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328 大愚の信

「ササエちゃん!?」「ササエ!?」「ササエッち!?」


 突如告げられたその名に、戸惑うのは仲間たち。

 カレンさん、ミラク、シルティスの三人。


「やっぱり本当にササエちゃんなの!? 信じがたいけどササエちゃんなの!?」

「イエスアイアムだす! この不肖ゴンベエ=ササエ! たとえ乳がデカくなろうとも皆さんの仲間ですだす!!」


 力強いササエちゃん。

 その身をマントルと同居させようと、体を乗っ取られたわけではないようだった。


「それより何だすか!? 皆様寄ってたかって雁首揃えて、ウチの神様であるマントル様を苛め抜いてはいかんだす! 遺憾の意を示すだす!!」


 とササエちゃんはお冠だ。

 一体どういうこと!?


「ええと、……でもねササエちゃん、私たち、マントル様の言うことには到底承服できないの。モンスターはもはや過去とは違い……!」

「そんなことはどうでもいんだす!!」

「「「ええぇ~~~ッッ!!」」」


 主張の滅茶苦茶さもさることながら、凄むたびにバッスンバスン揺れるおっぱいの迫力に乙女三人圧倒される。

 僕も圧倒される。


「大切なのは、オラが神様を信じるか信じないか、それに尽きるんだす! それの前では神様の言うことな自体は些末なことなんだす!!」

「ええぇ!? それ、そんなに些末なことでもないんじゃ……!?」

「カレン姉ちゃんもミラク姉ちゃんもシルティス姉ちゃんも、それぞれに信じる神様がおられますだす。オラにとってはそれがマントル様だす。オラたちは神様を信じるからこそ、そのお言葉が尊いものではないんだすか!?」

「で、でも……」

「だからこそオラは、マントル様のお言葉なら従うんだす! 内容とか関係ないだす! 魔王さんを斬り刻んで、くっ付けて、また斬り刻んでからくっ付けて斬り刻むんだす!!」

「嬲り殺しッッ!?」


 ササエちゃんがマントルに手放しに賛同するなんて……!?


「あのー、これ、なんか既視感じゃない……?」

「シルティスもそう思うか? 実はオレもだ……!」


 と、及び腰のミラクとシルティス。


「私たちがササエちゃんと初めて出会った時。あの時も地母神様が下されたという神託の内容に、私たちが否定的な意見を言うと、ササエちゃんは怒って戦闘にまで発展してしまった……!」

「そして今は、地母神マントルの直接のお言葉が伝えられて。アタシたちがそれに反対したらササエッちが怒りだした……!」

「いずれも同じパターンだな……!」


 地水火風光の五大教団にとって、それぞれが信奉する神こそ絶対不変の存在。

 それを否定することは、たしかに殺し合いに発展したとしても文句は言えない。

 ササエちゃんは、それを忠実に実行した。そして今も実行している。


「地母神マントル様は、オラたちが立って座って寝る大地をお作られ、日々の糧を実らせてくださいますだす! その上ゴーレムという人間の友だちまで送ってくださって、そんな地母神様を信じぬのは罰当たりだす!!」

「ササエちゃん!!」

「地母神様を信じ抜いてこその地の教徒だす! 信じることのできない教徒は教徒じゃないだす! おい、そこの魔王!」

「はいッッ!?」


 大鎌の切っ先を突き付けられ、大いにビビるウリエル。


「お前はどうするだす!? マントル様の御意志によって、オラはお前様を滅殺するだす。それが嫌だというなら抗うだす!」

「え?」

「オラが村のイシュタルブレストでは、地の教徒は、どっちが正しいかわからん時にすることは一つだす! 殺し合いだす! 死んだ方が間違っとるんだす! いいだすか!!」

「ええええええええええッッ!?」


 あまりに滅茶苦茶な主張。

 しかし……。


「まあ! まあ! ワタシの勇者さんは、ワタシの言うことを信じてくださるんですか!?」

「当たり前田のタイソンだす! 信じないヤツが信者なんて言ったらそれこそウソだす!!」

「ワタシ、そんなこと言われたの初めてだわ……! 嬉しい……!」


 ここに来る前、ササエちゃんのお婆さんは言っていたじゃないか。

『ササエちゃんが自分に一番よく似ている』と。

 小さい頃はぼんやりして、考えが足りないように見えるけれど、だからこそ一意専心貫き通し、信じるものに向かって一直線駆けることとができると。

 その挙句の果てに生まれたのが泣く子も黙る大勇者『根こそぎシャカルマ』。

 その資質を大いに受け継いだササエちゃんも、お婆さんと同じ形振りかまわず信じ抜く力をもっている。

 生半可な賢しさでは辿りつけない領域に至ることのできる、大いなる愚かさ。


「……ササエちゃんに任せてみよう」

「ハイネさん!?」


 僕の決断に周囲は戸惑うが、僕は賭けてみたくなった。

 時にはトラブルの元になったりする、心の狭いヤツを苛々させたりするササエちゃんの愚かさ。

 その愚かさが時に、不可能を可能に変えることだってできるかもしれない。

 ただの愚かさでない、大勇者の血を受け継いだ孫だから持っている特大の愚かさならば。

 凡人並みの賢さでは想像も及ばない大きなことを成し遂げられるかもしれない!

 この闇の神エントロピーですら諦めた……。


「地母神マントルのあまりにも単純すぎる心を、誰かと繋げられる不可能を、可能にできるかもしれない」


 今回の魔王との戦いにおいて、人間は魔王の心すら変えてみせたではないか。

 ならば神の心だって変えることができるはず。

 ササエちゃんの愚かしいまでに信じる心をもってすれば。


「……受けて立てウリエル」

「えッ!?」

「お前が一人で戦うのだ」


 同輩ミカエルに背後から呼びかけられ、樹木人間の魔王は大いに震える。


「我ら魔王は、皆それぞれ試されなければならぬようだ。自分が何者なのか、何をすべきなのか。それぞれがそれぞれに戦い抜いて、答えに到達しなければならない」

「いや、何言っているのミカエル?」

「地の勇者と地の神が立ちはだかるこの場は、ウリエルお前の舞台であることに間違いない。オレもガブリエルも、自分の戦いの末に進むべき道がおぼろげながら見えてきた。ウリエル、お前もまた、その段階を踏むべきだ!」


 火の魔王は熱く言い放った。


「今はまだない結論も、戦いの末に現れるはずだ! 存分にぶつかり合え! ぶつかり砕け、破片が混ざり、自他の区別もわからぬほどにぐちゃぐちゃになって、今はない答えを見つけ出すのだ!! ……それはつまり、漢たるもの熱血たれ、だ!!」


 ああ。

 この言葉が出たらもう納得するしかないな。


「ええい! わかったさ!!」


 ウリエル、ヤケクソの叫び。


「どうせ最初からそのつもりだったんだ!! 地の勇者、キミと戦って勝てば、生き残るべきは僕の方だと最初からそういうルールだ! 審判を下そうじゃないか、この地上に生き残るべきはモンスターという審判をね!」

「その意気だす! 斬り刻み甲斐があるだすよ!!」


 ササエちゃんは、相変わらずの艶体のまま、すべてを斬り刻む大鎌をかまえた。


「それでは始めるだす! マントル様を信じ抜いて、魔王さんの在り方を決めるための死合いだす!! どっちが死んでも恨みっこなしだすよ!!」

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