313 世界を守る神
しかし復活させてしまったものはしょうがない。
僕たちはこのマントルで、地の勇者たるササエちゃんを地の神勇者に仕立てて見せるのだ!!
「はあ……、魔王さんに、神勇者さんですか?」
彼女がブラックホールにはまっていた間に起こった数々の出来事を、まず聞かせる。
マントルを含めた四元素が、道具とするために生み出したモンスター。そのモンスターが神の意志を越えてみずからの意志を持ち、独自の行動を始めたことに、さすがのマントルも衝撃を受けるだろうか?
「それは大変なことになっちゃったんですねえ」
そんなこともなかったようだ。
思えば、グランマウッドを巡って僕と争ったことも、もはや忘れてるっぽいし。神の尺度をもってすれば魔王すらも些細なことなのだろうか?
「で、その魔王さんを倒すために、勇者さんたちにワタシたち神の力を与えたいんですね?」
「そうです! そうですよ! 理解が早くて偉いですね!!」
前回のこともあるので、マントルに情報伝達するのは薄氷を踏む思いだ。
情報が足りなければ伝わらないし、過度に装飾すると誤解を生み出す元となってまた暴走しかねない。
今日は背後でヨリシロが目を光らせているから、益々緊張が上がってくる。
「ファイトですぞ! ハイネさん!」
そしてコアセルベートの善意がウザい!
汚濁だった時も当然ウザいけど、蒸留したら蒸留でまたウザい!
「わかりました! ワタシも協力させていただきます!」
マントルは高らかに宣言した。
「クェーサーさんもノヴァさん、コアセルベートさんも協力するんですから、ワタシだって協力させていただきます!!」
コイツまた流されたな。
「流されたな」『流された』「流されましたね」
全員の意見がピッタリ一致した。
「それでいいのです」
ヨリシロが冷静に言う。
「この子が自分の意志で動くと必ず破滅的なことになるのですから、他人に追従するぐらいでちょうどよいのです。それが一番、被害を最小限にできます」
「いいえ! そんなことありません!」
すかさずマントルが無邪気に答えた。
「ワタシ、今度こそ人間さんのために役立つ神になってみせます! ワタシわかったんです! ワタシだって、やれば人間さんを幸せに導けるって! エントロピーさんに褒められてわかったんです!」
「「『「…………」」』」
作戦ターイム!
僕はマントルの見張りにヨリシロだけを残して、他全員を招集した。
「おい! 前回の騒動をすっかり忘れてると思ったら、微妙な形で引きずってやがるぞ!」
『しかも一番ネックなモチベーションにかかってやがる! どうすんじゃ!? 過度なやる気は絶対暴発する元になるぞ!?』
「既に前例が出来てしまってますからねえ。同じ条件、同じ方法でまったく違う結果を求めるのは狂気の沙汰だという言葉もあります」
どいつもこいつも不安を掻き立てる意見しか言わなかった。
「おいコアセルベート! お前以前マントルを使って監視やらせたり僕のこと陥れさせたりしてたろ! あの要領で行動をコントロールできないのか!?」
「それは以前の私の所業です。他者の心を制御し操ろうなど、道義に外れた行為は今の私には許しがたきこと」
『コイツ妙なタイミングで聖人化しやがって……!』
これはいかんな。
有効な手立てが見つからないままどんどん不安が掻き立てられていく……!
「いいのではありませんか?」
そこへ、マントルの頭をぺチペチしながらヨリシロが言った。
「形はどうあれ、この子がここまで自発的に誰かのためになろうとしたことは、かつてなかったことです。わたくしの知る限り」
「あうあうあ~」
頭のぺチペチ叩く手が、いつの間にか頭をグリグリ撫でる仕草に変わった。
「マントルだけではありません。クェーサーもノヴァもコアセルベートも、いつの間にか気づいたら、元の立ち位置から随分と変わっています。一体何者の影響によるものでしょうね。ハイネさんか、それとも人間という生き物か」
『ばばばば、バカ者が!!』
真っ先にノヴァのヤツが反応した。
『ワシは誰の影響も受けんわ! 最強の存在たる神は、誰にも在り方を左右されんのだ! カッコつけのクェーサーや、浄化機能付きのコアセルベートは違うだろうがな!』
ヨリシロは、まだマントルの頭を撫でていた。グリグリと。
「彼らがそうだったように、マントルにも何らかの兆しが表れているのかもしれません。それをたしかめるためにもハイネさん。アナタに見届け役をお願いします」
「え!?」
何故僕!?
「だって、マントルによからぬ行動力を与えたのはアナタの言動なのですから。責任は最後まで取っていただかないと。どの道こんな危なっかしい子、常に誰かが監視していないといけません」
「監視の目は多い方がいいんじゃないかな!?」
せめて僕一人に押し付けられるのを避けようと悪足掻き。
「それもそうですが、この子の復活のため『無名の砂漠』に長くいすぎました。わたくしもそろそろ光都アポロンシティに戻らないと、政務が溜まっていそうです」
もっともらしい言いわけが!
「そうだな。俺もジュオと結婚式場の下見に行く約束があるのだった」
『明日のおやつにスイカとか言うのが出てくる予定だぞ!』
「私も早速世のため人のために働かなければ!」
キミら人の世界を満喫しまくってますね!
創世時代、何のために戦争したんだっけ僕たち!
「そういうわけで、マントルの面倒は一番暇そうなハイネさんにお任せいたしますわ。この子がちゃんと地の勇者さんを神勇者化できるか、しっかり見届けてくださいませ」
「やっと風都に帰れるかー」『ワシも火都に戻るとしよう』「世界中を回って不幸な人々を笑顔にしたい!」
とアイツら、思い思いに散っていくのだった。
僕と、マントルの『フェアリー』だけを残して。
「見ててくださいねエントロピーさん! ワタシ今度こそ、すべての人々を幸せにしてみせます!」
千六百年ぶりにコイツらと一堂に会して、改めて実感できた。
やっぱり僕コイツら嫌いだ!!




