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326 鏖殺勇者

 目の前では信じがたいことが展開されていた。


「そんなバカな……!!」


 戦況は圧倒的に有利なはずだ。

 ミカエル、ガブリエル、ウリエルの魔王三人。

 カレンさん、ミラク、シルティスの神勇者三人。

 計六人の世界最上級戦力が集いながら、神勇者ササエちゃんの一人を倒せずにいる!?


「フェネクス・ハンマー!!」

「プレデアス・バースト!!」


 火の魔王&神勇者による同時攻撃は、もはや連携がすっかり様になるほどだったが、それでもササエちゃんを脅かさなかった。

 高威力な分、大味な火の攻撃は、ササエちゃんほどの素早さと体術をもってすれば容易くかわされてしまう。


「どんな攻撃も当たらない……! やっぱり肉薄して、至近距離から撃ち込むしか……!」

「ダメよカレンッち! 今のササエッちの鎌に斬れないものはないのよ! あの子の間合いに入った瞬間、最低十七個に分割されちゃうわよ!」

「魔王と神勇者の間でも神気の相性は効く。水属性の私たちじゃ、地のアイツは扱いづらいわ……!!」

「助けて、助けてぇーーーーッ!?」


 六人のうち、シルティスとガブリエルは神気の相性で封じられるとしても、これだけの数の差をものともしないなんて異常だ。

 やはりササエちゃんは、神勇者の中でもさらに飛びぬけた位置にいる。

 それは、地母神マントルが自身の一部だけでなく、すべてをササエちゃんに注いだからか?

 今のササエちゃんはまさに、神と完全合一している……!?


「くっそ! こうなったらこっちも神気の相性で押し切るしか……! 地属性に強いと言えば風属性! ヒュエッちが神勇者になったって報告はまだなの!?」

「ラファエル! ラファエルのヤツはどこに行ったの!? ウリエル知らないの? アナタ、アイツと仲良しでしょうが!」

「知らないよ! アイツはアイツで人間を攻撃する計画を進行中なんだ!!」


 有効な打開策を見つけられず、魔王神勇者連合軍は、天下無双であるべきなのに動揺せずにはいられなかった。


 ……こうなったら仕方がない。


「ダークマター・セット!!」


 吹き荒れる斬死の嵐に、この僕――、クロミヤ=ハイネが躍り出た。

 暗黒物質で形作られた盾が、斬れぬものなき大地の鎌を止める。


「うっそ! ハイネッち防ぎやがったわ、あの鎌を!?」

「やはりあの男だけは計り知れん……! クロミヤ=ハイネがいる限り、最初からモンスターが人間に勝利するなど不可能だったか……!?」


 ササエちゃんの大鎌が何でも斬り裂くことができるのは、地の神気が固体に作用して、究極の硬さと鋭さを与えているからに他ならない。

 だからこそ、すべての神気を消失させる暗黒物質に防げない道理はなかった。

 さらに暗黒物質の第二性質――、重力操作にて斥力を発生させ、迫りくる大鎌の刃を反発させる。

 ……暗黒物質の第一性質と第二性質。両方を合わせないと防ぐことができないササエちゃんの攻撃って……!


「もうやめろササエちゃん!!」


 ここから暗黒物質を広げ、標的を包み捕えようとするが、その前にササエちゃんは素早く後退して、暗黒物質の間合いから逃れる。

 こっちの意図を読んでいる……!?

 やりにくいことこの上ないなササエちゃん!!


「とにかくここまでだ! 戦いを止めるんだ! 何か事情が変わってきた! 一度状況をしっかり把握し直すためにも、神勇者モードを解除するんだ!!」

「どうしてですかあ……!?」


 ッ!?

 その口調……!?

 ササエちゃんの口から出てきたはずの言葉は、ササエちゃんのものとは明らかに違った。

 この口調はむしろ……。

 マントルか!?

 マントルまさか……、ササエちゃんと完全合一することでササエちゃんの体を乗っ取ってしまったのか!?


「神々は決定したのでしょう? 人間さんを守るために魔王さんを滅ぼすって。だから勇者さんたちに神の力を与えるって。それが神勇者」

「うっ……」

「その神勇者に、魔王さんたちを滅ぼしてもらう。何が間違っているのです? タイミングのよいことに、目の前には三人も魔王さんがいるのです。ここで一挙にやっつけてしまおうではないですか」


 ササエちゃんの口を借りたマントルの主張は、どうしようもなく正しい。

 思い込んだら何処までも一直線に行ってしまう彼女の性質もそのままに。


「何なのだ……!? あのササエ、本当にササエなのか?」

「まるで違う人が、中に入って喋っているみたい……! ササエちゃんぽさがまったく感じられない……!」

「外見だって別人そのものだし。これ最初からササエッちじゃなくて、ハイネッちがフカしてたって可能性もあるんじゃない?」


 カレンさんたちも異変に気づきはじめ、動揺している。

 神の一部どころか全部を注ぎ込み、ササエちゃんと融合したマントル。そのせいでササエちゃんの人格そのものをどこかへ追いやって、身体の支配権を得てしまうとは……!


「……光、火、水の勇者の皆さん。私はマントル、地母神マントルです」

「「「!?」」」


 マントルが、カレンさんたちへ直接語りかけた!?


「アナタたちのご活躍は、ノヴァさんやコアセルベートさんたちから聞き及んでいます。人々のために頑張るアナタたちは、本当に偉いですね」

「は、はあ、どうも……!?」


 マントル独特の空気に、ペースを掴み損ねるカレンさんたち。


「ワタシもアナタたちを見習って、今度こそ人間さんたちのお役に立てるよう頑張ります。頑張って魔王さんたちを滅ぼしますので、もう邪魔しないでいただけますか?」

「いやいやいやいや……ッ!!」


 さすがにそこは聞き流せなかった。


「待ってください! たしかに魔王と人間は、最初は敵対していましたが、今は変わりました! 争いではない、別の道を行ける可能性が現れてきたんです!」

「その道を行くためにも、今は戦いを止めてほしい! 神なる者よお願いだ!」

「っていうか、ササエッちの口から地母神が話してるって、もしかして体乗っ取っているの!? こないだ汚いコアセルベートがガブリエルにしたのと同じじゃん!?」


 さすがシルティスそこに気づいたか。

 マントルは、成長したササエちゃんの体で、人差し指を頬に当てつつ言った。


「その別の道を行って、人間さんに何かいいことがあるんですか?」

「「「え?」」」


 率直に聞かれると答えづらい問題はある。


「そう面と向かって聞かれると……、何と答えていいか……!」

「人間とモンスターが共存するということか? それがどういう影響を及ぼすか、さすがにまだそこまで考えたことは……!?」

「社会的にも複雑な問題になってくるわね……! 哲学的にも。生命とは何か? 生物と非生物を分ける基準は? これまで争い合ってきた憎しみの清算は? 考えれば考えるほどこんがらがってくる!!」


 カレンさんたちは複雑に考えすぎて思考迷路にはまり込んでしまった!

 それに対してマントルの行動方針はあまりに明快だった。


「魔王さんたちは、人間さんたちを滅ぼそうとして非常に危険です。だから抹消します。人間さんたちの危機を砕いてあげれば、今度こそワタシも人間さんたちのお役に立てます!!」


 思えば、前のグランマウッドの一件でも、マントルの行動は単純の一言だった。

 人間は、生きるために労働し、争い、苦しみを背負う。その苦しみを取り除いてやれば幸せになれる。その論法はあまりに単純だった。

 しかし人間は単純さだけでは割り切れない。生きることは苦しみと不可分だけど、それと同じくらい喜びや楽しみとも不可分なのだ。

 それを苦しみと一緒くたにし、もろとも取り除こうとするのはやはり乱暴すぎる。

 だからこそ過去、僕とマントルは最後まで折り合えず、ブラックホールで消し去るしかなかった。

 単純さは、こまごまとした複雑さなど寄せつけぬほどに強い。

 僕たちはまたしても、マントルの単純さに弾かれて、どちらかが滅びるまでの戦いをしなければいけないのか?

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