316 不器用の用
「ダークマター・セット」
ダメージ+99999999999999999999999。
ササエちゃんの作り出したゴーレムは消滅した。
「ほんげえええええええええええッッ!? だすッ!?」
またしても吹っ飛ばされるササエちゃん。
これは明らかにやりすぎたか?
「あんれまあ、噂には聞いとったけど、お兄さんてばホントに驚く腕っぷしだよぉ」
「『御柱様』も吹っ飛ばしたんはほとんど兄ちゃん一人の手柄だからね。ササエごときじゃ逆立ちしても敵わんさ」
「かなわんさー!」
「ねえちゃ、よえぇー!」
観戦するお婆さんやヨネコさんの隣に、いつの間にかヨネコさんがお腹を痛めて生んだ子どもたちも現れていた。
一家でササエちゃんの惨敗をおかずにおにぎりを頬張っている。
「無念だす! 己の不甲斐なさに断腸の思いだす!!」
拳を地面に打ち付けて、悔しさアピールするササエちゃんだった。
「がんばれ、ねえちゃ」
「あきらめたら、そこで死合いしゅーりょーだぞ、ねえちゃー」
それを慰める子どもども。
ササエちゃんから見たら従姉妹のヨネコさんの子どもだから……、何て言うの?
「でも、ここまで強い人がおるんだったら、魔王さんのこと全部お任せしてもいいんでない? オラもさっさとこの騒動収めて、四人目の子作りに励みたいんだよぉ」
「軟弱だす!! ヨネコ姉ちゃん!!」
「ぐほぉッ!?」
ササエちゃんの繰り出した斬影的な肘打ちが、ヨネコさんの腹部にクリーンヒット!?
やる時にはやりすぎるササエちゃん!!
「世界を守る重責を担う勇者が、そんな弱腰でどうするだす!! 地の教団と地都を守るのは、誰でもない地の勇者のお役目だす! オラはそのお役目を誰にも肩代わりなんぞさせないんだすよー!!」
「かっこいいぞ、ねえちゃー」
「死ぬな、かあしゃー」
情熱に燃えてるなあササエちゃん。
頑張る彼女に何かしてあげたいという気持ちになってくる。
ここは仮にも手合わせしてあげたんだし、何かアドバイスらしいことでも言っておくか。
「あのー、ササエちゃんの戦い方見てて思ったんだけど。もしやゴーレムを使いながら、自分でも戦おうとしてない?」
「だす?」
新旧勇者戦の辺りから、ササエちゃんの戦法はガラリと変わった。
ササエちゃんは、あの腹黒女ヨリシロから自身の神気でゴーレムを作り出す術を仕込まれ、ライフブロックなしに何度でもゴーレムを生産できるようになった。
通常のゴーレムは、地のマザーモンスターが生み出したライフブロックを核にして組成されるが。地の神気を究めたササエちゃんは、自身の錬金造形だけで人型の土くれを作り出すことができる。
グランマウッドが消失し、ライフブロックの供給が断たれた今の状態でも、破壊を厭わずゴーレムを戦闘に使用することができるという利点があるが……。
「でもそれって、ササエちゃんにとって相当負担がかかるよね?」
巨大なゴーレムを作り出すには、その体積に比例した大量の神気が必要になる。さらに人間に対応した数多くの可動部を連動して動かすためには、繊細な操作が必要になるはずだ。
それら思い巡らせるだけで、自作ゴーレムを戦闘に使用することが気力体力を著しく消費させること疑いの余地もない。
「その上でササエちゃんは、ゴーレムの操縦に専念することなく、自分でも戦おうとしている」
たとえば、ゴーレムに上から拳打ちさせると見せかけて、ササエちゃん自身は足元から突進してきたり。
ササエちゃん自身とゴーレムで敵を前後に挟み撃ちするとか、そんな連携を過度に模索していた。
「そうなんだよぉ……!」
鳩尾に肘鉄くらって悶絶していたヨネコさんが、もう復活した。
「本来ゴーレム使いの勇者は、戦いを全部ゴーレムに任すのが定石なんだよぉ。ライフブロックのある通常のゴーレムでも、戦闘に対応できるぐらい素早く細かく指示出しするには、相当な集中力が必要なんだ」
自身は肉弾戦特化型としてゴーレムを忌み嫌っていた先代ヨネコさんでも、事情に詳しいのはさすが勇者。
「だからササエちゃんも、本来はゴーレムの操縦に専念する方がいいんだよぉ。それなのに自分自身も前線に出ようとするからこんがらがって、自分かゴーレム、どっちかの動きが疎かになる。そこを突かれてオラとの手合わせでも負けてばっかりなんだよぉ」
新旧勇者戦で初めて見た時は、強力な新必殺技の誕生! と思われた女神ゴーレムも、完成の域には程遠いということか。
ガチで戦えば、まだまだ経験豊富なヨネコさんが数枚上手。新旧勇者戦で彼女が自発的に降参していなかったら、的確に弱点を突かれて敗れていたのはササエちゃんだった。
……という評価はけっして的外れじゃない。
「信念を曲げないのはオラの勇者道だす!!」
しかしササエちゃんは頑なだった。
「オラは誓ったのだす! ゴーレムに戦わせるのではなく、ゴーレムと一緒に戦う勇者になろうと! オラは地の教団の人々だけでなく、地のゴーレムも守れる勇者になりたいんだす!」
ササエちゃん……!
そんなことを考えていたのか……!
「それに、これから斬り結び合う魔王どもは尋常ならざる相手なんだす。ゴーレムにすべてを任しただけじゃ到底勝てないと愚考するだす! そのためにもオラはオラで、ゴーレムはゴーレムで縦横無尽に動き回らねば! できることを最大限できるようにならねばいかんのだす!!」
ササエちゃんはそこまで考えて無茶な特訓を……!?
あんまり考えていないアホの子だとばかり思っていたが、やはり勇者なんだなササエちゃん!!
「単に頑固者なだけさね」
と冷静に言い放つ教主お婆さんだった。
「頑固は、地の教徒の特色みたいなもんさね。大地にしがみついて、そこから芽吹き実るものだけを頼りに生きてきたからよ。撒いた種が絶対育つと信じなきゃ、そんな生き方はできねえ」
一日、二日、待てど暮らせど種から芽が出ず、賢しい者が『諦めろ』と囁いても頑なに耳を塞ぎ、ただひたすら自分ではどうにもならないモノたちのマイペースな成長を待ち続ける。
必ず実ると信じて待つ。
そうやってイシュタルブレストの人々は千六百年を生きてきたのだ。
「ササエは、そんな地の教徒のそれらしいところを、もっとも色濃く受け継いだんだろうねえ。だからこそ地の勇者にもっともふさわしいのかもしれんさね」
なんか厳しいことを言うのかと思ったが、終わりまで聞いてみたらササエちゃんのことを身内贔屓する結びにしか聞こえなかった。
前々から思っていたけど、このお婆さん孫のササエちゃんに滅茶苦茶甘くない?




