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314 祝福消え去り

『無名の砂漠』で解散する間際、最後の意味ありげなやり取りがあった。


「ハイネさん、アナタに預けておきたいものがあります」

「はい?」


 炎牛ファラリスの背に腰かけ飛び立とうとするヨリシロが、何か思い出したようにこちらへ戻ってきた。


「先ほどコアセルベートから、神勇者の思わぬ問題点を報告されましてね。即興ですが改善策を考えてみました」


 とヨリシロは何かを手の平に乗せて差し出してきた。

 それはキラキラと光る宝石だった。


「うひゃああ、売ったら高そう……!」

「貴金属類を一目見てそんな感想が出るのは神としてどうかと思いますが……。『ダイヤモンド』です。カレンさんに会う機会があれば渡しておいてくれませんか」


 そう言ってヨリシロは、透明に輝く宝石を僕の手に移す。


『ワシもお前に預けとく、「ルビー」じゃ』

「私からは『アクアマリン』を」


 ノヴァ、コアセルベートからもそれぞれ受け取り、そしてヤツらは去って行ってしまった。

 ヨリシロは炎牛ファラリスの背に乗って、ばひゅーん、と飛び立ち。シバは普通に小型飛空機で帰還。最後にコアセルベートも、仮初の体である水聖メフィストフェレスのの肉体にそういった機能でもついているのか、気づけば霞のように音もなく消え去っていた。


 残ったのはこの僕と、マントルの『フェアリー』のみ。


「本当に僕一人に押し付けていきやがった……!」


 たしかに僕ことクロミヤ=ハイネは、一応光の教団に所属してはいるけれども実質的な役職はなく、暇のように思われてるけどさ。

 それが却って何でもやってくれるように認識されて便利屋扱いされてない!?


 これはマズい流れだ。

 光都に戻ったら早急に待遇改善を模索せねば。


 でもその前に……。

 僕は眼前の巨大な問題に立ち向かわなければならなかった。


「はい? 何です?」


 男性の僕を遥かに超える身長の、巨女『フェアリー』。

 即ちマントルを。


             *    *    *


 このままぼんやりしているわけにはいかないし、僕も『無名の砂漠』を去ることにした。


「去って……、何処に行こう?」


 普通に考えれば光都アポロンシティに帰るだけだが、今の僕には厄介な道連れがいる。

 地母神マントル。

 彼女を何故復活させたか理由を考えるなら、その理由を完遂させるためにも、あそこへ直行すべきだろう。

 地の教団本部のある街。

 地都イシュタルブレスト。

 そこにいる地の勇者ゴンベエ=ササエちゃんを、地の神勇者とするために。


              *    *    *


 そんなわけでやってまいりました地都イシュタルブレストに。

 ここは『無名の砂漠』から比較的近辺にあるため、ついでに寄った程度の感覚で来れる。ここに来るのは二回目だ。

 前に来た時と今回とでは、かなり印象が違った。

 その最大の理由は、街の中心に立っていた巨樹グランマウッドが消失したから。

 かつて天を支えんほどであった巨大な幹も、天を覆わんばかりに広がる枝葉もなくなり、空がやたらと大きく見えた。


「我々もまだ慣れずに戸惑っておりますよ」


 イシュタルブレスト郊内の小型飛空機置き場から出迎えてくれた地の教団の職員が、案内がてら当地の様子を教えてくれた。

 かつての事件で大活躍した僕は、今では顔馴染となって扱いもいい。


「勇者様たちが『御柱様』を退治してくださったあとも、しばらくは切り株だけ残っとったんですよ。それもある時フッと消えてしまいましてね。それで皆思ったんですわ。『「御柱様」は完全に去ってしまわれたんだなあ』と」


『御柱様』というのは、地のマザーモンスター、グランマウッドの人間側からの呼び名だ。

 巨大な樹体から地属性モンスター、ゴーレムを生み出し、そのゴーレムが世にも珍しい人の指示で動くモンスター。

 人間を遥かに超える巨体とパワーを持つゴーレムは労働力として重宝し、人とモンスターが共存するという信じがたい世界が、かつてこのイシュタルブレストで実現していた。


 いや、その調和は今でも続いている。

 マザーモンスターたるグランマウッドは消滅してしまったが、ヤツが健在時に生み出したゴーレムは今なお数千単位で残っている。

 供給源を断たれたため、これからゆっくり数を減らして消滅していく運命だが、それでも残ったゴーレムは人々の指示の下、様々に働いていた。


 その様子を、職員さんに案内され地の教団本部へ向かう傍ら、あちこちで見かけることができた。

 いつかは消えてしまうこの風景を、イシュタルブレストの人々はグランマウッド健在の頃よりも切実に愛おしんでいるようだった。


「……で、グランマ……じゃなく『御柱様』が消えたあとは?」

「地面に大きな穴ぼこが空いただけですよ。やはり『御柱様』ほどの巨樹になると地中に張った根も大きいでしょうから。その影響で地盤沈下でも起きやせんかって一時は心配されとりましたが、何事もなく過ぎました」


 恐らくグランマウッドが完全消滅したその時、地の魔王ウリエルが生まれたのだろう。

 ある意味物凄い幸運ではないだろうか?

 人類抹殺を目的とする魔王が、こんな大都市の真ん中で生誕しながら、まったく破壊を行うことなく去っていったということか。

 ウリエルは、他の魔王と比べて気まぐれなところがあるから、ヤツが何を思って街の人々に手を付けずにいたか謎だけれど。

 とにかくイシュタルブレストが魔王の災禍に晒されずに済んだことを、今さらながらに胸を撫で下ろす僕だった。


「さあ、もうすぐ着きますよ」


 僕を案内する職員さんが言った。


「地の勇者ササエ様は、今日も教団本部の修練場で修行三昧ですわ。アナタが訪ねてくれたと知れば、さぞやお喜びになりましょう」


 そう、僕がここに来たのは地の勇者であるササエちゃんに会うため。

 案内役の言う通り、野外を進む僕の視界に、壁や屋根越しにそびえ立つ、大きな女性型ゴーレムを確認することができた。


 あれは間違いない、今を去る新旧勇者戦でササエちゃんが見せた新必殺技。

 ゴーレムの核たるライフブロックを使わず、ササエちゃんが自分の神力のみで錬金作成したハンドメイドゴーレムだ。


 その女神ゴーレムが。

 一瞬のうちにバラバラに斬り刻まれた。


 遠いここからでも確認できる。

 先代地の勇者、イエモン=ヨネコさんの鎌によって。

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