31 人々の触れ合いに幕は上がる
今回より新展開になります。
なので各章を作って区切ってみました。水の勇者編スタートです。
よろしくお願いします。
今朝までのあらすじ。
僕の名はクロミヤ=ハイネ。暗黒神エントロピーの転生者だ。
ひょんなことから光の教団にスカウトされて大都会アポロンシティへとやってきた僕。そこで待っていたのは様々な人々との出会いだった。
特に光の勇者コーリーン=カレンさんと火の勇者カタク=ミラク。
かつて親友同士だった二人の仲を修復するため、僕はノリとテンションだけの行動に出て一騒動ブチかます。
その過程で再会した光の女神インフレーションや火の神ノヴァ。
ヤツら神々の企みは、それなりに看過しがたいところだが今のところ置いておこう。
何故なら。
それらの経緯を経て、今の僕は……。
「お前は何だ? 言ってみな」
「はい、ぼくは、逃亡者れす……………………!」
光の教団に入って後、最大級のピンチを迎えているのだから。
今僕の目の前に立っている女傑さんは、アンガン=レジーネ。光の教団本部の厨房を預かる料理長。
僕の直接の上司ということになっている。光の入団試験を落ちた僕は雑用係に回され、厨房で働くこととなったのだ。
が、ここ連日カレンさんに連れ出されたり炎牛退治に出かけたりと教団本部を空けることが多く、それがレジーネさんの目にどう映ったかというと……。
「アタシは仕事を舐め腐ったヤツが嫌いだよ」
って、なりますよね。
僕はここ数日の無断欠勤者として今まさに罪と罰だった。
縛られて吊るされて二、三発殴られた辺りから記憶が飛び飛びになっている。
「待って! 待ってくださいレジーネ姐さん! これにはとっても深いわけが!!」
同輩のフラストが縋りついて止めてくれている。
アイツ、マジにいいヤツだなあ……。惜しむらくは、それがレジーネさんを止めるのに微塵も役立ってないということだが。
「わけがあろうがなかろうが、どうだっていいんだよ。問題は、このヒヨッ子が厨房の仕事を舐めた。それでアタシを怒らせた。それだけだ」
「イヤ違うんすよ! 事情を聞けば必ずわかってもらえるんすよ! だからお願い聞いて!!」
このままでは間違いなくレジーネさんに殺される。
炎牛ファラリス――火の神ノヴァと対峙した時でもそこまで明確な死のイメージはなかったのに、レジーネさん相手だと何故それを感じるの。
だが、僕の命運はまだ尽きていない。
グレーツ中隊長が来てくれれば、何とかしてくれるはず。あの人も極光騎士団の中隊長クラス。さすがのレジーネさんでもそれクラスの人ならば話を聞くだろう。
グレーツ中隊長なら僕が外でいろいろ活躍してたこともご存知だし、割としょっちゅう厨房に顔を出すので、この騒ぎを聞きつけて来てくれたなら……。
「ちょっとレジーネ女史! だからオレ様の話も聞いてって、ハイネはやむに已まれぬ事情で欠勤してたのオレ様から説明するから、まず殴るのをやめてぇぇ!!」
「すっこんでなグレーツ中隊長」
僕の命運尽きた。
よく見たらレジーネさんの右脚にフラスト、左脚にグレーツ中隊長が縋り付いてるけど、双方まったくレジーネさんの行動を制限できてない。
っていうか騎士団の中隊長ですら止められないレジーネさんはどれだけ女傑なんだ。
「たかが料理屋、なんて舐めた態度をとったヤツは例外なく皿と一緒に流し台に沈めてきた。騎士に比べりゃ地味でくだらない仕事だとでも言うつもりかい? でもねアタシはその仕事を誰より真剣にやってるんだ。中隊長だろうと騎士団長だろうと口を挟ませるつもりはないね」
もはやこのまま怒れる女傑に殴り殺されるばかり。
父さん母さん、帰れなくてごめんなさい……、とか思っていたら。
「なら私から口を挟ませていただきます」
厨房に現れる、新たなる人物。
それがあまりにも予想外の人だったので、見た人は全員驚きの声を上げる。
「勇者様ーッ!?」「勇者様ーッ!?」「勇者カレン様……?」
光の勇者カレンさんだった。
教団を代表する勇者が何故こんな場所に何しに……と思うだろうが、目的は僕以外ないわな。
カレンさんはすぐさま吊るされた僕の姿を確認。
また、多人数に止められている形になったレジーネさんの姿で、すぐさま得心する。
「レジーネさん申し訳ありません」
と深々頭を下げたのである。
それだけでそこにいる誰もが圧倒された。
「お仕事中にハイネさんを連れ出したのは私です。私たちの任務にハイネさんの力がどうしても必要だったんです。責めるなら私を責めてください」
「や……あの……!」
さすがのレジーネさんも、勇者から頭を下げられてなお気炎を上げられるほど図太くはない。
たじろいで言葉を失う。
「ハイネさんは、これからの光の教団に絶対必要な人材です。アナタたちのお仕事を蔑ろにするつもりはありません。ですが、その上でハイネさんを私たちに譲っていただきませんか?」
「…………仕方ないね」
それまでの怖い迫力がウソのように引っ込む。
「光の勇者に頼まれちゃ嫌とは言えないだろ。仮にもここは光の食堂だからね」
「ありがとうございます!」
カレンさんは喜々として僕の方へ振り向くと、そのまま聖剣を抜く。
その聖剣を一振りしただけで、僕を縛るロープが切れる。
「ヒィッ!?」
当然と言うかだがロープと密着していた僕の体にはかすり傷一つない。
あってたまるかという話だが、カレンさんたまにナチュラルで怖い。
「では、ハイネさんは貰っていきます! これまでありがとうございました!」
「は!?」
その言葉と共に、僕は厨房から連れ出された。
そして以後、僕が料理人見習いとしてこの厨房に戻ってくることは二度となかったのだった。




