
「そうに違いありません! 巨大モンスターは光の勇者カレンが単独で葬ったのです! 火の勇者は周りでウロチョロしていただけで、あたかも自分にも功があったかのように触れ回っているだけです!」
この男は、あらゆる事態を自分の都合のいいようにしか受け取れないのか。
そう言えばピュトンフライの件では「大失態だ!」などと騒ぎまわっていたが、その実ではカレンさんへの攻撃材料ができたと勇み立っていたのではないか。
「ならば炎牛ファラリスの件は、勇者カレンさんに功ありと?」
「いいえ。何にしろ騎士団の命令なしに行動したことは勇者にあるまじき行為。その責任はしっかりと追及する所存です! 以後は何をするにしろ、勇者は騎士団の指示に従い……!」
「いい加減にしろ」
声を鋭く尖らせてドッベ騎士団長を刺す。
それが伝わったのだろう。相手は表情を硬くしてこちらを見返した。
「そんなことをさせないために僕が勇者補佐役になったんだ。この際ハッキリ言っておく。この僕が来たからには今後二度とカレンさんはお前たちの都合に振り回させない。カレンさんをお前らの操り人形にはさせない。覚えておけ」
「何だと無礼者がぁ~~~~!!」
ドッベ騎士団長はついに剣を抜いて、僕へ向かって突き付けた。
「今すぐ数々の無礼を詫びて、騎士の位を返上しろ! そうすれば命だけは助けてやる!!」
「あ? 何言ってるんだ? 剣を抜いたら後は斬りかかるだけだろう。来いよ」
「えっ?」
凶器をチラつかせればビビるとでも思ったのだろうか?
やる気の僕に、騎士団長は予想と違うとばかりに困惑する。
「お、脅しだと思っているのか? 愚かな。一刀両断されてからでは遅いぞ!」
「そんなへっぴり腰で人体真っ二つにできるわけないだろ。安心しろ、こっちは顔面腫れあがるまでボコボコに殴るだけで済ますつもりだ」
「どちらにしろ」
美しい女性の声が二人の動きを止めた。
もっとも騎士団長の方は今にも腰が抜けそうなところを止められたと言うべきか。
「この光の教団教主ヨリシロの前で刃傷沙汰は許しません。ハイネさん、弁えなさい」
「はいはい」
「ドッベ騎士団長も、先ほどわたくしが言った言葉を忘れぬように。アナタがどうしてもハイネさんを認められないと言うなら、アナタに騎士団を去ってもらうだけのことです。先日アナタに起草を命じた騎士団の改革案、進捗はどうなっています?」
「…………………………ッッ!?」
最後の一言がとどめとなって騎士団長を無言でプルプル震わせた。
顔は茹でダコのように真っ赤だ。
まあこの場合、教団の最高指導者が完全に味方だという事実は大きい。
教主ヨリシロ、光の女神インフレーションの転生者。
闇の神の転生者である僕を追いかけ転生してきたという恐ろしい執着のもち主。ぶっちゃけ怖いが、こういう時だけ頼りにするのはムシがいいだろうか?
「ですがハイネさん」
ん?
「ハイネさんも騎士団の一員となったことは事実。わたくしとしては双方がいがみ合うのではなく、融和によって騎士団をよりよくして行ってほしいと願っています」
え?
「よって、ハイネさんにはわたくしからの直々の任務を申し渡しますので、是非とも受けてください。アナタが命令に従う義務を負う相手はカレンさんだけではありません。光の教団のトップであるわたくしにも当然、従っていただきますわよね?」
なんか雲行きが……?




