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319 水の姉妹

 ここで一旦視点を移しまして。

 どうも、光の勇者コーリーン=カレンです。


 水都ハイドラヴィレッジでの過酷な戦いを終え、事なきを得た私たちは、実はまだ水都に残っていた。

 一度は『生命原液』なる怪しい液体に変えられて生死の際にあった人々。その人たちは水都ハイドラヴィレッジの総人口と同じで、しかも水都は観光都市だからたまたま訪れていた観光客まで被害に会ってて、つまりは物凄い数。


 それらの人々を救助し、元いた場所へとお送りするのにも相当な手間がかかるということで、他都市の勇者である私やミラクちゃんも喜んでそのお手伝いをするのだった。


 困った時には助け合い。それが新たなる五大教団のお付き合いの仕方。

 そんなこんなで時間が流れていった。

 そうして、ある程度救助活動も完了し、一段落着いた頃のこと……。


             *    *    *


「んふふ~、お姉さま~!」

「はいはい」

「お姉さま、お姉さま~~!!」

「はいはい。……て、何ですの、これ!?」


 水の勇者シルティスちゃんから抱きつかれて、先代水の勇者ラ=サラサさんは混乱の極みにあった。

 それもそうだろう。

 シルティスちゃんとサラサさんは、数ある新旧勇者の間柄の中でも、もっとも尊敬の念がない組み合わせの一つ。

 姉妹弟子である火の勇者ミラクちゃんとキョウカさんや、従姉妹同士である地の勇者ササエちゃんとヨネコさん。さらに風の教主シバ様を挟んで義理の姉妹でかつ仇敵同士である風の勇者ヒュエちゃんとジュオさんなどと違い。

 勇者の先輩後輩という以外に接点のない他人同士の二人。

 シルティスちゃん自身、先輩のサラサさんに興味のある素振りなどほとんど見せてこなかった。

 それなのに。


「お姉さま大好き~。ふふふふふふ……」


 唐突なるお姉さま呼ばわり。そしてそのままサラサさんのおっぱいに顔を埋める馴れ馴れしさ。

 前後を知る者であれば「何があったの!?」と戸惑わずにはいられないでしょう。

 でも私は、この理由を知っている……!


「あの……、サラサさん、ガブリエルとの戦いでけっこう活躍したじゃないですか?」


 見かねて状況説明に進み出る私だった。


「活躍? そんなことないですよ。虎の子の必殺技も全然通じんかったですし……!」


 そう、シルティスちゃんの留守中、水都の守りを引き受けていたサラサさん。そのタイミングでの魔王ガブリエルの襲来に、圧倒的戦力差にも粘り強く、シルティスちゃんの帰還まで踏みとどまった。

 そのことが、後輩たるシルティスちゃんを大いに感心させた。

 さらに最後で見せた超強力な必殺技。シルティスちゃんとの新旧勇者戦では『強力過ぎる』という理由で封印されていたことも、シルティスちゃんに響いたようだった。


 敗北したサラサさんはその後『生命原液』からの還元を果たして無事息災なのだけれど、それからずっとシルティスちゃんにベタベタされている。


「アタシ! サラサお姉さまのこと見直しました!!」


 シルティスちゃんは目をキラキラ輝かせる。


「たった一人で超不利な状況に置かれても諦めない心! 最後の状況で叩きつけた切り札の凄さ! もうカッコいいですサラサお姉様尊敬しちゃう!!」


 という感じでリスペクト受けまくりなシルティスちゃんだった。


「まあ……、尊敬してくれるんは嬉しけど。元から勇者の先輩なんやから最初っから尊敬してほしかったなあ……!」


 まこと言われる通りでございます。


「まあシルティスちゃんって、水の教徒らしく人を値踏みするのに抜け目がないから……」


 相手に本当に値打ちを見つけないと、尊敬する演技すらしない突っ張ったところもあるしね。


「それで相手が長いものだと判断したら、巻かれに行くのに躊躇がないからな。本当に抜け目のないヤツだ……!」


 私の隣に並んでいる火の勇者ミラクちゃんも呆れ半分感心半分といったご様子。


「あ! いいこと思いついた! アタシ勇者卒業したらサラサお姉さまの旦那さんの側室になっていい!?」

「!?」

「そしたら、正室のサラサお姉さまと姉妹関係になるじゃない!」


 シルティスちゃんらしいとんでもない提案。


「ぎゃあああああああ!? やめてください、やめてください! あの人、アイドルとしてのアンタの大ファンなんですよ!! その上、勇者の肩書きがなくなろうと現教主の娘であるアンタが嫁いで来たら、ウチの方が側室の座に追いやられますわ!!」


 サラサさんにとっては、尊敬の念を抱いた今のシルティスちゃんの方が迫りくる怪物であるという皮肉。


「ま、仲よきことはいいことだよなあ……」


 そしてこの風景に対して、ミラクちゃんが早々に思考を放棄した。

 私も思考を放棄したい。


「でも、これこそが文化の根源というべき光景なのね……!」

「「?」」


 私とミラクちゃんの他にも、乳繰り合う新旧水の勇者に注目する……、人? が一人。

 それが誰かと言うと……。

 ……その、魔王。


「私、文化についてまた一つ深いところを学んだわ。今回の戦いを通して。……文化の根源とは、即ち愛なのね!」

「はあ……」

「他者を愛し、敬おうとする意思があるからこそ、それを表現するため様々に知恵を絞って工夫する。その工夫こそが文化なのよ! 私たちモンスターが文化を我が物とするためにも、まず愛を知り、修得しなければいけないんだわ!!」


 ……と、水の魔王ガブリエルさんが仰っています。

 戦いが終わったというのにまだ帰ってないの、この魔王。


「おー! いいこと言うじゃん魔王!! じゃあ、愛を知るためには、まず何より行動してみないとね!!」

「そうね、何でも行動しないと手に入らないものはないわよね! 愛を手にするためにすべきこととは!?」

「もちろん愛する人に愛すると表明することよ! その言葉こそ、もっともシンプルな文化! アンタも一緒に叫んでご覧、サラサお姉さま大好き!」

「サラサお姉さま大好き!!」

「えええええええええええッッ!?」


 一番驚いてるのは大好きと言われているサラサさん当人だった。

 ご愁傷さま。


「そしたら今度は抱きつきハグよ! 大丈夫、サラサお姉さまは大きな人だから、魔王だって受け入れてくださるわ!!」

「サラサお姉さま大好きー!」


 と両手を広げて迫ってくる魔王ガブリエルに、当然と言うべきかサラサさんは緊急事態。


「ちょまッ! ちょっと待っておくんなまし!? ……いいや待たぬ、ここで逃げたら女が廃りますわ! 後輩だろうが魔王だろうがまとめて受け入れたる! ドンと来なさいぃーーーーッッ!!」


 ああ、受け入れちゃった。

 この場合、サラサさんに母なる海のごとき包容力があるのが却ってピンチを促進したように思える。

 ……まあ、仲よきことはよいことだよね。思考放棄。

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